雨邪鬼
「……ぁ?」
思わず目を開ける。今まで暗い空しか見えなかった視界には、傘をさして心配そうに俺の顔を覗き込む少女がいた。
「何だ、アンタ」
「あ、起きた起きた」
少女は俺が大丈夫だとわかると、にっこりと笑った。
「何やってんだお前、どっか行けよ」
起き上がり、少女を追い払おうとする。しかし少女はそんな事を気にせずに俺に話しかけてくる。
「迷子? それとも夜逃げ?」
「迷子、そんで死にかけ。はい、どっか行け」
「あはは、面白いね」
「ちっ」
聞こえるよう大きな音で、悪意たっぷりに舌打ちをする。なんだか、凄く面倒な奴に絡まれた気がしてならない。
「もー、心配してやったのにー!」
少女はぶーと不満そうに口を尖らす。
「知らない奴なのにか?」
「知らない人でも、倒れてたら心配するよ!」
「はぁ……そうかよ、それじゃあ心配も無くなったし帰れ」
そう言って俺は少女に背を向けて歩き出す。すると少女は、俺のフードの端ぐいと引っ張る。
「……何だよ」
振り返り、敵意を剥き出しにして少女を睨みつける。少女は、俺のフードをがっちりと掴みながら相変わらずニコニコと微笑んでる。
「用がないなら離せ」
「用があるから離さない」
「なっ……」
「君さ、迷子なんでしょ?」
「そうだよ。自分で何とかするから俺には構うな」
「嘘だぁ〜」
「嘘じゃ……ねぇよ」
図星を突かれ、思わず言葉に詰まる。自分で何とかするから、なんてのは大嘘だ。本当はこのまま死ぬつもりだった。
「あー、やっぱり嘘だぁ」
「うるせぇ!」
「あははは!」
ちくしょう、完成に相手のペースに乗せられてる。
「まぁまぁ、そう怒らないでよ」
「誰のせいで怒ってると思ってんだこのクソ野郎……」
「えへへ、ごめんごめん」
少女は照れたように笑う。なんでコイツはこんなにも楽しそうなんだ。と言うか褒めてない。
「用ってなんだよ」
これ以上抵抗しても無駄そうなので、とりあえず少女の要求を聞いてみることにした。
用さえ聞いてやれば、俺を解放してくれるだろう。
「いやね、君迷子なんでしょ?」
「そうだよ、何回も言った通りだ」
「じゃあさ、じゃあさ」
少女は俺の正面へくるりと回ってくる。なんだか、凄く嫌な予感がした。
「──雨が止むまでウチで雨宿りしなよ? 寒いし、そのままじゃ風邪ひくよ?」




