13.はじめての日
先輩とクレープ屋さんで待ち合わせ。
昨日の夜からソワソワして、服どうしようと選びながら指を見た。
(あっ、ネイルも塗り直さなきゃ)
夏だし、海を意識したカラーにしようかな?
それとも花火をテーマにしようかな?
(りつ、すっごいワクワクしてる)
(いつものお店に行くだけなのに)
ママとお出掛けするのとはちょっぴり違う気持ち。
朝もいつもより早めに家を出る。
なんとなく先輩は約束の時間よりも早く、来る気がした。
今日は、半袖の下から長袖を出して、膝丈のパンツ。
パンツには自分でつけたワッペン。
いつものショルダーバッグにキーホルダーを付けてる。
モールの入り口のガラスで服装を確認する。
(うん。可愛くコーディネートできてる)
自分の姿をみてにんまりとする。
(先輩、この格好なんていうかな?)
ちらっと頭の中にそんな考えがよぎる。
それを振り払うように頭を左右に振る。
そのまま待ち合わせのクレープ屋さんに向かう。
「あっ……やっぱり」
ぽつりとつぶやいて足を止めた。
先輩早く来る気がして約束よりも30分前に着いたけど……先輩はもうそこにいる。
(りつこれどうしよう?)
早く行きすぎるとなんだか変なやつって思われるかな?
いやでも、先輩を待たせるのは失礼になるよね?
足を止めてどうしようと考える。
その間……先輩の姿をチラチラと確認する。
(先輩って……)
遠目から見ても目を引く。
そこだけスポットライトが当たってるみたいにキラキラ輝いてる。
それに。
(先輩は綺麗な人だな)
すっと背筋が伸びてる立ち姿がとても綺麗で、ぼーっと眺めてしまう。
ぼくより先輩身長低いのに、そんな風に感じられないぐらい凛としてる。
(綺麗。今からあの人と会うの?)
そう思ったら急に頬がカーッと熱くなってきた。
胸も急にドッドッドッと早鐘を打ちはじめる。
(えっ。なにりつの体どうしたの)
胸を押さえるけど、早鐘は止まらない。
どうしよう。先輩に会う前なのに体がおかしくなってしまった。
(先輩に会えませんって連絡する?りつ病気?)
そう思って気がついた。
(りつ、先輩の連絡先知らない)
早鐘を打ってた胸が一気にシュンと縮んだ。
(遠い人なの忘れちゃダメ)
胸をトントンと叩いて自分に言い聞かせる。
スマホを確認したら約束の時間15分前になってた。
これ以上先輩を待たせるのは失礼だよね。そう思ってクレープ屋さんに足を進めた。
「先輩!すいません。お待たせしました」
最後少しだけ走って先輩の元に駆け寄る。
「いや。まだ時間より前だよ」
そう言って笑ってくれる先輩。
黙ってぼくのことを見てくる先輩。
なんだかじ——ッと見られると居心地が悪い。
(先輩に見つめられるとなんだか恥ずかしい)
ちょっとだけ視線を下げて自分の靴をみる。
「今日の凛月かわいいね。この前とはまたちょっと雰囲気が違う」
先輩がそう言ってくれて、慌てて顔をあげた。
「えっ?」
ほめられた?びっくりして言葉が出てこない。
「この前、ほら春休みにきてた服とはまたちょっと違う。それにそのズボン」
ぼくのパンツを指さして興味深そうに見てくる先輩。
「これ!りつが自分で縫い付けたんです!好きなワッペンを買ってきて、配置から全部考えたんです。これとお揃いのパーカーもあるんですけど、でもそれは今日一緒に着るとごちゃっとなるかと思ってやめたんですと。でも今度先輩に見てもらいたい」
慌てて口を両手で押さえる。
(またやっちゃった……)
褒めてもらえたのが嬉しくてまた一気に話してしまった。
ぼくの様子を見ておかしそうに笑う先輩。
「凛月の本性はおしゃべりさんなんだね」
肩を振るわせながらそう言われる。
恥ずかしくなって下を向く。
