ジャスティス VS 山村人成 & 三善清史郎
真っ白な世界で、山村と三善は、迫り来る炎を、ひたすら避けていた。
『哀れな罪人よ! 観念して、贖罪せよ!』
目隠しをした炎の天使は、剣を振り回し、炎弧を量産していた。
「……一本くらい予備の刀を置いておけばよかったな」
ボソリと呟く山村。
山村は、玲香と安倍の刀を、シラタキ ── 猫鬼の異界に保管していた。 そして、その二本はすでに、本来の所有者の元へと返却していた。
「……まぁ、仕方ないですね。 さて、そろそろ、ちゃんと視ときますかね」
三善は、そう言うと、懐から再びトランプサイズのカードを四枚取り出す。 その表面には、お世辞にも綺麗とは言えない字で、『不可侵領域』と書いてあった。
「それは?」
「タカに書いてもらった符です」
そう言って、動きを止めた自分の周りに四枚のカードを配置する。
『愚かなり。 消し炭になるがいい』
「やれやれ、'観念しろ"と言う割に、動きを止めたら止めたで "愚か" とか……。 自分の言ってる事、わかってんのかね?」
ジャスティスの言葉に、山村が呆れ果てる。
「まぁまぁ、言わせておけばいいんですよ。 さて、今から霊視をするんで、申し訳ないですが、しばしお時間をもらいますね」
三善は、ジャスティスの言葉を無視するかのように、山村に言葉を投げる。
その間にも、炎は幾重にも連なり、三善に向かって飛んでくるが、すべて、符の効果で三善の眼前で掻き消えていた。
『……老害め! 判決……火刑!』
ムキになって、三善への攻撃に固執するジャスティス。
山村は、三善の周りのカードの隅が、黒く変色しているのに気付くと、自分も立ち止まり、二本指でジャスティスを指す。
「……噛み砕け、影麻呂」
その言葉を合図に、山村の影がジャスティスに向かって、高速で伸びる。
『むっ、我に歯向かうとは……。 身の程知らずのムシケラが……』
ジャスティスの目前で、大きな顎が、姿を現すと、不機嫌そうに剣でガードをするジャスティス。
ガキンという激しい音とともに、ジャスティスの纏う炎が大きく揺れる。
ガードされた犬神 ── 影麻呂は、再び、高速で山村の元へと戻る。
「やっぱ、パワーは本物なんだよなぁ」
『……不遜なり。 楽に……』
言葉の途中で、表情を歪ませ、霊視をしている三善を睨むジャスティス。
『……俺を……見透かすなぁっ!』
ジャスティスは、突然、豹変し、乱暴な足取りで三善へと走り始める。
「三善さん!」
その様子に、若干、焦りながら、声をあげる山村。
「……ちょいと不味いですかね?」
三善は、迫り来るジャスティスを見て慌てる。 大きなサイドステップで、符で造られた『不可侵領域』を飛び出る。 ジャケットから大量の符を落としながら……
轟っ!
激しい音を立てて、先程まで三善がいた所に突っ込むジャスティス。 カード状の『不可侵領域』の符は、無惨にも一瞬で燃え尽きる結果になった。
肩で息をしながら、敵を睨む三善。 まるで牽制するように左手をジャスティスの方へ向ける。 そして、怒りの形相で三善の方を見据えるジャスティス。
その間には、三善が落とした大量の符が、両者の領域を分断しているように見えた。
「大丈夫ですか?」
そんな一触即発の空気の中、山村が三善の側へ駆け寄る。
「えぇ、なんとか。 ……しかし、参りましたね。 本当に相性が悪い……」
「……えぇ、まったく」
山村はそう言うと、三善を庇うように前に立つ。
おもむろにジャケットのポケットに手を入れると、タバコの箱を取り出して、その内の一本を口に咥える。
「あぁ、悪いけど、火を貸してくれないか? え~っと、ジャスティス……だっけ?」
『…………貴様ら、楽には死なさんぞ』
「あれ? もうメッキが禿げてる? ところで知ってるか? 天使ってのは、みんな名前に"エル"が付くんだぜ? かの有名な堕天使ルシファーでも、天使長時代はルシフェルって名前なんだ」
『………………』
「あれ? ジャスティス? ……おかしいな。 天使を名乗るくせに"エル"が付いてないじゃん。 最近じゃ、コスプレするのにも、原作をリスペクトするっていうのに……。 もっと、原作を読み込まないと……。 まぁ、いいや。 こいよ! ファッションコスプレ野郎」
山村は、タバコを咥えたまま、手の平を上に向けて差し出すと、四本の指をクイクイと動かす。 ── 挑発するような、その指には、不似合いなドクロの指輪が存在感を主張していた。
『…………不遜! 不敬! 不謹慎! 判決! 火刑』
怒りで顔を歪ませながら、そう言うと、再び、高速で山村の元へ走り寄るジャスティス。 その手に携えた剣に、より多くの炎を纏わせながら……
……が、その動きは、大量に落ちている符の上で止まる。
「驕りましたね。 そのカード……全部、妖の動きを止める『聖結界符』なんですよ」
そう言って、微笑む三善を嘲笑うかのように、カードは少しずつ炎を上げ始める。
『……こんなもの、直ぐに燃やしてくれる!』
「……でしょうね。 でも……」
「いいのかい? そんな悠長なこと言ってて。 上を見てみろよ」
三善の言葉を受けるように、山村がジャスティスの頭上を指差しながら言う。 口の端をクイッと上げながら……
その二人の態度に、訝しがりながら、ジャスティスが上を見ると、その頭上には、大量の水の塊が浮かんでいた。
「俺は、性格の悪い生産部長から、『ポセイドン』の名を持つ指輪を貰っててね。 残念ながら、大気中の水分によって、効果が変わるんで使い勝手が悪いんだが……外のハゲが、雨雲を呼んでくれたおかげで、ご覧の通りさ」
山村はそう言って、中指の"青い石が入ったドクロの指輪"を見せつける。
『……ふ、ふははは! なにかと思えば……ただの水で我が炎が消えるとでも? やはり、愚か者は死なねば治らぬようである』
それを聞いた山村はニヤリと笑い、再び、挑発するように指をクイクイと動かし始める。
「もちろん、んなこたぁ知ってるさ。 だから、その水には、しっかりと念を込めさせてもらってるのさ。 三善さんが霊視を終えた時からね。 まぁ、二人で交代交代で……だけどな」
『!? な!? なぜっ! いつそんな打合せを……』
先程までの余裕の態度と打って代わり、狼狽を始めるジャスティス。
「だから、言ったじゃないですか……。 相性が悪過ぎるって。 あとね、戦い方が雑過ぎです。 せっかくのパワーなのに……もったいない」
狼狽するジャスティスを見て、ため息をつきながら、肩を竦める三善。
『待て! 話せばわかる! 争いは何も生まない! 人類、皆、兄弟だ! 寛大な心を持つことこそ、人間が他の動物よりも優れているところだ! な?』
「……おいおい、ダブルスタンダードも大概にしろよ」
山村も呆れながら、ため息をつく。
『やめろ! やめてくれっ!』
「あぁ、もう、うっさいなぁ。 判決 ── 水責めの刑 ……ってな」
その瞬間、念の込められた大量の水が、ジャスティスに襲いかかった。
『ぶばらばわわわぁぁ』
訳の分からない音を上げながら、ジャスティスは大量の水に呑まれていった。
「……あ~ぁ、火、借りるどころじゃなくなっちまったな」
キン! シュボッ
山村は、そう言うと、自分の懐から取り出したオイルライターで、タバコに火を付けた。




