16.冬のクレープ
「あゆみ先輩こっち!」
先輩が歩いてきてるのを見つけて、ぴょんぴょん飛んで教える。
貝殻のキーホルダーがカシャカシャと音を立ててる。
先輩は、ぼくの姿を目に留めて一瞬足を止めた。
その後片手を上げて笑いながら駆け寄ってきてくれた。
「凛月ごめん。待たせた」
先輩は顔の前で手を合わせながらぼくの元に来た。
「ううん。あゆみ先輩まだ時間前だよ。早いよ」
ぼくは今回、この前より早くクレープ屋さんに来てた。
(この前あゆみさん待っててくれたから)
(今回はりつが待ちたかった)
1時間前にはモールについてうろうろしてた。
(ちょっと早く来すぎたかな)
(でも……あゆみさん待たせるよりいいよね)
そして30分前にはクレープ屋さんの前に着いてた。
あゆみさんは約束の15分前に現れた。
その姿を遠くから見つけて嬉しくなって飛び跳ねた。
(ようやく……あゆみさんとまたクレープ屋さんにこれた)
それだけでぼくの心はワクワクしてる。
ぼくの姿をじっとみて、少しだけ目を細めてる先輩。
「あゆみ先輩?」
名前を呼んでみる。
「あっ、ごめん。凛月は今日もかわいいね」
そう言ってはにかんで笑ってくれた。
先輩にそう褒められて、少し照れ臭くなり視線を靴に落とした。
「なんか……あゆみ先輩にこう言われるとりつ恥ずかしいかも」
ぽつん。と思ってる言葉を呟く。
「ふふっ。本当に。凛月は可愛い」
そう言って先輩は、ぼくの頭をポンポンと撫でてくれた。
「凛月の方が背が高いから撫でるのにぼく背伸び必要だね」
そう言って、くすくす。と先輩が笑ってる声が聞こえる。
顔を上げて先輩をみる。
優しそうな目でぼくを見て笑ってくれる。
キュッっ。胸が痛くなる。
話したいのに、胸が詰まって痛くて声が出ないぼく。
「凛月は、本当可愛い。じゃあお店入ろか」
先輩は、そう言ってお店の入り口を指差した。
ぼくは頷くしかできずに先輩が歩く後ろをついて行ってお店に入った。
いつもの席に座るぼくたち。
メニューをぼくに見やすいように広げてくれる先輩。
「さっ、今日の凛月のおすすめはどれ?」
先輩がそう聞いてくれた。
目の前には秋用メニューが終わり、冬限定メニューが並んでいて色とりどりのメニューを見るといつものテンションが戻ってくる。
「あのね!今はね、冬限定のこのチョコがおすすめです。クレープ生地をチョコにしてホイップもチョコにして、このザクザクのパイとガトーショコラが入ってるのがおすすめです。ここにイチゴを追加すると甘さと酸味でさらに美味しくなります!あっ、先輩甘いの大丈夫ならここにホットチョコにマシュマロ浮かべてるのがおすすめ。ママは甘すぎるってコーヒー頼むけど、りつはこの組み合わせが好きなの。冬がきたぁって思うの」
目を輝かせながら、先輩とメニューを交互に見ながら一気に話す。
それをニコニコとして聞いてる先輩の顔を見て我に変える。
「あっ、りつまた……」
恥ずかしくなって下を向く。
「なんで?ぼく今の凛月好きだよ」
ドキッ……ドキドキドキドキ。
(りつの胸おかしくなった)
(りつ落ち着いて。先輩の好きは意味違う)
小さく息を吐く。
「へへっ」
顔を上げて、とりあえず笑ってみる。
(りつ絶対顔真っ赤)
(あゆみさんに好きって言われたかと思っちゃった)
先輩は何も言わずにぼくのことをじっと見つめて、柔らかい笑顔をしてる。
(なんだか……恥ずかしい)
また下を向く。
「先輩そんなに見つめられたら……」
「りつ恥ずかしい」
小さなどんどん消えゆく声でそう伝える。
「うん。そうだね。ごめん」
先輩の声が優しい。
「凛月顔あげて。凛月おすすめのクレープ食べよう」
顔真っ赤になってる。
でも。
今日は先輩に息抜きしてもらいたい。
その目的を思い出して顔をあげた。
「はい。あゆみ先輩どれにします?」
ふっと息を吐いて顔を上げて、先輩にそう聞く。
視線をメニューに向けてる先輩。
「そうだな。凛月おすすめのクレープにするのは決めてるんだけど……」
そこで言葉を切りメニューを眺めて黙ってる。
「ホットチョコ興味はあるけど、流石に甘すぎるかなってね」
ホットチョコに視線を注いでる先輩。
そうだ!
