16の目
「いってぇ⋯⋯」
頭の右側が無くなったかと思った。視界はまだグラグラするが、とにかく起きなければ。
「起きた? 大丈夫?」
「あー⋯⋯大丈夫じゃなさそう」
立ち上がろうと腹筋に力を入れるが、頭が重くて持ち上がらない。仕方が無いから、もう一度目を瞑って考える。
俺は、何をする為にここに来たんだ?
「あぁ、思い出した。サリア、俺の服返してくれ」
隣で心配そうに俺の顔を除き込むサリアに、ここへ来た動機を伝える。
「服? あるけど⋯⋯本当に大丈夫?」
「気にするな」
「う、うん。じゃあ待ってて」
トタトタと急いで消えて行くサリアの背中を追って、それから別方向にある扉に目を向ける。男の子が3人、女の子が3人。もう1人は⋯⋯どっちだ?
扉の向こうには、こちらを警戒してじっと睨む7人の子供達がいた。
「⋯⋯悪かったな。いきなり押しかけて」
慣れない精一杯の笑顔を貼り付ける。普段使い笑ってないせいで、顔の筋肉がピクピクと痙攣しているのが分かった。
「⋯⋯お兄ちゃん、サリアお姉ちゃんの友達?」
おそらく一番歳上だろう。女の子が皆より一歩前に出て問い掛ける。
「友達⋯⋯だと思うぞ? 多分あっちは思ってないけど」
ここで否定してしまっても後々面倒になりそうだ。こっちから思う分には、そう思っても問題は無いだろう。
「でも、街でも見たことないよ。本当にここの人?」
次は男の子だ。多分この子が、男の子の中では一番歳上だろう。身長的に。
「遠くから⋯⋯本当に遠い所から来たんだ。それで帰れなくなって、最近ここに居る事になった」
「可哀想。寂しくないの?」
「平気だ、大人だからな。一人だって別に寂しくないさ」
どの口が言うのか。誰よりも子供で、弱くて無責任だと言うのに。心の中で薄ら笑いを浮かべて、自己嫌悪する。
「強いんだなぁ、兄ちゃんは」
「⋯⋯お前達の姉ちゃんの方が、よっぽど強いよ」
「ん? 誰が強いの?」
「⋯⋯何でもない。悪いなわざわざ」
いつの間にか戻ってきたサリアの手には、俺の着ていたパーカーがあった。
もうそろそろ大丈夫だろう。立ち上がって、洗濯された真新しい服を受け取る。なんだろう、石鹸のいい香りを帯びている。
「あー、それお姉ちゃんが超頑張って洗ってたやつじゃん」
「もーカトル、余計な事言わないの! ほら、みんなはとにかく罠をちゃんと直しなさい!」
「はーい」
しぶしぶと子供達が外に出ていく。今まで賑やかだった聖堂内は、水を打った様に静かになってしまった。
「そうだ、罠。怪我はないか、サリア」
「うん、君のおかけで。ごめんね、子供達がいっつも来る人相手にやってるの。やめなさいって何度も言ってるのに聞かなくて⋯⋯」
「はっ、今度は投石機も作動するといいな」
「⋯⋯ありがと。庇ってくれて」
「ん? なんか言ったか?」
「何でもないよ。それより、ここに来たのは服だけの為?」
「⋯⋯⋯⋯」
「何かあったんでしょ?」
「あぁ。お前との約束を早速守れそうに無くて、自信が無くなった」
後ろめたい気持ちで胸を詰まらせ、サリアから目を逸らす。守るなどと言ってこのザマだ。
「⋯⋯しばらく、ここに居なよ。戻りたくなったら、いつでも戻っていいから」
「何も、俺に言わないのか?」
「⋯⋯どうして?」
「あれだけ大口叩いて、何も出来ないまま逃げてきたんだぞ?」
「何も出来なかったなんて事は無い。君は間違いなくあたしを守ってくれた。それはあたしが保証するよ」
彼女の指が、優しく俺の髪をかき上げる。振り払う気は起きなかった。
「傷は無いみたい。よかった」
「お前はその⋯⋯優しいよな」
「んー、甘くはないようにはしてるよ?」
「違いが分からねぇ」
「うん、むつかしいんだよね」
サリアははにかみながら、俺の頭を撫でた。子供扱いされる様な年でもないのに、どうにも彼女は俺と子供達を一緒にしている。
「悪い、もう少しここに居る」
「⋯⋯うん、わかった」
そんな彼女の笑顔に、俺はまた逃げた。




