8.グリフォンの旗
前回に引き続き、ざまぁ(物理)回です
暴力表現、銃器の使用、セクハラ表現、麻薬・人身売買、全てあります。
出来るだけ遠まわしに表現していますが、ご注意ください。
「スサーナを連れて、他の子達と合流させるまでは、作戦行動を起こすのは待ってね。(意訳)」
とは、一応お願いしたんだ。
大した距離じゃないし、実際に20分有れば余裕で戻って来れたしね。
なんと言うか、圧勝だね。
あの旗ってそんなに大事なものだったんだねぇ。
こちらでは架空の生き物でも、あの意匠は俺にとっては、こちらの災害に例えて言えば『天まで届くハリケーン被害で、家が空に巻き上げられる様子を描いた絵』みたいなものだ、『有難がって飾る理由が分からない。』とうっかり感想まで口に出さなくて、つくづく良かった。
大人数がいる大部屋を避けて、5人以下の小集団を狙ってコソコソ忍び歩きしていたら、知らない内にボス部屋で小ボスをふん縛っていた俺も、色んな意味で大概だけれど。
あの半裸のオッサンが実はボスだった!ってだけで、連中の実力はたかが知れてるけど。
一階部分を制圧を担当しているホセさん(偽名)が、各部屋のモドキ共を分断しながら、職業軍人顔負けの無駄の無い動きで、テキパキ攻略しているのは、ある意味当たり前なんだろうけど。
けど、けど、けど!
マリアちゃんと後方支援の無口君が凄いよ。
形はコンバットナイフなんだけど、60~70㎝はありそうな刃物をもって男達に切り付けて無力化しながら、大部屋中縦横無尽に駆け回るマリアちゃん、手足を切り落とせるまではいかないけど、傷口から骨が見えたよ。
最初の一発は発煙弾だった様だけどその背後から、今は機関銃に持ち替えて、同士討ちは心配しないのか?って勢いで、銃弾を盛大にバラまいている無口君。
ぼさっと突っ立っているのも同然の男達の間を、彼らを盾にしながらすり抜けているから、マリアちゃんを狙ってまごまごしながら、拳銃を構えているバカどもが引き金を引いた時には、当たったのは自分の仲間って事になってる。
一方彼女達は二人しかいないから、相棒以外の残りは遠慮なく手当たり次第に攻撃出来る、手榴弾も至って気楽にポンポン投げてる、床が抜けたりしないかね。
足手まといの一般人の日本人に、ホセさんが命じて同行させたのが、若い少女と青年の二人だけっていう事に、最初は驚いたけど納得できる。
16才なら俺の世界では立派に成人ではあるし、女でも荒事に従事する奴がいない訳じゃないけれど、傭兵や兵士としてなら駆け出しの見習いだ。
今のところ殺してはいないけれど、こっちの世界で16才の少女がこの躊躇の無さと、達人レベルの剣技の技量は尋常ではない。
最初に俺達(?)が倒して歩いた25人。
こいつらはたぶん見張り役とか、当番に当たっていたんだと思う、廊下にいた奴はともかく小部屋に居たのはサボってたけど。
あ、でも廊下にいた奴もビール持ってたな。
次に、ボスのおこぼれを待ちわびて、およそ30畳位のこの大部屋に20人程がこの部屋にいたらしい、よそから来た俺が言うのもなんだけど、嫌がる女の子と力尽くでやる事やったら自分等の所有物!とか、コイツ等ってば原始人だよね?
更に子供達が捕らえられていた倉庫に見張りを含めて6人がいて。
最初が大事とばかりに、男女共に抵抗出来ない年齢の相手を、暴力で心を折って従わせようとしてたらしいが、男の子達を殴ったり女の子達にはセクハラなんて可愛い表現で済まないような事をしていた。
ボスの目が怖くてつまみ食いは出来なくても、牢の格子越しに銃や自分の下半身を見せつけながら、服を脱げとか下見を兼ねた脅しをかけたり、恐怖で固まって指示に従えない相手に、2mも無い距離でゴム弾をぶっ放していやがった、子供達にだぜ。
道理でモニター室に誰もいない訳だよ。
一階部分に10人程『おこぼれ』には、それ程がっついていない連中が真面目に仕事をこなしていたけど、ホセさんこと、ミゲル・マルコスさんに片付けられたらしい。
「やあ、お疲れ様。」
ひと段落した所で声をかけたら、目をむかれた。
「あなた、何でここにいるの?助けた子と一緒に避難した筈でしょ?」
モニター室で高みの見物をしてました、なんて怖くて言えません。
「もちろんスサーナなら他の子達と合流させて安全だよ。」
カメラが音声もちゃんと拾える機種だったので、階段あたりからのマリアちゃんの名演技も見てました。
「そうじゃなくて!あなたが!何故!ここにいるのかって聞いてるの!?」
ああ、戦闘直後なので気がたっているね。
「まぁまぁ、そんな事よりこの国だとさ、麻薬の処理ってどうやるの?地面に埋めて成分が地下水に溶けても困るし、燃やすのも大気中に成分が広がって同じだよね?」
