第2話
当初、合流した仲間たちで出し合った自己資金は、合計で21億円弱にのぼった。
さすがは、煮え湯を飲まされた小金持ちや資産家たちが集まっただけのことはある。並みの額ではない。だが、この巨額の数字こそが、俺たちの復讐心がどれほど深く、重いかを示す純然たる数値そのものだった。
この21億を元手に、俺たちは株とFXをメインに据えるという陣形を敷いた。
血を吐くような検証を重ねた勉強会の結末、俺たちが導き出した結論はシンプルだった。
『ファンダメンタルズ分析は1割、テクニカル分析が9割』
それは株であってもFXであっても同じ。いや、FXにいたってはファンダなど一切無視の、100%テクニカル主義だ。
株における1割のファンダ分析すら、プロが聞けば邪道だと失笑するほどに簡素なものだった。
「その会社、去年は営業黒字か?」
確認するのは、ただそれだけだ。
業績予想も、新技術の噂も、経営者の大言壮語も信じない。それらはすべて、かつて自分たちをハメた『甘い言葉』と同類だからだ。
信じるのは、嘘をつけない過去の足跡だけ。
会社の生存確認(黒字)だけを済ませたら、あとはチャートの形状、移動平均線、そしてローソク足の組み合わせだけで売買を決める。利益の確定を急ぐ人間の弱さを排除するため、RSI(相対力指数)だけを機械的な部分利確のトリガーにする。
それだけだ。だが、その「それだけ」を徹底できる人間こそが、市場で最後に生き残る怪物となる。
「テクニカルと言うが、本質はシンプルだ。その高値抜けは、本物か? それとも偽物か?」
それだけだ。
ダマシという名の偽物を見分けるため、俺たちが用いる手法は徹底していた。
あらかじめ設定したターゲット高値を、ローソク足ではなく『5SMA(短期移動平均線)』の線そのものが明確に上抜けて週足が確定した瞬間。
その時初めて、俺たちはトレンドが反転したとみなす。一瞬のハネ上がりに飛びつくような真似は絶対にしない。
そして、欲張らずにある程度の利益でポジションの大半を剥ぎ取る。そのための冷徹なトリガーとして、俺たちは数ある指標の中から『RSI』を選んだ。
『買いなら60、売りなら40』
基準はこれだけだ。数値への到達が確定した瞬間、保有分の75%を機械的に決済する。
「ここから大相場になるはずだ」とか「バンドウォークが始まったからまだ伸びる」などと色気を出して、魚のしっぽの先までしゃぶろうとすれば、待っているのは手痛い反転破滅だ。
市場が熱狂する手前、加熱エリアにすら届いていない60と40で大半を利食う。プロが聞けば腰を抜かすような邪道かもしれない。
だが、血を吐くような勉強会で導き出した数字だ。俺たちはただ、この鉄の戒律に従うまでだった。
もう、他人の言葉に耳を貸す必要はない。
ニュースも、アナリストの予測も、すべてノイズ。ただ目の前のチャートを、機械のように淡々と裁いていくだけだ。
ウォール街や兜町の証券会社が競い合う、数十億円規模の高頻度取引サーバーも、超高速回線も、ここには必要ない。
だってそうだろう。俺たちが島根の片隅で見つめているのは、一分一秒のノイズではなく、日足と週足のSMAとRSI、ただそれだけなのだから――。
もちろん、このトレンドフォロー(順張り)の手法一本で挑めば、価格が上下に迷走するレンジ相場(横ばい)で何度も往復ビンタを食らうリスクがある。
だからこそ、俺たちは他にもいくつか別のテクニカル指標を用意していた。
一部のインジケーターや指標は参考として観察もする。だが、それらはあくまで補助輪だ。
そのノイズに惑わされて「投資する、しない」の主判断をブレさせることは絶対にない。
資金管理の鉄則として、先ほどの本命ロジックに全体の8割を投じ、残りの2割を他のテクニカルへ分散して運用する。
そして、戦いによって得られた利益の25%は、即座に戦線から引き抜く。向かう先はゴールド(金)の現物、そしてアメリカ国債の六ヶ月物だ。満期まで確実に持ち切る。
どの国の国債も同じ仕組みで、アメリカ国債なら10万ドルで買ったなら、途中に債権市場が変動して5万ドルなどのようにどれだけ債権価格が下がっていたとしても必ず満期には10万ドルとして返却され、そこに規定の配当金も載る。
逆に途中で解約してしまうと債権価格の市場変動した価格で決済されるから、5万ドルとして決済されるので損失50%の大損をする可能性もある。
さらに、その米国債の償還金(満期で戻るお金)と利息は、決して日本円に戻さない。
そのままアメリカ株の運用資金としてのみスライドさせる。ドルの世界で稼いだドルのまま循環させることで、為替差損という見えない敵からのリスクを、完全に一つ消し去るのだ。
もし、この米国債の利益をその都度、日本市場(円)に戻してしまえばどうなるか。
①【日本円→米国債→日本円】
②【日本円→アメリカ株→日本円】
円とドルを無駄に往復させるたびに、二重の為替リスクという名の往復ビンタを食らうことになる。
市場が円安一辺倒で動いているなら追い風だろう。だが、相場が円高に振れた瞬間、すべてが暗転する。
仮に米国債の利回りが年5%あったとしても、たった六ヶ月(この場合は半年なので半分の利回り2.5%)の間に8%も円高に振れてしまえば、もらえる利息など一瞬で吹き飛び、単純計算でも致命的な赤字(為替差損)を叩き出す。
「せっかく他人のペテンを見破る目を手に入れたんだ。国家が操る通貨の気まぐれ(為替)に、俺たちの命金をなびかせるな。ドルはドルで食わせろ」
それが、俺たちが導き出した絶対の防衛陣形だった。




