第34話 記憶の遺跡
最初の王国が始まったころ――
神は世界に一人の裁定者を遣わした、人々の心を測るために。
聖女と呼ばれたその存在は、奇跡のような力を持っていた。
しかしその精神は幼く、脆かった。
聖女の祝福により、王国には平和が約束された。
聖なる泉が湧き、妖精が生まれ、人々は笑顔の絶えない日々を送った。
王は慈悲深かった。
しかし、その心には猜疑心が宿っていた。
聖女への信奉は、やがて独占欲へと変わっていった。
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聖女は一人の近衛を愛した。
近衛もまた聖女を愛していた。
しかし彼は王への忠誠も捨てられなかった。
王は二人の関係を知った。
猜疑心に囚われた王は、近衛を処刑した。
聖女の精神は壊れた。
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聖女は世界を憎んだ。
その想いが聖女の守護者たる竜を暴走させ、王国は滅びの淵に立った。
その時、一人の従者が聖女の前に立った。
従者は聖女の最大の理解者だった。
滅私奉公の姿勢で仕え、ほのかな恋慕を抱きながらも、
それ以上に聖女の幸せを願っていた。
「お嬢様、もう十分です」
従者の真摯な言葉が、聖女の最後の一線を踏みとどまらせた。
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聖女は自らの力を封印し、眠りについた。
世界を滅ぼさないために。
これ以上、誰かを傷つけないために。
竜は聖女の怒りを預かった。
そして、主の眠りを守るために眠りについた。
王は神の呪いを受けた。
永遠に眠ることを許されず、玉座に縛り付けられた。
自らの罪を、永遠に見つめ続ける罰。
近衛の魂は二つに分かれた。
聖女を愛した魂と、守れなかった悔恨の怨念。
従者は聖女を救ったが、抑え続けた恋心の影を残した。
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王は、そして王国は試験に失敗した。
聖女の心を壊した。
神は怒った。
世界を滅ぼすことさえ考えた。
しかし、滅ぼすことはしなかった。
従者の言葉が、聖女の心に届いたから。
人々の中にも、聖女を想う心があったから。
聖女が眠りについたから。
神は裁定を下した。
滅亡ではなく、忘却を。
聖なる泉はその存在を隠し、人々の前から消えた。
妖精の姿を見ることもなくなった。
奇跡はもう起こらない。
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人々は聖女が眠りについた遺跡を守った。
聖典に懺悔を記し、王を封じ、聖女の眠りを守り続けた。
人々は信じていた。
聖女がいつの日か目覚めてくれることを。
そして人々の懺悔を聞き届けてくれる日がくるということを。
その想いが信仰となり、信仰が遺跡を守る力になった。
しかし、時代が流れ、人々も消えていった。
祝福を失った王国は衰退し、いつしか歴史からも消えていった。
ある男はこう記した。
「いつか誰かがこの遺跡を見つけるだろう」
「その者が邪な心を持たぬことを祈る」
「聖女様の眠りが、永遠に守られることを」
そして、遺跡だけが残った。
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長い時が流れた。
神の怒りも、少しずつ薄れていった。
ある日、冒険者たちは地図にない遺跡を見つけた。
昨日までなかった場所に、突然現れた遺跡。
どの時代の様式とも異なるその佇まい。
古代でもなく、中世でもなく、
まるで時間の外側にあるかのような場所。
神の怒りが薄れたから、遺跡は姿を現したのか。
誰かに見つけてほしかったのか。
それとも、手元に人々の末裔が記した手帳があったからか。
「挑みたい」
冒険者たちはその呪いのような気持ちに抗えなかった。
だが、彼らは知らない。
この遺跡が何を封じているのかを。
そして、何を記憶しているのかを。
これにて本作は本当に終了となります。
初の投稿作品であり、拙い物語、文章だったとは思いますが、ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
また、本作品は「冒険者はあきらめない」というシリーズの第1弾作品になっています。
第2弾作品として
「沈黙の迷宮 ― 王族失踪事件」
https://ncode.syosetu.com/n6533ly/
という作品の連載を開始しています。
もしも本作が面白かった、または少しでも気になった方は、ぜひ
「沈黙の迷宮 ― 王族失踪事件」
もチェックしていただければ、嬉しい限りです。
どうぞよろしくお願いします。




