9.引継ぎされました。
前半ストック分が無くなって、追加で書いたので見直しが不十分です。
誤字誤表示があると思います。
翌日、材料を揃え直しての再チャレンジは満足いく出来だった。
料理した本人からは苦情が来たけれど・・・
「美味しいけど、お母さんの味じゃないわ。」
やかましいわ、と言ってやりたいが黙って自分が料理した方を差し出す。
「あ、そうよ、この味よ!これを教えて欲しいのよ。」
「・・・・・・」
アドリアナ、君は、昨日どれだけの食材を無駄に生ゴミにしたと思っている。
失敗の原因は、要約すると。
煮込みでも炒め物でも、年老いて潰された乳牛の肉と、それを柔らかく処理する為のオリーブ油や酢と重曹、臭みを消す為の生姜やニンニク、香辛料とハーブ、それらを使用する微妙で繊細な匙加減の『センス又は経験が、彼女に無い』という言葉に尽きる。
肉の臭みを消しきれずに、逆に香辛料類とケンカになっているのだ。
何しろ昨日は、彼女ときたら塩胡椒で肉に下味を付けさせようとして、肉を塩で覆いつくさんばかりの塩漬けを作りかけたが、まぁこれ自体は経験値と知識が足りないだけの事だった。
今日は日本のスーパーマーケットで普通に売っている牛肉を使用させて、臭み消しなどの難解な手順を省略し、指示した以外の事を絶対にさせなかったので、普通に食べられる料理が出来上がった。
当然のことながら、それでは彼女の母の味ではない訳だ。
営利目的で有名五つ星レストランの味を習得させろ、とでも言うのなら『君は身の程知らずだ』と、現実を突き付けてやれるが、亡くなった母親の味をその娘が継ぎたいという希望を無碍にするのは難しい。
浩輔の手許にはこれ以外にも牛肉以外の食材がメインの、何十ページにも渡る料理レシピが保存されている。
それぞれの料理に合わせて、鶏ガラ・豚牛骨・魚貝類等からスープを取らないといけないし、使用するブーケガルニもそれぞれ異なる、素材によってはスープの温度管理の上限が大変シビアな物もある。
心意気でも格闘技でも、男以上に男らしい彼女が豪快に鍋を沸騰させて、繊細な風味も何もかも吹き飛ばすのは簡単に予想出来てしまう。
誰の目にも、国一番と言われた料理名人シルヴァ家の女主人の味に、彼女が到達するには果てしない道のりが予想された。
昨日から苦渋に満ちた顔で、それでも苦情も言わずに黙って試食に付き合う婚約者ベルナルディノ(元・無口君で愛称はディノ)の心意気は大したもんだが。
まぁ、君の場合はこれから一生続く問題だしね。
日程的には大統領夫人ならぬ大統領令嬢として公式行事もみっちりと詰まっている、料理だけに時間をかけていられないのにどうしたものか。
レシピの写しはもちろん渡すし、普通の食材で普通に作れば、普通に食べられる物が出来る事は証明出来たんだから、『まずは基礎からだよ』と説明すれば、それで納得してくれないだろうか。
◎ ◎ ◎ ◎
それまでは場所も知らなかった日本領事館に、皆を引き連れて出向いたならば、最初はまず浩輔以外の同行者が警備員に止められた。
当時のバリアス共和国の国内情勢は劣悪で、各国大使館・領事館には様々な理由で、亡命を求めて駆け込む者が後を絶たなかったからだ。
で、どうしたかというと、柵の外から日本語で叫ぶ以外に手は無かったのだけれど、まぁそれはどうでもいい話だ。
まず浩輔自身は無自覚だったが密入国で、その後も半年間、必要に迫られた今日この日まで領事館に届け出に出向かなかったので不法滞在。
