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第1話 別れと出会い

新作です。これまた勢いで書いたので、僕にも先の展開がわかりません。やはりプロットとか作ってからの方がいいのでしょうが、反省はしています。しかし、後悔はしていない(笑)。

「もしお兄ちゃんの大切な人が死んだら、お兄ちゃんはどうする?」



確かちょうど夕焼けがきれいな日だった。


肌にあたる風は最近やけに刺々しく、夏の終わりを文字通り痛感させる。他にも空に浮かぶ太陽の、先日までの火であぶるような暑さは夏に置いてきたとでも言わんばかりに、すっかりなりを潜めている。さらに今は、綺麗な秋晴れの空にそのオレンジ色を溶かし混み実に鮮やかな夕焼けだ。

そんなよき日に我が妹普上 真理(ふがみ まり)は唐突に言ったのだ。

どうやら真理は空気が読めないらしい。


「この夕焼けの綺麗なよき日に、妹よ。お前は何をいってるんだ?」


そうだ。こんなよき日にそんな話は聞きたくない。正直興ざめもいいところだ。

綺麗な風景で癒された心に不意討ちを食らった感じだ。

だが、それを聞いた真理は少し困った様に笑うとこちらを振り返りながら言った。


「う~ん。そうだね。また今度にするよ。」


この時俺は真理の態度に少しだけ違和感を覚えていた。しかし、特に深入りすることはしなかった。もしそんな行為をすればそれこそ興ざめだと思ったからだ。

だが、今だからわかる。この時俺は深入りしなかったんじゃない。出来なかったのだ。多分俺は本能的にこの件に対して深入りすることを、拒絶していたのだ。知ったら、この普通が、平穏が、平和が、日常が、……幸せが失われるような気がして。

この時深入り出来なかった俺は、やはりダメな兄なのだろう。妹があんなに困った様に笑い、寂しそうに俺の隣を歩いているのに、俺は何もしてやれなかった。否、やれなかったのではない、やらなかったのだ。あれこれ理由をつけて俺は結局嫌なことから逃げ出したのだ。

しかし、我が妹はこんなダメな兄を怒ることも、叱ることも、罵ることも、誉めることも、殴ることも、蹴ることも、礼を言うこともなかった。

何故なら、理由は簡単だ。死人に口なしとは、よく言ったものだ。まさにその通り。死人にはもうしゃべる為の口も、殴る為の手や腕も、蹴る為の足もない。よって死んだ妹に俺をどうにかする手段はなかった。

そう。死んだのだ。

俺とあの会話をした日のちょうど3日後だった。ちょうど俺とあの会話をした交差点で。車にひかれた。俺の目の前で。

真理の最後はよく覚えてる。ただそれをここで話すのは止めておこう。というか、本音を言えば話したくない。ここまで話しておいてそれはないだろっと言いたいこともわかる。だが、許して欲しい。それだけは話せない。否、話さない。ただどうしても教えろというならば、これだけ聞いて許して欲しい。

あの時ほど真理との距離が離れていると思ったことはない。どんなに手を伸ばしても、死人に手を握らせることはできない。同じ場所に行こうと俺が自殺したって、今度は俺には伸ばせる手がなくなる。もう二度と触れることすらできない。










真理が死んでから1ヶ月たった。

俺は今日も学校を休んだ。この家にはまだ真理が存在した痕跡がある。両親も姉も皆悲しそうで、寂しそうな顔をしている。真理が死んでからずっとだ。

だが、一度街に出てしまえば、どうだろう。

友達が死んだのに楽しそうに笑う妹の友人、友人の家族が死んだのになにも知らないかのように陽気に話しかけてくる友人、そして何より真理がいなくてもなにも変わらず回り続ける社会。それがまるで真理なんか最初から居なかったとでも言わんばかりで、見ていられなかったのだ。




