ガラクタ人形パレード
「⋯⋯きったねぇな」
ホコリとガラクタまみれの部屋を見つめ、大きくため息を吐いた。吐息でホコリがまい、部屋から逃げ出したくなる。窓を開けようにも、窓へたどり着くための足場が埋もれているので到達できそうにもない。
部屋の片付けでもして気を紛らわせようとしたが、予想を超えた部屋の散らかり具合にまたしても気分が落ち込んで来る。
「うっわ、きったねぇー! まだ俺の部屋の方が綺麗だ!」
「るせ、俺は自分で散らかしたんじゃないからいいんだよ」
そんな俺の様子を見て、クローズはゲラゲラと笑っている。相手にする気すら起きないので、とりあえず放置しておく。
「さて、どっから片付けたもんか⋯⋯とりあえず、窓だけでも⋯⋯」
バゴォッっと何かを盛大に踏み潰しながら、何とか窓を開ける。これで湿気とホコリは幾分和らぐはずだ。
「後は足の踏み場か⋯⋯やべー、何年かかるんだこれ⋯⋯」
「そんなにはかからないでしょ。ほらほら、頑張れ頑張れー」
「はぁ、何してんだか。よっ、とぉ!」
床に散らばるガラクタをブルドーザーのようにまとめて押し出し、廊下のスペースを犠牲に何とか部屋の足場を確保する。
「本当にガラクタしかねぇな⋯⋯」
レンガの塊、木箱、よくわからない石、歯車。飛び出た棒を引っ張ると、おとぎ話に出てくる聖剣の如く鉄パイプがにょっきりと顔を出す。
一体何が入っているのか気になった俺は、刃物類が混ざってないか注意しつつガラクタの山を少しづつ崩し始める。
「誰だ、取れた風見鶏なんか捨てたやつ」
「ごめん、俺。どっかの屋根についてたやつが取れちゃって、そのまま持って来ちゃった」
「⋯⋯このガラクタ、お前の物が大半だったりしないよな」
「しないしない、これだけ」
「ならいいけど」
押し付けるように風見鶏をクローズに投げつけ、更に山を切り崩していく。これだけの量だ、何か使えるものが紛れ込んでるかもしれない。
そんな淡い期待を胸に、次々とガラクタを分別していく。と、汚れたレースの布切れが見える。気になって引っ張ると、それは金色の髪の人形だった。
「何それ?」
「さぁ。ただ、恐ろしく気味が悪い」
クローズが興味津々な目をしていたので、作業を中断して人形を渡してやる。
「これ、夜中に部屋に放り込んだら楽しそうだね」
「絶対にするなよ。振りとかじゃなくてマジで」
こんなものと夜中に顔を合わせたら間違いなく心臓が止まる。やるなら俺以外の人にやってもらいたい物だ。
それにしても不気味だ。元は可愛いドレス姿のようだが、今は汚れ破れ見る影もない。目玉は片方抜け落ち、腕や足も所々欠けている。
「誰がこんなもの持ち込んだんだ?」
「さぁねー。ん、何だろこれ?」
その背中に、何やら出っ張りが付いている。何かのスイッチのようにも見えるが、何が起こるか分からない以上あまり押したくはない。しかし人間とは不思議なもので、謎のスイッチは押したくなってしまうのが性だった。
クローズがスイッチを押すと、カチリと何かが動く音がする。次の瞬間、人形の五体が一斉に飛び出した。
「うわあああああ?!」
「ひいいいいいい?!」
予想外の光景に、クローズ共々盛大にすっ転ぶ。ガラクタの山に頭を強く打ちつけ、軽く目眩を起こした。
かなりの勢いで爆散した人形は、胴体を残して部屋中に散っていった。
「ビビらせんなクソが!」
忌々しげに残った胴体を部屋の隅にぶん投げ、ガラクタの整理を再開する。
「あー、びっくりした⋯⋯」
「いやあれは無いわ。誰が作ったんだよあんなもん、絶対性格悪いだろ」
あんなの誰だって驚く。
「いやー面白いね。他にはなんかない?」
「あってたまるか」
結局ゴミしか無かったので、一度外に運び出す。この運搬作業だけでも一苦労だ。重たいガラクタを1階まで抱えて降りなければならない。
「あのさ⋯⋯」
「うん?」
「いや、やっぱりいいや」
「なんだよー」
見てるなら手伝え、そう言いたい気持ちを堪えて黙々と荷物を運び出す。どうせ言ってもやらなさそうだし、何よりこれは自分の事だ。出来るなら、俺1人で片付けたい。
「ていうか今更だけど、お前何しに来たの」
「いや、暇つぶしだよ?」
「そりゃあよっぽど暇なんだな。可哀想に」
「そう言うなって。早く紗雅と仲良くなれるように会いに来たんだ。そんなに冷たくされると悲しくなっちゃうよ」
「はぁ⋯⋯」
正直放っておいてくれた方が気が楽でいい。特に他人と積極的に関わろうとする奴なんかは、はっきり言って苦手だ。というか、話す事も無いのに話せるほど器用じゃない。
会話は必要な時に、必要な事だけ話せばいい。
「ねぇ紗雅、何か俺に聞きたいこととか無い? なんでも聞いていいよ」
「興味無い」
「えー」
「何で他人の事についてわざわざ聞かなきゃならないんだ」
「人に興味が無いの?」
「ねーよんなもん。あったって無駄だ」
知った所でどうにかなる様なものでもないし、知らなくても困るような事じゃない。無駄に話すくらいなら、今は片付けに専念した方が効率がいい。
だと言うのに、コイツは飽きることなく俺にべらべらと喋りかけてくる。
「前にいた所はどんな所だったの?」
「何も無い」
「嘘だぁ。じゃあ、紗雅はそこで何をしてたの?」
「何もしてない」
「え⋯⋯」
「本当だ。何もしてない」
嘘偽りなく、本当に何もしてなかった。今思えば、あれは死んでいたも同然だ。死にながら生きてるだけの、それこそガラクタの様な。
「つまんねぇだろ? 分かったらさっさとどっか行ってろ。一人の方が作業しやすい」
「⋯⋯分かったよ、じゃあ最後に聞かせて。何かやりたい事は無かったの?」
「無かった」
即答する。クローズはその答えに寂しそうな顔をすると、ふらりとその場を去った。
そんなクローズの顔を、俺は何とも思わなかった。ただ、作業に集中出来るとしか思えなかった。
「ガラクタはどっちなんだかね。馬鹿らしい」
そんな俺を、俺自身がせせら笑う。笑っているのは果たしてどっちの俺か。それすら分からないまま、ガラクタの山は別の場所へ積み上がっていく。