これだけでも領事館職員だった小山に厳重注意を受ける話だが、更に(自称)反政府ゲリラの拠点と言う危険な場所に自分から乗り込んで行った彼は、身代金を要求する為の都合のいい鴨として人質にされた可能性は高く、偶然にも(?)現政権の圧政と戦うレジスタンス組織に助けられた。
小山は、保護を求めて27人の子供達と施設を運営していた責任者の修道女を連れて、自分の目の前で能天気かつ興奮気味に、いきさつを説明しているこの無分別な若者を、どれだけ奇跡的な確率で危険をすり抜けていたのか、胸ぐらを掴んで揺すぶって説教してやりたい衝動に駆られた。
何しろその当時バリアス共和国には日本人は入国出来ない、外交を行っていないから最初から大使が置かれておらず。
半年前からバリアスは外国人のビザ申請を受け付けていないし、外務省でも危険な地域として、旅行者には渡航自粛を滞在者には退去を呼びかけている。
バリアス国内の領事館は撤収の準備を進めており、小山達は帰国して、領事館業務は隣国で兼任する予定だった。
更にここから先は領事館職員の小山の権限の外の話だが、
件の自称ゲリラの拠点から、銃器・弾薬・爆発物等と一部貴重品が根こそぎ無くなっていたそうである。
自称ゲリラ達は現政権の先行きに見切りをつけ、拠点を移す準備を始めており。
それまでは首都圏を避けて貧しい田舎の村々で、目立たない様に誘拐や人買いを行っていたものを、最後の仕事だからと発覚を気にせず、今回の大量誘拐事件を実行して後、かき集めた全財産と共に隣国へ出る予定だったそうだ。
捕縛されていた自称ゲリラの証言と倉庫の容量から、推測で総重量1トンにも及ぶ物資が消失していた。
今回の誘拐事件の実行犯である自称ゲリラ達は、応急処置だけされて拘束・放置されていたが。
バリアス政府側の一部上層部が賄賂を貰って犯罪を見て見ぬふりしており、それを現政権と戦うレジスタンス組織が逮捕して人質を救出した。
例え犯罪者との癒着が公然の秘密でも、一人の日本人が事件に関わった事で、バリアス国内だけの問題で終わらなくなり、現政権の国内外への面子は丸潰れである。
バリアス共和国はあからさまに、無理が通れば道理の引っ込むお国柄である。
最悪の場合その『無理』によって、一般人の高村浩輔は勿論のこと、小山達ですら領事館職員と言う身分であっても全員拘束され、バリアスから出国出来ない可能性もあった。
何しろ"日本人の”警備職員は佐々村一人で、領事館の外で警備業務を行っているのは、この国の警察官だったのだから。
高度な政治取り引き(?)によって、レジスタンス組織『グリフォンの旗』の活躍は無かった事にされたが、『日本人高村浩輔』の活躍も、バリアス共和国と日本両方の国内とマスコミに知られる事は無いままに終わった。
反政府ゲリラを自称していた、犯罪者集団の被害の実態解明が開始されるのは、それから更に7年の時が経過して、新政権が樹立した後となる。
と、いう感じでお話が終われば良かったのだけれど・・・
◎ ◎ ◎ ◎ ◎
国外退去を言い渡されたものの、逮捕された訳ではないので、住んでいた場所に荷物を取りに行くことは認めてもらった。
そうは言っても、もとより荷物なんて着替えの入ったリュックサックと、夏でも持ち歩く寝袋代わりの防水性の高いロングコート一枚だ、無くなっても大した被害ではない。
最後の置き場所は、食堂の控え室だったかな?
