鋼鉄の雨
「やだよ」
即答する。
「なら、いいって言うまで離さないよ」
少女は再び後ろへ回ると、俺のフードを掴んで引っ張る。先程とは違って、このまま俺を引きずって連れて行こうとする様な強さだった。
「痛い苦しいやめろ離せ」
「なら、雨宿りしていきなよ。君、唇真っ青で寒そうだよ」
「え」
言われて気がつく。俺の体は、芯まで冷えきっていた。寒さを感じなかったのは、それを通り越して麻痺していたからだった。
「しかもほら」
少女はそういいながら俺のフードをぐるりと捻る。フードからは、大量の水が滴り落ちてきた。この様子だと、もう服は限界まで水を吸ってるだろう。
「だから、ね?」
先程より少し心配そうな表情になりながら、にっこりと微笑んでくる。その表情は、駄々をこねる子供に対する母親のようだった。
「いやだっつって……ぶぇっくし!」
突然寒気が体を駆け巡り、くしゃみが出る。今になって、体が震え出した。
「あぁ、ちくしょう……」
「ほらやっぱり、早く行かなきゃホントに風邪ひくよ」
「ちょっとだけ待て。少しだけ考えさせろ」
俺は考える。もういっそ、コイツをはっ倒して逃げ出そうか。
「……やめとこ」
僅かに残った良心が、俺自身の提案を俺自身が否定する。と言うか、コイツははっ倒しても構わず着いてきそうだ。だからと言ってこのままずっと黙っていると、本当に引きずって連れて行かれかねない。となると、残った選択肢は1つ。
「あ、これ詰んだ」
諦める。同時に、俺はこの少女に勝てないと悟る。完全に根負けだ。
「諦めてくれた?」
「わかったよ! 行けばいいんだろ行けば! 焼くなり煮るなり好きにしやがれ!」
「わぁーい!」
少女は大仰に跳ね回って喜ぶ。バシャバシャと水が撥ねても、不思議と彼女は濡れなかった。
「早く案内しやがれ」
「あ、そうだ」
何かを思い出したように、少女はするりと俺の隣に来る。並ぶと、俺より頭1つほど小さかった。
「なにしてんだよ?」
「君、傘無いでしょ? 入って入って」
「うっ……」
「あれ、どうしたの?」
「傘なんて要らねぇ! てめぇ1人で勝手に使ってやがれ!」
「えー」
少女と距離を置く。こんな時でも、女の子と相合傘なんて物に抵抗してしまう。
だと言うのに、少女は全く恥ずかしがる事もなく距離を詰めてくる。
「……」
無言で再び距離を置く。すると少女はまた距離を詰めてくる。そんな事を数回程繰り返した後、少女は何かを思いついた顔をした。
そして、傘を俺にポイッと投げてくる。それを反射的に掴むと、少女はにっこりと笑いながらこう言った。
「あたしはもう傘持たないから、君が持ってよ」
「はぁ?」
「ほらほら、あたしが濡れちゃうよー?」
「考えやがったなこの野郎!」
汚い手だ。少女が頑なに傘を持たないなら、俺が持つ他に無い。しかも、このままだと俺が濡れずに少女だけが濡れてしまう。
「寒いなー、冷たいなー」
「……雷でも落ちやがれ」
恨み言を吐きながら、俺はしぶしぶと少女の上に傘を差し出した。




