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ジョーカー・ガン  作者: 唄海
1章 撃鉄を起こせ
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鋼鉄の雨

「やだよ」


 即答する。


「なら、いいって言うまで離さないよ」


 少女は再び後ろへ回ると、俺のフードを掴んで引っ張る。先程とは違って、このまま俺を引きずって連れて行こうとする様な強さだった。


「痛い苦しいやめろ離せ」

「なら、雨宿りしていきなよ。君、唇真っ青で寒そうだよ」

「え」


 言われて気がつく。俺の体は、芯まで冷えきっていた。寒さを感じなかったのは、それを通り越して麻痺していたからだった。


「しかもほら」


 少女はそういいながら俺のフードをぐるりと捻る。フードからは、大量の水が滴り落ちてきた。この様子だと、もう服は限界まで水を吸ってるだろう。


「だから、ね?」


 先程より少し心配そうな表情になりながら、にっこりと微笑んでくる。その表情は、駄々をこねる子供に対する母親のようだった。


「いやだっつって……ぶぇっくし!」


 突然寒気が体を駆け巡り、くしゃみが出る。今になって、体が震え出した。


「あぁ、ちくしょう……」

「ほらやっぱり、早く行かなきゃホントに風邪ひくよ」

「ちょっとだけ待て。少しだけ考えさせろ」


 俺は考える。もういっそ、コイツをはっ倒して逃げ出そうか。


「……やめとこ」


 僅かに残った良心が、俺自身の提案を俺自身が否定する。と言うか、コイツははっ倒しても構わず着いてきそうだ。だからと言ってこのままずっと黙っていると、本当に引きずって連れて行かれかねない。となると、残った選択肢は1つ。


「あ、これ詰んだ」


 諦める。同時に、俺はこの少女に勝てないと悟る。完全に根負けだ。


「諦めてくれた?」

「わかったよ! 行けばいいんだろ行けば! 焼くなり煮るなり好きにしやがれ!」

「わぁーい!」


 少女は大仰に跳ね回って喜ぶ。バシャバシャと水が撥ねても、不思議と彼女は濡れなかった。


「早く案内しやがれ」

「あ、そうだ」


 何かを思い出したように、少女はするりと俺の隣に来る。並ぶと、俺より頭1つほど小さかった。


「なにしてんだよ?」

「君、傘無いでしょ? 入って入って」

「うっ……」

「あれ、どうしたの?」

「傘なんて要らねぇ! てめぇ1人で勝手に使ってやがれ!」

「えー」


 少女と距離を置く。こんな時でも、女の子と相合傘なんて物に抵抗してしまう。

 だと言うのに、少女は全く恥ずかしがる事もなく距離を詰めてくる。


「……」


 無言で再び距離を置く。すると少女はまた距離を詰めてくる。そんな事を数回程繰り返した後、少女は何かを思いついた顔をした。

 そして、傘を俺にポイッと投げてくる。それを反射的に掴むと、少女はにっこりと笑いながらこう言った。


「あたしはもう傘持たないから、君が持ってよ」

「はぁ?」

「ほらほら、あたしが濡れちゃうよー?」

「考えやがったなこの野郎!」


 汚い手だ。少女が頑なに傘を持たないなら、俺が持つ他に無い。しかも、このままだと俺が濡れずに少女だけが濡れてしまう。


「寒いなー、冷たいなー」

「……雷でも落ちやがれ」


 恨み言を吐きながら、俺はしぶしぶと少女の上に傘を差し出した。


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