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アズにいたズィーはセラが裏切り者を暴くためにキャロイの鎧を取りに来たときに、全てを聞いていた。
だから彼は、否、しかし彼はどうしても自分の目で確かめたかった。
ズィーは檻の前に花を散らした。
「ンベリカ」
「……ズィプか」
檻の中の椅子に大人しく納まる『空纏の司祭』は、紅を一瞥だけして目を伏せた。
「こんなところに来ていていいのか? 攻め込まれているだろ」
「評議会の心配かよ……」
「ヌロゥがいなければ、俺は純粋な心でお前の横で戦えてていただろうな、この襲撃でも」
「人のせいにすんなよ」
「他に方法はなかった!」ンベリカはズィーの目を見て怒鳴る。「故郷を失ったお前にはわからないっ! 護るべきものがないお前にはっ!」
「セラがいる」紅の瞳に強い意志を伴ってズィーは鋭く言う。「俺があいつを護れなかったらそれは、俺が弱かった。それだけのことだ。他の誰のせいでもなく!」
ズィーはスヴァニを抜いた。そしてンベリカの檻を斬り開けた。
「なにをしている」
「出ろよ。街の方も気になるのはもちろんだけどよ、エァンダもいるし少しくらい俺がいなくたって大丈夫だ。だから……」
ズィーは一度吐息を洩らしてから続ける。
「俺は弟子としてお前と戦わなきゃいけない気がする。評議会の……『空纏の司祭』のンベリカと、ケリをつけなきゃいけないんだ。それが俺たちの別れの挨拶だろ、ンベリカ」
「評議会の利にならないだろう、勝手な判断で俺を殺してしまっては」
「殺される気があるやつが、どうして空気纏うんだよ」
ンベリカの身体に淡い輝きとなって纏わる空気。
牢屋の空気が動く。
爆風と共に、牢屋の壁が吹き飛ぶ。
土煙の中からズィーが飛び出てくる。その身体にはンベリカと同じく空気を纏っている。そんな彼に続いて、ンベリカが出てくる。
「俺はお前の師だぞ、命を奪えるのか? いやそれ以前に殺せる気で、勝てる気でいるのか?」
「当然だろっ」
言いながら、太ももに付けた行商人のカバンからなんの変哲もない葉っぱ、逆鱗花の葉を取り出しカリッと齧るズィー。その瞳が竜のそれになる。
外在力と竜化。
そこまでしても、ズィーの振るうスヴァニでさえ『空纏の司祭』の空気の壁を破ることはできなかった。『紅蓮騎士』の剣はンベリカの素手に防がれるのだ。
「ズィプ。お前がしつこくねだるものだから外在力を教えたが、そもそも門外不出だった技術だぞ」
「そうだよなっ!」ズィーは受け止められたスヴァニに力を込める。「いつんなっても真骨頂教えてくれなかったっ!」
竜の膂力をもって司祭を吹き飛ばす。そして追撃にかかるために跳躍する。
「しかしお前に教えたのは、『夜霧』への反抗心だったのかもしれないな」
「っな……!」
珍しいことにズィーの太刀筋が鈍った。簡単にンベリカにいなされる。
「どうしたズィプ。俺に勝てる気でいるんだろ? 刃に迷いがあったが?」
「うるせっ!」
真っ直ぐな突き。だが躱される。
「そうだ。それだ。それこそがお前らしい。うるさく空気をざわつかせる動き。俺を相手にその動きを続けるようなら、どれだけやってもお前に勝ちはないぞ」
「っく!」
ズィーは苦々しくンベリカを睨みつけた。