第一四話 ネクロス墓地のヴァンパイア
夜になってカラーナが迎えに来たので、一緒に宿を出て、俺達は先ずギルドに寄り、セイラのギルド証を更新した後、街を出た。
ちなみに王都のギルドは、夜の8時までは開いている。
そして街を出た後は、さくっとウールの森に移動。
森で適当に魔物を狩りながら、バロメッツの樹なるものを発見。
白いヤシの実みたいな形の実を採取。
試しに一個開けてみると、中には確かにふっわふわの綿が入っていた。
この綿は手触りがよく、更に軽いにも関わらずとても丈夫な為、衣服の材料として重宝されてるようだ。
まぁ一回に実る量が少ないので、その分価値も高いようだけどな。
その実を三〇個程採取して、アイテムボックスに入れた後、いよいよメインのネクロス墓地に移動する。
「……なんや不気味なとこやのう――」
カラーナがそんな事をいいながら俺に身を寄せてきた。
自分で付いてきておきながらも、こういった雰囲気は苦手なのか、可愛い。
「……くっつきすぎ」
「しゃ、しゃあないやろ! 大体墓場ってやっぱごっつぅ薄気味悪いねん」
うん、まぁその気持ちは判らないでもないけどな。
墓場から今にもゾンビとか出てきそうな……
「血ィ……」
「血ヲ、新鮮ナ血ヲ……」
「吸ワセロ――吸ワセロ……」
て! 言ってるそばからなんかあらわれたし!
「な、なんやこいつら!」
「……多分ヴァンパイアにやられた……」
あぁ、見た目も確かに冒険者って感じだし間違いないだろうな。
「……なるほどなぁ――で、こいつら助ける手段はないんやったか」
「……殺すしか、ない」
ふたりとも、どこか暗い面持ちでいってはいるんだけどね。
「あぁ大丈夫大丈夫。戦わなくても平気平気」
「……は? え? 何いうとんの?」
「……ご、ご主人様、まさか」
そのまさかだよ! キャンセル!
「血ィ……て? あれ?」
「血ヲ、新鮮ナ血は……いらないわね別に……」
「吸ワセロ――吸ワセロ……おっぱい吸いたい、うん?」
……うん、一人変なのいるけど、とりあえず戻ったな。
「……はぁ!? え? なにこれ! なんやねんこれ! なんでヴァンパイアなんとかになったのが戻ってんねん!」
ヴァンパイアミニオンな。
「まぁ治ったんだからいいじゃん。細かいことは別に」
「……ご主人様は偉大……それが判ればいい」
セイラは素直だな。
「いや! 細かいって! そんなん……うん、まぁいっか」
カラーナもなんか軽かった!
「いや、その、実は俺達もよく判ってないのだが……」
「確かあれに噛まれてそれからの記憶が……」
「僕も死ぬ前にせめておっぱいを! と思ってからの記憶がさっぱりだよ」
やっぱ変なのが一人混じってるな。
ちなみにこの三人パーティーは、イケメンな男とちょっときつそうなお姉さん系な女性と、背の小さい小柄な少年って組み合わせだな。
ぱっと見だとイケメンが戦士系、お姉さんが魔法使い系、少年は弓持ってるからアーチャーかな? そんな感じ。
で、未だなんだか怪訝な顔で俺を見てるから説明を、キャンセル!
「ま、まさか吸血鬼に噛まれてミニオン化した俺達を治したというのか?」
「……そんな事できる人みたことないわよ。教会の最高司教でも無理よ絶対」
「褐色のおっぱいとか最高です」
このパーティーに一人変なのがいます!
「……でも事実」
「うちもみとったし間違いないわ」
カラーナとセイラの話に、訝しげではあるけどふたりは一応納得を示してくれた。
もうひとりに関しては、カラーナの乳をガン視してるだけで会話はまったく噛み合ってないから無視。
「ところで、ヴァンパイアがどの辺にいるかはわかるのかな?」
本来の目的はそれだしな。聞いておかないと。
「ヴァン……そうだ! 駄目だここは一旦退いたほうがいい!」
「この人数じゃ無理だわ! ギルドに報告してAランク……いやSランクぐらい呼ばないと危険よ!」
「揺れるおっぱいに乗って、波乗りならぬおっぱい乗りでクールにトリック決めたいぜ!」
三人の冒険者が真顔でいった。しかし一人だけその方向性が違う。
「…………殺す!」
セイラが一旦自分の胸に手を当てて、ぐぎぎ、と悔しそうに唇を噛んだ。
そして血の涙が! 大丈夫! 胸なんかなくても君は素敵さ!
