//13
監視長と兵士の会話には常に注意を向けていた。イソラの超感覚をもってすれば造作もないことだった。
そして、ろくに気配も探れない兵士たちの警戒の穴を抜けるのも簡単だった。
イソラはグゥエンダヴィードの塔の屋上に容易くたどり着いた。
辺りに誰の気配もないことを念のために注意深く確認してから、彼女の目には映っていないが、淡い光の球体に入った。
景色は見えないが、別段危ない世界に跳んだわけではないようだとイソラは感じ取った。そして本当に漂流地から出るときは、勝手な場所に跳んでしまうものなだと知った。
あとはルピから借りた鍵を回せばスウィ・フォリクァだ。
ある程度空間がある場所へ向けて鍵を回し、扉の中にイソラは入っていった。
スウィ・フォリクァだと思った。
だが違うと、イソラはすぐに感じた。知った気配がない。それどころか、辺りにはなにもないようだった。だたっぴろい空間だ。
小首を傾げ、もう一度鍵を使い移動を試みたイソラ。
しかし出た先の世界は、扉をくぐる前と同じようだった。
「どこだろ?」
強く感覚を研ぎ澄ます。
やはり何者の気配もない。
この世界の外へと、意識を向けてみるイソラ。セラやケン・セイ、テムを探してみる。異空に向けて感覚向けるとき、何よりも頼りになるのは知り合いの気配だった。
友や師の声や匂いを思い浮かべる。
次第に彼女の瞼の裏に景色が浮かんできた。建設中のレンガの建物が目立つ世界が見える。そこに彼女が探った全員の温かさを感じた。
「みんないる。でも……」
イソラは手にする鍵を弄ぶ。場所がわかったところで、またこの場所に戻ってきてしまうのだろうという予想は難しくない。
「どうしよ……」
「悩まなくていい」
唐突にイソラの耳に声が届いた。なぜ彼がという疑問をそのまま返答する。
「エァンダさん、どうして?」
「色々あって、瞑想に近い状態になってる。ホワッグマーラを覗いただろ? だから繋がった」
「……なんかわからないけど、やっぱりすごい人なんだね」
「すごいかどうかは置いといて、俺が君を引っ張るから、そのまま鍵を使ってそこを出てくれ」
「……引っ張る?……それもよくわかんないけど、やっぱすごい人だ!」
イソラは満面に笑んで、鍵を回した。
そうして扉を抜けた彼女はホワッグマーラで治療を受けるエァンダの元に姿を現した。そして驚く。
「!?……瞑想って、死にそうっ!」
その声に、その場にいた面々は一斉に瞠った目でイソラを見た。
『ちゃんと戻るさ』
「あー……ぁははは……」イソラはバツが悪そうな笑みを浮かべて口を開く。「ちゃんと戻ってくる、って言ってるよ」