ちなみに浩輔は寝袋は使わない主義だ、向こうで使用していた装備類に比べれば確かに保温性と寝心地は良いが、単独での屋外での野営は勿論の事、治安の悪い国では駅や空港のような公共施設であっても、自分から手足を拘束するような蓑虫状態になるなど感心しない。
追い剥ぎ・強盗に来てくれと自分から呼ぶようなものだ。
身の安全の為に10日間程浩輔は領事館から一歩も出られず、その間に浩輔が無理を言って働かせてもらっていた食堂は閉店してしまい、女性店主と4人の小さな子供達、浩輔が覚えている限りでは交代で働きに来ていた6人の男性店員もいなくなった。
(俺、この店とホセさんとの関わりは口外していないんだけれど、姿を眩ましちゃったのかな・・・
イザッベラさん、いやベアトリスさんだっけ?ああ、もうどっちでもいいや、
政府側からマークされてるって話しだったしね、でも監視していただろう政府の役人も、たぶん怠慢そうだけど・・・)
加護のお陰で見聞きした『知識』は絶対に忘れないので、マリア・ベアトリス夫人のレシピを書きためたノートは無くしても困らない。
閉ざされた店舗を眺めていると、彼に気がついた周囲の住民達が次々に声をかけてくれるので、帰国することを告げて、別れの挨拶をした。
「あ、コースケだ!」
「シスター、シスター、コースケが来たよー」
寄宿学校に着くとわらわらと子供達に囲まれた。
一足先に解放されたシスターと子供達は、事件以前と同様に治安の悪いこの場所で元通りに暮らしている。
(逆に言えばこの国の警察が、彼女達の保護をさっさと止めた事にもなる。)
「まぁ、コースケ!無事だったのね?」
いやいや、シスター、無事って・・・さすがにいくら何でも、くちふ・・・いやいやいや・・・無い無い。
「とりあえず中に入って、あなたの荷物は私達で預かっていたのよ。」
「そうですか、ありがとうございます。」
建物内に招き入れられると扉の素材が違っている。
浩輔自身がボランティアで建物内のあちこちを、材料をかき集めて修復した箇所の一部で。
誘拐犯共が押し入った時に蹴り破られ、騒ぎを聞きいて浩輔が駆けつけた時には扉だけでなく、シスターだけが残されてガランとした建物内は、無惨な破壊の憂き目にあっていたのだ。
それが今は壁に残った銃撃の痕跡を別にすれば、ほとんど修理されている。
近隣住民という可能性も無い訳ではないが彼らも皆貧しい、心当たりとしては『彼ら』だろうか?
なんてことを考えながら、執務室でも食堂でも子供達の居室でもなく、なぜか『応接室』に通されたら、座って居ましたよ『彼』が・・・
「君は少し迂闊過ぎないかね?」
集団拉致事件直後に単独で犯人を追いかけた所から始まって、ガッツリ説教されております・・・
「娘達からも聞いたが、君は変わった特技があるようだね。一滴の血も流さず相手を無力化した、と聞いたよ。娘達もトリックが分からなかったようだが。」
それっぽくスプレー缶でも、隠し持っていれば良かったかなぁ?
「無力化と言っても『眠りの魔法』程度のもので大したことじゃないですよ。」
魔法としては未完成で地味な部類に入るんです、バリアスに到着する前に野犬を相手にした時とか役に立たなくて、即効性には程遠いですし。
「『竜王探索』か、世界的にヒットした日本のゲームだね。だが、それだけを頼りにするには無謀だ。」
わースゴイナー日本のゲーム、とか言ってる場合じゃない。
「私たち自身もあの当時は何らかの理由で、正常な判断力を欠いていた、院長にも頼まれたのに、危険から遠ざける事もしないで、君の勝手な行動を許してしまうとは。」
やっぱりそう来ますよね。
俺の精神魔法の影響下にさらされていた時は、まるで十年来の信頼のおける部下の様に錯覚していたけれど、元々魔力には限りがあって物理的に距離が開けば効果は弱まる、10日も経てば尚更冷静に分析出来るようになる。
マリアちゃん達に『魔法だよ』と受け容れられないのを逆に利用して、本当のことを説明していたけれど、悪く言えば操られていた訳だから、ホセさんことミゲルさんの性格なら俺を捕まえて事実確認をしようという気にもなるだろう。
「誘拐犯共の制圧作戦中に、君は我々にも無断で武器庫や金庫を押さえている、我々に誤射される危険もあったんだぞ。」
なんだろうか、気のせいでなく親身に忠告されているような? とっくに影響は薄れているはずなんだけど?
それにしても、彼らも現政権と対立している、(今現在は)非合法組織として追われる立場だ。
ジントの世界で例えると義賊の様なもので、そうそう表舞台に立てる身ではない、次に会うのは現政権を打倒した後、(自分の方の事情もあって)最悪の場合二度と会う事も無いのではと、しんみりしていたのに・・・
彼は組織のトップではなかったか? さすがマリアちゃんの父親というか、いくら何でもフットワークが軽すぎだろう。
「我々も大所帯で決して一枚岩ではない、今回の誘拐犯達のような勝手に我々の名を騙る奴らは論外としても、『現政府打倒』という目的だけで寄り集まっているのでね、どこから『誰』に情報が漏れるか私でも分からないのだよ。」
このお話しの決着する先はどこだろう?