「ほぅ、これはなんとも奇妙なことだ。私の下僕と化した筈の連中が元に戻っているとは」
「――ッ!」
「しまった遅かった!」
「死ぬ前にせめておっぱ、げふっ!」
イケメンとお姉さんの顔が驚愕に染まる。
よくわかんない奴はカラーナに飛び込んで張り倒されて気絶した。
一生寝てろ!
「ふふっ、だがこれは僥倖だな。若い女の血は私にとって最高のディナーだ。今宵はいい夜になりそうだ」
なんかスケベそうな目でセイラを見てるけどな。
さて、俺達の前に瞬間移動でもしてきたかのように現れた男。
貴族が着てそうな白いコートと背中には同じく白いマント。
上背は中々の長身で、整った顔立ち、ただ肌は青白いか。髪は男にしては長くて色は白。
で、手の指には鋭い爪が生えていて、嬉しそうに吊り上げた口角からは、牙が見え隠れしている。
つまりだ――
「お前がヴァンパイアってわけか」
「……ウァンパイア? くくっ、なんだその連中から聞いていないのか?」
俺が問いかけると、不敵な笑みを浮かべて男が問い返すように言ってくる。
「どういうこと?」
だからふたりに顔を向けて疑問を口にしてみた。
「そ、その男はヴァンパイアロードだ!」
「私が鑑定持ちだからわかったのよ……ヴァンパイアと思って挑んでるようじゃ絶対勝てない!」
「くくっ、そういうわけだ。いやしかし、いつみても私の正体を知ったものの絶望する表情はさい――」
「ふ~ん、へぇ~」
「な!?」
今度はヴァンパイアロードさんが仰天したな。
「き、貴様なんだその態度は! わかっているのか? ヴァンパイアロードだぞ! ヴァンパイアの中のヴァンパイア! ウァンパイアのエリートたるヴァンパイアロード! それが私だ!」
「あっそ」
鼻をホジホジしながら興味なく返す。
何をえらそうにしてんだかしんないけど、別にヴァンパイアでもロードでも殺ることはかわらないし。
「いや! 本当に判っているのか!?」
「ヴァンパイアはレベルは精々50程度なのにこのロードは150! おまけに不死身で太陽の光か聖属性の武器でないと死ぬことはないわ!」
うん解説ありがとう。でもそれでも問題はないんだよな。
「大丈夫やで、あぁ見えてあのヒットは強いんや。何せレッサードラゴンをあっさり倒したぐらいやしな」
「え? れ、レッサードラゴンをか……」
「た、たしかにそれは凄いけど……」
うん、カラーナの発言に、ふたりの冒険者が驚いてはいるけど、ちょっと微妙って雰囲気も醸し出してるな」
「くくっ、あ~はっは! なるほどな。貴様はそれでそんなに余裕でいられたわけか。だが馬鹿め! レッサードラゴン程度なら、この私も何匹も食してやったわ! マズイ血だったがな!」
「な、なんやてーーーー!」
うん、カラーナが随分驚いてるけど、まぁこいつレベル150だしね。
レッサードラゴンは95とかだし。
「くくっ、だが今ので貴様のレベルは大体判ったぞ。100、いや! ずばり120といったところか!」
ぜんぜん違うよ馬鹿。
120って俺の0.000000000000001%にも及ばないし。
「まぁいいや。とりあえず倒すね」
「はぁ!?」
ロードなんだから一々驚くなよ。
「さて、じゃあ夜をキャン――」
「……!? 駄目! ご主人様!」
て、え?
「……それは駄目、絶対」
「え~駄目なの?」
「なんかなんとなくやけど、うちもそれはあかん気がするわ」
セイラとカラーナに止められてしまった。
夜をキャンセルして朝にすればさっくり倒せると思ったのに。
別にいいじゃん、みんながちょっと早起きすることになるだけだし。
「夜をキャン……何を言っておるのだ貴様は!」
あ、なんかヴァンパイアロードが切れてるし。
う~ん、でも駄目ならじゃあしょうがないか。
まぁやろうと思えば、不死身もキャンセルできるし――て、うん?
セイラが俺より前に出始めたな……
「……ご主人様、ここは私が……私がやる」