お冠のマリアちゃんに構わず要件を切り出す。
「はあ?いきなり何のこと?そもそも質問しているのはこっちよ!」
「麻薬があるんだよ、金庫の中に金塊と一緒にさ、この国の腐敗した現政権に回収されると、途中で官僚が横流しするか、現政権が売って収入にするか、でしょ?」
困ったもんだよね、金塊があるのは分かるよ、インフレが続いているのでここの連中もこの国の紙幣は紙屑だと思っていたらしい。
奴らにとっては麻薬も同じく金目の物扱いだったんだろうけど、警察に回収されても碌な展望が無いよ。
さっきのボスの寝室とか他にも探せば、厄介な財産を分散して隠しているかも知れないけど。
「言っとくけど本物かどうか分からないよ、でも砂糖や小麦粉なら金庫に入ってないよねえ。」
あいにく俺は鑑定能力は持ってない、手書きの字で合成何々何グラムとか天然何々何グラムとか書いてあったけど、この国で使われている文字も三ヶ月かけてやっと読めるようになったばかりなので、自信は無い。
「麻薬ですって?こいつ等が?私達の名前を騙って?」
「落ち着け、マリア。」
マリアちゃんがまたおっかなくなってきたのを、ホセさんが止めた。
「とりあえずこっちに来て。」
「どうやって見つけたの?」
二人とホセさんを金庫とPCの有る部屋へ案内する。
監視カメラ映像をPCに繋いで管理しようとしてはいたらしく、何とモニター室の奥の扉の中だった、どんだけゆるいんだよコイツ等。
奥の扉は鍵が掛かっていたけど、廊下を通りがかった時は、モニター室は扉が開けっ放しだったよ。
過去の映像記録の方は24時間しか残らない様になっているし、PCから自動で警告する機能は設定出来ていなかった。
精神魔法はカメラ越しには効かないから、誘き出して内側から鍵を開けさせようと思ったのに、見てもいなけりゃ、警告も出ないなんてね。
「あのオッサンの持ち物に、鍵とこんなものがあったのさ。」
脱ぎ散らかした服の中から探して、パンツを履かせてあげたのは俺だしね。
手癖が悪い訳じゃないよ、目端が利くと言っておくれ。
子供達を安全な場所に逃がせた時点で俺自身の目的は達した訳だし、ゲリラモドキがここで殲滅されてしまうならお礼参りの心配も無い。
ゲリラモドキとの戦闘と言うか退治を、俺が手伝うのは皆にお断りされてしまったので、その間にシスターや子供達への慰謝料を貰って行っても良いかなと思ったんだよ、警察に回収されたら行方不明になるだけだし。
「どうやって開けたの?有ったのは金庫の鍵だけでしょ?」
「こんな旧式のダイヤル式金庫の構造は簡単に分かるよ。故郷で建物の鍵を作る会社にも、金庫を作る会社でも働いていたんだよ。」
これは本当です、製作する為の勉強で決して泥棒目的ではありません。
「とりあえず大事なものだけ持って行ってよ。いくら何でもそろそろ警察か軍隊が来るでしょう?」
どっちに正義が有るとかは置いといて、一応彼らも警察に追われる反政府ゲリラ、忘れ物があってもここに取りに戻れない。
子供達が誘拐されたのが午前中、俺とホセさん達が合流したのがほぼ正午、今は三時半ごろだから誘拐事件の解決としては早いけど、
(スピードが大事だって主張したお陰で、俺の参加を認めさせ押し切れたのもある。)
いまだにサイレン鳴らして駆け付けて来る気配すら無い、この国の警察の初動捜査は日本ならあり得ない遅さだ。
更にそいつ等が来たら、ゲリラモドキが解放されてホセさん達が捕まっても、俺は不思議に思わないね。
諺?にもあるじゃない長居は無用ってね。
「麻薬の顧客リストと人身売買の顧客リストはキチンとPCに保存して有ったよ、後々の恐喝の材料にするつもりのようだね、脅し取った金額の記録もある。
後は武器の購入先?○○大佐、✖✖少佐って所属部署と人名・階級しか書いて無いから、国外からの密輸品じゃなくて横流し品だよね。」
USBメモリは緊急時の持ち出し用だったらしいけど、外側にパスワードを書くのは感心しないな。
中身を確認したくてPCを探して、結果として金庫まで見つけたから良かったんだけど、USBメモリとPC両方の中身が一緒だったのは釈然としないような気がする、苦労したのに・・・
こっちに来たばっかりの頃は、テレビの映像にも驚いていたこの俺が、兼本さんちの隆之君のお陰で、色んな機械類を一通り使いこなせるようになったのは凄いことなんだよ、自慢できる相手もいないけどさ。
「問題は、攫って来た子供達の資料だよね、女の子は名前と年齢の記録、顔と全身(着衣無し)の写真まで有る子もいるけど、男の子は名前すら記録が無いのも多いし、男女共に何処から攫って来たかが記録されてない。」
