15.気づいたこと
机に座って、ペンを走らせてるその時、スマホが震えた。
ノートにペンをぽとんと落として、スマホを手に取る。
画面を見る前から凛月からだ。と思うと目元が緩む。
『あゆみ先輩。今日も忙しいですか?無理なく頑張って』
それだけの内容。
でも。
「ふふっ。凛月らしい」
静かな部屋にぼくの声がじわっと響く。
そのまま画面に指を滑らせる。
『今度の生徒会選さえ終われば少しは落ち着くかな』
そう送った後に、スマホを手に少しだけ考える。
そしてまた指を滑らせた。
『終わったら今度こそクレープ屋さん行こう。秋のおすすめ食べたい』
そう追加で送った。
夏休みに1回行った以来、凛月とあのクレープ屋さんには行けてない。
体育祭に文化祭、さらには生徒会選そして受験勉強全てが重なって自由な時間が取れてない。
それでも。
なんとか踏ん張れてるのは多分。
「凛月とのやりとり……かな」
ポツリとつぶやいた自分の声が耳に入る。
(そうだ。凛月と出会ってから息がしやすくなった)
(凛月がいる。そう思うだけで違う)
トントン。ガチャ。
扉に視線を向ける。
「どう?最近歩実くんストレス溜まってる?」
扉のところに腕を組んで立ってるのは翠。
「ん——まぁそこそこかな」
軽い感じで返事をしたら翠が目を丸くした。
そのまま腕をほどいてぼくのところまで待つ歩いてくる。
「歩実くんどうしたの?あのピリピリした雰囲気じゃない」
じっとぼくのことを見てくる翠。
なんだか少し居心地の悪さを感じで体がモゾモゾする。
「いや?ストレスは溜まってるよ。生徒会選あるし、相変わらず羽柴のお家さまってうるせぇなと思ってるし」
軽い口調で翠そう返す。
黙ったままぼくのことをじっと見つめる翠。
その沈黙がとても……居心地が悪い。
(翠には、凛月のこと話したくない)
ふっと湧いてきた感情に、自分でもびっくりする。
これまで愚痴をこぼすとしてたら翠だった。
翠以外の前では完璧を演じてた。
それに……。
翠にも完全な本音は言えてない。
(さすがに翠の前でもオレとか言ったことないもんな)
凛月にだけは、するすると本音を話せてしまう。
(凛月にだけ?)
頭の中で色々な考えが浮かんでは消える。
その間もじっとぼくを見つめて黙ってる翠。
「うん。そっか」
頷いてる翠。
「歩実くん1人じゃないんだね」
ぽつんと翠がそう呟いた。
「1人じゃない?」
翠の言葉がよくわからなくて、その言葉をつぶやく。
「うん。きっと、誰か……いるんでしょ?」
確信めいた目でぼくにそう聞いてくる翠。
ドキッと高鳴る胸。
でも。
「いや?そんな相手いないよ?」
平然とした口調で翠に返事をしながらも頭の中に浮かんでくるのは凛月のあの笑顔。
翠は、ふっと笑った。
「まぁ。いいや。とりあえず歩実くんが酷い状態じゃなくて良かったよ。それ確認しにきただけ」
翠はそのまま「無理しすぎないようにね」と手をひらひらさせながら部屋から出て行った。
パタン。
扉が閉まる音がしてぼくは椅子にもたれかかった。
「ふぅ——」
ゆっくりと静かに息を吐く。
そのまま手を目に当てる。
(ぼくいま、1人じゃない)
翠の言われた言葉が繰り返し浮かんでは消える。
(うん。凛月がいる)
ゆっくりと今の自分を振り返る。
(確かにこれまでみたいにイライラしてない)
(翠に愚痴ることもしてない)
理由は?
そんなの……。
「凛月が隣にいるから」
ぽつりと呟いた。
自分の声がじわじわと体の中を駆け回る。
体を起こして姿勢を正す。
そっか。
(ぼくの中で凛月は特別なんだ)
そう思った時に凛月が美味しそうにクレープを口に入れる姿が浮かんできた。
自然と笑みが溢れる。
(あぁ。ぼくの中で凛月はたった1人の特別だ)
ストン。と胸の中にその言葉が降りてきた。
胸の中にほわっと灯りがついた、気がした。
凛月の色々な表情が浮かんでは消える。
どの凛月もぼくに元気をくれる。
ぼくに癒しをくれる。
(凛月がいるからぼく立ててる……)
これまでだったらきっともう嫌になって、翠に愚痴ってた。
それに。
多分荒れてた。
でも今は。
うん。
イライラよりも、凛月の顔見れる。
その気持ちが支えになって頑張れてる。
部活でも、生徒会室でも、凛月の顔を図書室を浮かべるとふわっと心が軽くなって乗り越えられてる。
(ぼく……凛月が好きなんだ)
初めて気がついたこの気持ち。
胸をポンポンと叩く。
(ぼくの中にこんな気持ちあったんだ)
その時スマホが震えた。
手に取り画面をタップする。
凛月の表示を見たらそれだけで口角が上がる。
『えっ!?いいの?りつ行きたい!あゆみ先輩とクレープ行きたい!楽しみです!』
凛月からの文面を読むだけで胸がポカポカする。
『うん。行こう。早く凛月に会いたい』
そう返事をしてみる。
これまでこんなこと言ったことなかった。
でも。
今日は少しだけドキドキして文章を送った。
(凛月なんて言うかな?)
(驚かせたかな?)
返事が来るまでそわそわして落ち着かない。
ペンを手に取り、勉強してみようと思うけど頭に文字が入ってこない。
こんなこと始めてだ。
スマホがまた震えた。
『りつも!あゆみ先輩に会いたい!秋のおすすめクレープも早く食べて欲しい』
凛月らしい返事に、くすっと笑う。
(凛月の会いたいとぼくの会いたいはたぶん……)
(意味が違う。でも今はそれでいい)
胸をトントンと叩いて、新しく気がついた感情を胸にそっと閉まった。