「自慢では無いが、私は東西二つの大国から秘密裏に打診を受けている。」
「現政権がヤバそうなのは、今回のゲリラモドキにも分かってましたしね。」
次のリーダーはミゲルさんだーって、先物買いに来ている訳だ。
「そうではない、その大国ですらコミックのヒーローのような荒唐無稽な超能力を、予算を組んで大真面目に研究しているのは知っているか?総額から言えば極々微小な割合だけれどね。
国の今後の為に良かれと思って、売れるモノなら何でも売ろうと思う輩はいるんだぞ。」
「えーと、あー、はい?」
アニメとか映画とか子供向けの、あれのこと?
「君は少し迂闊過ぎる。」
ため息をつかれた。
◎ ◎ ◎ ◎ ◎
「百均グッズ、海外だと1ドルストア?とにかくこれをお鍋に浮かべておくと灰汁を8割りくらい取ってくれるから、残りは自分で丁寧にね・・・」
最初っからこうするべきだった。
無口君ことディノ君、ベルナルディノ・シルヴァ氏31才、人並み程度には自炊が出来ました。
同じシルヴァ姓だけど、入り婿になった訳じゃなく分家?の現当主らしい。
一昔前なら地主の跡取り息子が料理なんてとんでもないと言われたらしいけれど、長らく軍隊生活?みたいな環境にいたから、それなりに以上の腕前だった。
その条件はマリアちゃんも一緒だった、とかは考えてはいけない。
魚介のスープを弱火でコトコト煮込むその間を利用して、レシピ集を浩輔が読み上げ、ディノがそれを書き留めていく、その際に不明な点を質問して、と、レシピの引き継ぎは順調に進んでいる。
お株を奪われた彼女は不満げだが、味見をさせれば違いの分かる舌は持っているのだから、これから経験あるのみだ、最悪の場合でもこれから生まれる子供達には引き継がれる。たぶん。
◎ ◎ ◎ ◎ ◎
飛行機を乗り換えるブラジルの空港で、彼女は待ち構えていた。
本来の予定よりも一ヶ月遅れで帰国する小山達に(逃げないように)付き添われて、浩輔は日本に向かっていた。
突然仕事熱心になった現地警察に細かな事情聴取をされたせいで、随分と引き留められてしまった。
『強制送還』された場合には、自分は日本でどのような処罰が待っているのだろうか?と、今更ながらに思う。
杉本の爺ちゃんの気持ちを思えば、『高村浩輔』の人生に悪い経歴を付けるのはマズイ。
パスポートとか、取り上げられてしまうのだろうか?隣にいる小山に質問したら「反省が足りない」と言って、青筋立てて怒られた。
最初の印象は矍鑠とした武家の奥方という感じだろうか。
(テレビドラマの時代劇でしか知らないが)
「初めまして、高村浩輔君、私は小野宮淑乃と言います、国盟(※)と言う組織で働いています。
私はミゲルからあなたのことを聞きました(頼まれました)、突然だとは思うけれど。
高村君、あなた私の所で働いてみる気はないかしら?」
姓まで口にしなかったけれど、自分が最近知り合ったミゲルさんは一人だけだ。
持ち帰る必要のある知識だとは思わなかったので、ジントは国盟という組織も、『難民』高等弁務官という役職についても全く知らなかった。
バリアス共和国からもかなりの『難民』が流出しているので、その関係でミゲルとも(おそらく非公式だろうが)関わりがあるのだろうな、と推測した程度だ。
知り合いの名前が出た事もあって、彼女の問いかけ自体は穏やかなものだったのに、何故か断わる事が出来ずに了承した。
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ジントにとっては自分の魔法は、故郷では魔法使いとは名乗れない最低レベルだと思っています。
ミゲル氏は、浩輔君の切り札が何かを完全には把握していませんが、厳しい人生を歩んできた経験で、危うさを感じて、小野宮女史に彼を託しました。
例としてキーワードは『選挙運動』『握手』『脳梗塞』で? スパイ物とかのおかしな未来が開けては困るのです。
(※)国連➡国盟に変更しています。