これでは売られた先から取り戻しても、帰す先が分からない。
攫って来た日付だけを見れば、今回みたいな目立つ集団での誘拐じゃなくて、発覚しないように一人ずつさらっていたようだ。
男の子の中には売った記録が無い子もいる、生き延びる為にこいつ等の仲間になったか、何らかの理由で売り物にならなくなったか・・・ でも俺は地魔法は使えないので敷地内の地面の中を確認出来ない。
この国の警察が敷地の外の樹木まで伐採して、キチンと掘り返して調べる可能性は限りなく低い。
向こうでなら、貧しさのせいで人買いに誰かが買われて行くのは、ありふれた事で別に珍しくなかった、彼らは老若男女問わず、二度と家族の元に戻っては来れなかった。
ただし他人の子供や若い娘を攫って、勝手に売り捌く不届き者は親戚近所総出でぼこ殴りにしてから、突き出してやったもんだ。
平和な日本で4年間暮らして、余りの違いに戸惑い驚いたものだったけれど、別に夢の世界という訳じゃない。
世界を半周して見ればコチラも意外に違わなかったな、そして俺の対応も変わらない。
「これ以上深入りするのはよしなさい、冷たい言い方をする様だが、ここから先は我々の仕事だ、無関係な外国人の君が気に病む事ではない。」
色々考え込んでいたら、俺の内心を読んだように、ホセさんことミゲル・マルコスさんが声をかけてくれる。
「そうね、今回誘拐された27人はあなたが世話をしていた子供達で縁もあったでしょうけれど、それ以前の子はあなたに関係無いのよ、この国の事はこの国の人間が責任持って何とかするべきなのよ。」
マリアちゃんも同意見らしい。
言葉だけなら突き放されているように聞こえるけれど、俺を気遣ってくれているのだ。
「帰す先なら本人に聞けば良いのよ、中世ヨーロッパや南北戦争時代じゃあるまいし、彼らは高価な商品なんだから、質問に返事も出来ない程、使い潰すなんて事は滅多に無いわ。」
前提条件として購入した奴が、変な性癖とか持ってなければ、だけれど、そのマリアちゃんの言葉は目から鱗だった。
表向き就職とか養子縁組とか取り繕うならともかく、誘拐されてその後の行方が分からない[子供]を手元に置く奴が、自分の罪状を知らない訳も無いか。
確かに過去には奴隷制度が合法だった時代もあったそうだけど、現代ではこの世界の命は、俺の世界程軽くない。
社会的地位を守る、つまり監禁と性犯罪・傷害などの虐待の罪を隠蔽する為に、更に殺人罪を追加するのはバカのする事だ。
ただし、内乱が続いて政情不安なこの国だと、それに加えて男女関係無く武器をもたされて、兵士になる事を強要される。
「最悪答えられない状態になっていても、最近の科学捜査は優秀なのよ、今すぐは無理でもあなたが見つけてくれたこのデータは無駄にしない、DNAでも骨格データでも駆使して必ず追跡調査して、被害者達を帰りたい場所に返して、彼らに酷い事をした連中に報いを与えてやるわ。必ずよ。」
「マリアちゃんがカッコイイ!」
「なによ、いきなり。」
思わず本音が口から零れてしまったら、赤くなってうろたえた。
そしてホセさんと無口君に同時に睨まれた。
◆ ◆ ◆ ◆
それからどうしたか?と言うと。
この国の警察があてにならないので、縛りあげた自称反政府ゲリラ共をその場に残して(秘密の見張りはいたけど、別に逃げたければ逃げても応急処置しかして無いから、死ぬのは奴らの勝手)、子供達を連れて寄宿学校に戻り、シスターにも同行してもらって日本領事館に行きました。
学校を運営していた聖ナントカ修道会も力のある団体だけれど、バリアスとの間に別の国をひとつ挟んで更に隣の国に本拠地があって遠すぎる。
(一応)日本人の俺が巻き込まれ(に、自分から行っ)ていたから、という理由で駆け込んだ。
この国の中だけの問題にすると有耶無耶にされてしまうからね。
総勢62人の犯罪者集団が、世界的宗教団体の運営する施設から未成年者27人を誘拐して、有耶無耶に出来たら本当に出来たら凄い事だけど、
国内だけなら『無理を押し通すのも出来そうだ』と言う結論で、シスターも含めて意見が一致したのが何とも言えない・・・
被害にあった27人だけでなく、過去の誘拐された被害者リストも持ち込んだ上に、あの場では開けられなかったファイルを解いたら、後から出てくるわ出てくるわ、人身売買も麻薬も周辺国からバリアス共和国を通過して別の国へ行く、国境が丸ごと素通しの密輸ルートになっていた。
バリアス共和国政府が内政干渉で突っぱねられない程の、人権問題・人道被害として大問題になった。
そして俺こと、浩輔もすんなりと解放はされなかったのだ。