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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
怪《かい》の章

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初めてのひとり旅

 夏休み、僕は1人で父方の祖母の家に泊まりに行った。


 小学4年になった僕は、どうにか一人旅を出来ないかと考えていた。 それは、ちょっとした冒険心もあったが、クラスのコウちゃんが、1人で電車に乗って、お使いに行った事を武勇伝のように自慢していた事も影響していたと思う。 僕は、夏休みに1人で遠出するのも社会勉強だと、両親への説得を試みた。 結果、バスと電車で2時間半の距離にある父方の祖母の家へと向かうことになったのだ。


  約束は三つ。


 一つ、知らない人に、自分から声を掛けないこと。 道に迷ったり、乗る電車が分からなくなったら、交番のお巡りさんか、駅員に声を掛けるよう言われた。

 二つ、知らない人に声を掛けられても、付いていかないこと。 もし、声を掛けられたら、最低限の会話のみで、切り上げて、人の多いところに向かえ、との事だった。

 三つ、知らない人に名前と出身地を教えないこと。 知らない人に名前と出身地を聞かれた時は、とにかく無視するようにと強く言われた。


 その計画は、8月に入ったところで、決行された。 両親は、お盆になったら、合流すると言うことで、1週間以上、1人で祖母の家に泊まる形になった。

  当日は、着替えとゲーム機で膨らんだスポーツバッグを肩に掛け、こども携帯をポケットに入れ、意気揚々と出発した。 途中、乗り換えの度に携帯から母へ報告を行った。 道中で、お菓子とペットボトルのジュースを買って、最後の乗り換えを終えた、一番長い時間乗る電車の中で楽しんだ。 ペース配分を間違えた僕は、すぐにお菓子を食べ終えてしまったが、残った時間は、持ってきたゲームを音無しでやることで、電車移動の退屈な時間を乗り切った。


 目的の小さな無人駅に着くと、祖母が笑いながら、駅の外で待っていた。 僕は、大きな達成感と安堵感を味わいながら、祖母に駆け寄った。


「たけ坊、久しぶりやなぁ。 元気じゃったか?」


 祖母は、猿みたいにシワシワの顔を、尚更、シワシワにして歓迎してくれた。


 前に祖母の家に来たのは、冬休みの事だったから、かれこれ7ヶ月ぶりくらいだろう。 僕は、学校や友達のこと、両親の近況などを話しながら、三輪の自転車を引く祖母と共に祖母の家へと歩いた。


 祖母の家は、かなり田舎にあり、店と言えば、駅周辺に申し訳程度にあるだけだった。 少し歩いただけで、畑と疎らに民家が建っているくらいの風景が広がった。 坂を上り、川沿いの道を歩いていると、あぁ、婆ちゃん家に来たなぁ、とようやく実感できた。


 祖父は、僕の物心がつく前に亡くなっていた。 祖父と祖母は、同じこの町の生まれで、当時としては珍しい恋愛結婚だったと、以前、教えてくれた事があった。 子供は僕の父を含めて4人で、3人の娘はみな結婚して家を出ていき、唯一の息子だった父も、就職を機にこの町を出てしまい、それ以来、祖母はずっと1人で、この家に住んでいた。 そのせいか、食卓に誰かが居るというのが嬉しいらしく、その日は大層なご馳走だった事を覚えている。


 次の日、僕は、午前中に畑に向かう祖母を見送った後、納屋に置いてあるマンガ雑誌を持ち込み、床に並べて、どう読もうかを悩んでいた。


 祖母は、たまにやってくる僕のために、近所の喫茶店『アガベー』から、廃雑誌を貰ってきて、納屋に保管していた。 もちろん、マンガ雑誌のみである。 『アガベー』は、祖母の家から10分掛からないくらいの距離にある喫茶店で、家族で泊まった時などは、みんなでモーニングを食べに、よく出掛けていた。 大人は、みんなコーヒーを頼んでいたが、僕はクリームソーダか、バナナジュースを頼んでいた。 モーニングは、ドリンクを頼んだ際に、セットでトーストとゆで卵と簡単なサラダが付いてくるもので、開店から11時30分までしかやっていないサービスだった。


 そんな訳で、冬休み以降の少年ジャンボ、少年サンディ、少年マガゾンという人気マンガ雑誌を居間の床に種類毎に順番に積み、雑誌丸ごと順番に読んでいくか、お気に入りの作品だけを順番に読んでいくか、とても悩ましい問題と対峙していた時だった。


 突然、玄関からガタガタという音が響いた。


 なんだ? と思いながら、玄関に向かうと、玄関のすりガラスに白っぽい影が映っているのが見えた。


 お客さんかな?


 そう思って、様子を伺っていると、


「ご、ごめ……んくださ……い」


 と、声が聞こえた。


「た、たなかさん……ですか?」


 続いて、質問が飛んできた。


「……? いえ、うちは高島(たかしま)ですが……」


 僕は、祖母の苗字(父方の祖母の苗字なので、自分も同じ苗字な訳だが……)を伝えた。


 シシシシシ


 玄関から、妙な声が聞こえた。 空気が歯を抜けるような……笑ってるのか? ……変な笑い方だなぁ。


「た、 高島……みやこさんのお宅ですか?」


「……? いえ、祖母は、みやこなんて名前ではなく、絹代(きぬよ)ですけど……、家を間違えてませんか?」


 シシシシシ


「ま、間違えて……ませんよ。 絹代さんの生まれは、この町……ですよね?」


「そうですが……、どちら様でしょうか?」


 僕は、今さらになって、相手が誰かを尋ねた。


 シシシシシ


「そ、そういう……き、キミは?」


 質問に質問が返ってきた。 だが、人に名を尋ねる時は、まず自分から名乗りましょう、という昔教わったことを思い出した。


「ばあちゃ……いや、えっと絹代の孫、高島……タケルです……」


 シシシシシ


 なにか、急に不安になってきた僕は、質問に答えながら、玄関の鍵を見る。 普通に開いていた。 そりゃそうだろう。 納屋から戻ってきた時に鍵を掛けた記憶などないんだから……。 玄関の戸を勝手に開けて、入ってきたらどうしよう……


「た……たける……君も、この町の出身……ですか」


 一体、この人は、なんなのだろう。 急に怖くなった僕は、とにかく、会話を終わらせて、早く帰ってもらいたかった。


「そうですよ! 今、祖母は留守なので、祖母に用があるなら、別の時間に出直して来てください! 」


 咄嗟に嘘をつき、会話を切り上げようとした。


 シシシシシ


 また、奇妙な笑い声が聞こえたと思ったら、すりガラスに映っていた白い影が消えたのがわかった。


 僕は、慌てて、玄関の鍵を掛けた。


 一体……なんだったのだろう。


 考えても答えが出ない事を悶々と考えながら、漠然とした不安を感じていた。


 ま、ちょっと変な人が来ただけだろう……


 無理やり気持ちを切り替えた僕は、結局、少年サンディの人気マンガ『迷探偵(めいたんてい)アラン』だけを、順番に読むことにして、マンガの世界に没頭していった。


 ……その日、祖母は帰ってこなかった。


迷探偵アラン


とある怪しい2人組を追ったため、怪しい薬を飲まされた自称小学生探偵。 目覚めたらビックリ! なんと大人になっていた!?

ひょんな事から、エドガー・アラン・ポーとコナン・ドイルの名前をヒントに『土居 アラン』を名乗り、数々の事件にちょっぴりずつ関わっていく。


身体は大人、頭脳は子供の残念探偵が、織り成すドタバタ推理コメディ。 主に小学生に人気!

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