頭の中で閃いた。
メニューを持ってる先輩の腕をトントンと触る。
「あゆみ先輩!それなら!これどう?」
不思議そうな顔をしてぼくを見る先輩。
「りつがホットチョコ頼むから先輩飲んでみて。もし飲めそうならりつの飲んで!」
「えっ!?」
目を少し大きく見開いてびっくりした顔をする先輩。
「凛月いいの?」
おずおずと聞いてくる先輩。
「りつはいいよ?今日は先輩に楽しんでもらう日だもん!りつの前で遠慮はなし、でしょ!」
胸を張ってそう答えたら先輩はじっとぼくの顔をみて、頷いてくれた。
「うん。じゃあそうしようかな」
メニューが決まり店員さんに注文をした。
クレープが来るまで2人でおしゃべりをする。
「あゆみ先輩、今大変?忙しい?」
「う——ん。まぁ受験勉強があるからね」
生徒会選挙が終わって、部活も引退した先輩。
少しはゆっくりなるかと思ったら次は受験勉強が待ってた。
「でも……まぁ、勉強を口実に図書室行けるのはいいかな」
そう言って笑った。
先輩は今、ぼくがいる日は必ずやってくる。
机で勉強して疲れたらカウンターの中で休憩してる。
ぼくは……。
(受験勉強ずっと終わらなければいいのに)
たまにそんな風に考えてしまう。
クレープとホットチョコとコーヒーが運ばれてきた。
「わぁ!おいしそぉ」
ぱちぱちと手を叩くぼく。
「うん。これは美味しそう」
運ばれてきたクレープをみて先輩もそう言って目を輝かせてくれてる。
マグカップに入ってるホットココアを先輩の方に移動させる。
「温かいうちに飲んでみて」
先輩甘いかな?感想どうだろ?
ウキウキしながら先輩を見つめる。
カップを両手でもっと、ゆらゆら揺れる湯気を息を吐く。
ふうふう。息を吹きながらゆっくりホットチョコを飲む先輩。
(あゆみさん、この姿可愛い)
無防備な顔して飲もうとしてる先輩。
なんか先輩の顔が幼く感じる。
「あちっ」
ふうふうしながらゆっくり飲んでいく。
(りつ、あゆみさんのことずっとみてたい)
そんなことが頭を駆け巡る。
「ぼくにはちょっと甘いかな」
カップを戻しながらそう感想を伝えてくれる。
「あゆみ先輩も、ママと同じこと言う。さっじゃあクレープ食べてください」
そう言いながらぼくもホットチョコを一口飲んでみる。
うん。
甘い。いつもの甘さになんだかほっとする。
ぼくの様子をじっと見つめてくる先輩。
「凛月は嫌じゃないんだ」
静かのテーブルに先輩の言葉が落ちた。
「ぼくと飲み物シェアするの」
マグカップを指さして、そう言った。
「えっ!?あっ!?ほんとだ!」
全く意識してなかったことに慌てる。
「りつとシェア嫌ですよね?うわぁ。ごめんなさい」
慌てて頭をぺこぺこ下げるぼく。
「凛月落ち着いて。違う。ぼくは嫌じゃないよ」
ぼくをゆっくりなだめてくれる。
「凛月が嫌かと思ったんだ。でも……」
一度言葉を区切り黙る先輩。
その後ぼくの顔を見て口を開く。
「凛月が嫌じゃないの、嬉しいよ」
そう言って嬉しそうに、笑ってくれた。
(あゆみさんの周り)
キラキラ、輝いて……見えた。
そして。
ぼくの胸がこれまでの中で1番跳ねた。




