「剣聖」スキルは不燃ゴミ
「シャルローネ……お前の『天与』はやはり、魔法の道にはなんの役にも立たないものだったか……どうやら私は、お前をこのヴァルモニカ家から追放せねばならないようだ」
六歳の折、大きな水晶が置かれた家の祭壇にて、お父様は前世で百万回ぐらい聞いたようなセリフを私へと言い放った。
いや、飽きるほど聞いた言葉だけど。
死ぬほど既視感がある展開だけど。有り体に言って正気ですかお父様!?
私まだ六歳になったばかりの子供で、しかも女の子なんですけど!?
追放なんてされたら、とてもじゃないけど生きていけない!
なんで二度目とはいえ、人生をたった六年で終えなければいけないんですか!?
「そんな……シャルローネはまだ六歳なのですよ!? 『天与』が絶望的でも、魔術師としての道が閉ざされたわけでは!」
「リリアーナ、魔導師であるお前が一番よくわかっているだろう。シャルローネに、魔法の才能はない」
「っ……!」
お母様は私を庇ってくれたけど、お父様は聞く耳を持たない。
ああうん、前世で百万回は見た展開とはいえ、いざ追放される当事者になると、本当に困り果てるしかなかった。
私こと、シャルローネ・ヴァルモニカは、魔術師の名家であるヴァルモニカ家に生まれた貴族令嬢だ。
いや、だった、というべきか。
ついさっきまでは。
たった今から放逐される根無し草というか、野垂れ死んで返事のない屍に変わる予定だけど。
「この世界を支配しているものは魔法、魔力によって家格が決まる以上、魔力とそれを操る才能が感じられないシャルローネに、ヴァルモニカ家を継ぐ資格はない」
「ですが、シャルローネにはこの歳で大人の戦士に勝てるほど、優れた剣の才があります、それで身を立てていくことは……!」
ち、ちくしょう。
私がなにをしたっていうんだ。
前世じゃ飲酒運転のトラックに轢かれてアスファルトのシミになって、今世では六歳にして実質死刑宣告されるとか、話が違う。
(め、女神様めー! 私に嘘ついてたな!?)
この世界に転生する直前、私はお決まりの真っ白な空間で、女神様に出会った。
曰く、私が死んだのは手違いだったから、優秀な転生特典と共に、剣と魔法が支配する異世界に生まれ変わる権利を保証します、ということだったのに。
思えば、確かに怪しいところはあった。私の転生特典に、やたら「剣聖」スキルをゴリ押ししてくるところとか。
『この「剣聖」スキルがあれば、剣と魔法の支配する異世界を容易く生き延びることができます……本当におすすめで、数多くの転生者たちが世界は違えどこのスキルを選んでいきました……』
『でも、私はせっかく異世界に転生するんだから魔法使いになりたくて』
『それは失礼しました。ですがあなたが転生する異世界は過酷な地。剣の腕前はあった方がいいに決まっております。それに、「剣聖」からでも魔法使いは目指せますよ……お気に召さなければ、スキルを使わなければいいのです……』
なんか圧力があると思ったらあれだ、人事職とか経理職を希望してたのに、「まずは現場を知ってからだよ」みたいないかにも善意で言ってます風な言い草で、無理やり営業職に回された前世の会社とそっくりだったんだ。
営業職からでも経理職は目指せますよじゃないんだよ。
ちくしょう。前世でも今世でも騙されてばっかりだ、私という人間は。
「リリアーナ、お前の言い分はわかった。この子には、剣で身を立てる道があるというのだな?」
「はい! きっと立派な騎士や剣士となるはずです。ですから、シャルローネの追放は……!」
「ならん! 今この時代に貴族が剣を使うなど、野蛮が過ぎる! しかも騎士階級に身を置け、だと? お前は優れた魔導師を輩出してきた、我がヴァルモニカ家の家格に傷をつけるというのか!?」
「シャルローネは私たちの娘です!」
「それがどうした。予定通り、シャルローネは森へ追放する。しかし……そうだな、剣と僅かながら路銀と食糧を与えよう。お前の言葉が本当ならば、才能で生きていけるはずだ」
冗談じゃない。
剣一本とはした金でいきなり魔物がうごめく危険地帯に放り出されるとか、昔のロールプレイングゲームじゃないんだぞ。
いい加減、我慢の大声を上げて反発しようと思ったそのときだった。
「っ、あなたは! 愛する娘よりも家名を選ぶというのですか!? そんなことは決して……!」
「黙れ!」
「ああっ!」
お、お母様!
お父様の平手打ちを喰らって、お母様が床に倒れ伏す。
私、追放されたくないし死にたくないよ!
「シャル……私と同じ栗色の髪に、蒼い瞳……あなたはとっても美しく、勇敢で強い子だわ。だから……あ、ああ……っ……!」
「お母様!」
「リリアーナを下がらせろ!」
使用人に手を引かれて、お母様が連れて行かれる。
私は、手を引っ張り返すことで抵抗したけど、お母様が痛がっていたのを見て、つい手を離してしまった。
ふらり、とお母様が前のめりに体勢を崩す。
(森についたら、真っ直ぐ南に進みなさい)
「お母様?」
(そこに小さな村があるわ……あなたと、あなたの中にある天与が「剣聖」なら、きっと生き延びることができる。だから、どうか生きて……シャル……!)
小さく私に囁きかけると、お母様は儚い笑みを浮かべて、今度こそ自室へと連れて行かれてしまった。
「では、シャルローネも連れて行け!」
『はっ!』
「い、嫌ですっ! 助けてください、お母様! シャルローネは死にたくありません! 魔法でもなんでも、今から全力で頑張りますから!」
「くどいぞ!」
り、理不尽にも程がある。
この男が本当に自分の父親なのか、疑いたくなるほどに。
それに、女神様。在庫処分のごとく押し付けてきた「剣聖」とやらのどこが「剣と魔法の世界で役に立つ」スキルなんだ。
確かにここは剣と魔法が支配する、ファンタジーな世界かもしれない。
だけど、私が生まれた時代は魔法が全てを支配するヒエラルキーの頂点で、剣術なんて時代遅れで野蛮な代物と化している。
そして、極め付けは魔法使いを目指せるとか都合のいいことを言われた割に、私の、このシャルローネの身体からは魔力や、それを使う才能が感じられないなんて、踏んだり蹴ったりもいいところだった。
「どうか、どうか考え直してください、お父様! あなたは自分の娘を死地に放り出そうとしているのですよ!?」
「だからそのようにすると言っておる! はっきり言われないとわからないのか! シャルローネ、お前は我がヴァルモニカの家にいるべき……いや、産まれるべき子供ではなかったのだ!」
「そ、そんなっ……!」
存在否定までされて、捨てられた。
……は、はは。
もう、乾いた笑いしか出てこない。
確かにもらうことを承諾したのは私かもしれないけど、押し付けられた「剣聖」スキルはとんだ不燃ゴミもいいところ、まるで役に立たないどころかマイナスじゃん!
心の中で女神様を呪いながら、私はお付きの騎士や使用人たちに、ジタバタと小さな手足を振り回して全力で抵抗した。
だけど、最終的には三十人ぐらいに取り押さえられ、無理やり両腕を掴まれて、魔物が跋扈する森へと向かう馬車に押し込まれていくのだった。
もう、なにも信じられない。
……でも、ただ一人、味方であったお母様の言葉を信じるのなら。
この身に宿っている「剣聖」スキルは、これから嫌というほど遭遇するであろう魔物を倒すのに、多分役に立つと、思いたかった。
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