「りつ、好きなことの話になると止まらなくなって。パパやママ以外の前では気をつけてるんですけど」
小さい声でそう伝えてる。
「ぼくの前ではその凛月でいてよ。今の凛月を見たい」
先輩の優しい声が耳に聞こえてくる。
「えっ?いいの?りつうるさくないですか?」
びっくりしながらも先輩に聞いてみる。
「むしろ、ぼくは今の凛月を知りたい。興味深い」
またそう言って笑う先輩。
(りつのこと気持ち悪いって言わない)
(先輩に認めてもらえたような……きもち)
胸がまた早鐘を打ち始める。
「はいっ!じゃありつこれから先輩の前では騒がしい姿見せます」
そう笑顔で言ってたら先輩は、とろけるような笑顔で笑ってくれた。
(こんな笑顔もするんだ)
先輩も新しい顔に胸がとくっ。と跳ねた。
「じゃあ入ろうか?」
クレープ屋さんの扉を指差す先輩。
頷いて2人で店内に入った。
この前と同じ席に座り、2人でメニュー表を眺める。
「じゃあ今日も凛月のおすすめをもらおうかな?夏のおすすめはある?」
先輩がぼくの顔を見ながらそう聞いてくれる。
「あります!夏はプレーンの生地にアイスをつけれるので好きなアイスを乗せるクレープがおすすめです!特にこの時期ならフルーツも乗せられるんですよ。りつはいつもメロンかパイナップルにチョコのアイスを入れてナッツ追加の生クリーム付きにします。あっ、あと夏だけ期間限定でスイカのソーダもあるのでそれもおすすめです!先輩フルーツも食べれますか?」
先輩の顔を見て、はっとする。
「あっ、またやっちゃった」
ぼくがそうつぶやいたら先輩は声をあげて笑った。
「凛月。いいんだよ。ぼくの前ではやっちゃって。ぼくはその凛月が見たいんだよ」
さっきよりもさらに優しい声で言ってくれる先輩。
恥ずかしくなって黙って頷く。
(先輩の前だと、隠してるりつが出てきちゃう)
「じゃあ、凛月おすすめのクレープにしようかな。ぼくはメロンにする。飲み物も凛月おすすめのスイカソーダーを飲んでみようかな。凛月は?」
先輩はそう言ってぼくに聞いてくれる。
「りつも同じのにします。りつ注文しますね」
そう言って店員さんを呼んで注文をした。
注文が終わって、テーブルに小さな沈黙が広がった。
「そうだ」
先輩がちいさくつぶやいてスマホを取り出した。
「この前さ、凛月の連絡先知らないことに気がついて。凛月ぼくに連絡先教えてくれる?」
スマホを手に持ったままそう聞く先輩。
(えっ?いいの?りつと交換して?)
少しだけ驚いた顔をしてしまう。
「えっ?なんでそんなに驚くの?」
ぼくの顔をみて先輩が驚いてる。
「りつと連絡先交換していいのかな?って。あゆみ先輩困らない?」
思ったことをそのまま口にだす。
また声をあげて笑う先輩。
「困らないよ。ぼくが凛月と交換したいって言ってるんだから」
真っ直ぐに先輩に見つめられ、ぼくも頷いてショルダーバッグからスマホを取り出した。
お互いの連絡先を交換する。
「へぇー凛月のアイコン可愛いな」
貝殻のアイコンを見てそういう先輩。
先輩のアイコンは空の写真。
「あゆみ先輩のは、空なんですね。綺麗」
雲1つない真っ青な空。
「そう。なんか自由に翔けそうだろ?」
そう言って笑う先輩の顔が、少しだけ寂しそうに見えた。
(あゆみさん色々抱えてるのかな)
(りつといるときだけは、自由でいてほしい)
そう思ったらポロリと言葉が溢れた。
「あゆみ先輩、りつといるときは自由に好きにしてください」
言った後に、しまったと思って口を両手で塞いだ。
でも。
先輩の耳にはしっかり届いてた。
一瞬目を大きく見開いて、その後みるみる笑顔になった。
「そうだな。凛月の前では自由になろうかな」
その時の先輩の笑顔はこれまでの中で1番綺麗だった。