「もしお兄ちゃんの大切な人が死んだら、お兄ちゃんはどうする?」



窓から見える夕焼けからそんな声が聞こえた気がした。

このままじゃいけないのはわかってる。でも、大切な妹の死を乗り越えられるほど俺は強くなかったらしい。



気が付くと俺は妹の死んだあの交差点に向かっていた。理由はわからない。妹の死んだ場所に行って、もう真理がいないことを再確認する。俺なりそうして乗り越えようとしてるのかもしれない。もしくは……忘れないようにしているのかもしれない。真理がいたことを。ふらふらと歩きながら、そんなことを考えていた。




真理が死んだ交差点に着いた。しかし、特にやることもない。ただいつもはうるさいくらいに鼓膜を叩く車の走る音が、この瞬間だけは全く聞こえなかった。

いつまでここに立っているつもりだろう。

すでに鮮やかなオレンジ色から、全てを塗りつぶしたかの様な黒色に変わった空を見て、そう自問する。既に車の走る音はほとんどしない。


「…………」


答えは浮かんでこない。俺は、花束が置かれた一点を穴が開くほど視ていた。


「まったく。あなたはいつまでここに立っているつもりなんですか?」


「!?」


その声は、唐突に、後ろから聞こえた。

驚きながら振り向くと、そこには20代前半くらいの女性がいた。着ているのはおそらく十二単と言われるものだろう。日本史の教科書で見た覚えがある。

武術の心得などはないが、なんの気配もなく、なんの前触れもなく現れた彼女に俺は恐怖していたんだろう。彼女がゆっくりと歩んで来るのを見ながら、俺は思わず後ずさってしまった。


「あらあら。なぜにげるんですか?」


そう言ってクスクスと彼女が笑う。


「………………」


俺は黙ってまた後ずさる。そこで、ガサッと足が何かに当たった。俺がおそるおそる後ろを振り返ると、そこには真理の死に対して置かれた花束だった。


「ここで妹さんが死んだのですよね?普上(ふがみ) 賢次(けんじ)さん!」


「!」


普上賢次。それはまさしく俺の名前だ。


「何で俺の名前を……」


「あらあら。それくらい普通ですよ。だって私は神様ですから。」


クスクスと本当に楽しそうに笑いながら言った。

いつもならそんな話笑い飛ばしてやるところだが、何故か今回は笑えない。本能的にわかっているのかもしれない。相手が神であることが。


「……はは……なに言ってんだよ……。頭可笑しいんじゃねえか?」


震えそうになる足に鞭を打ち、強張っている顔の筋肉ひ必死に動かし、笑みを作る。


「どうしました?声が震えてますよ?」


それでも声の震えは隠せなかった。


「まだ、信じきれてないようですね。じゃあ証拠を見せてあげましょう。私神様だってことの。」


嘘だ。彼女ちゃんとわかってる。俺がもう彼女が神であることをほとんど疑っていないことを。

つまりこれは俺たちの上位関係を決定的にするためのものだ。


「とわ言っても、どうしましょうか。神様は出来ることが多すぎて困ります。ああ、そうです!こんなのはどうですか?」


目を疑うとはこういうことだろう。


「おにい……ちゃん……?」


そこに現れたのは真理だった。死んだはずの。


「……ま……り……?」


俺の喉からかすれた声がでる。

ポタッ。

気付くと目から涙が出てきていた。


「お兄ちゃん!」


それはどうやら真理も同じなようで泣きながら俺に抱きついてきた。

俺も両手を広げ受け止めようとする。

しかし、抱き合うことはできなかった。真理が俺の体を通り抜ける。まるで幽霊のように。

嫌だ。そんなはずはない。折角……また会えたのに。


「無理ですよ。あなた達が触れ合うことは出来ません。」


やめろ。言うな。


「真理さんは、入れ物のない魂だけの存在。まぁ、つまりは幽霊ですから。」


ああ、言われてしまった。これで見ないわけにはいかない。この現実を。

俺はゆっくりと後ろを向いた。

するとそこには、あの日とまったく同じ格好の真理がいた。ただひとつ致命的に違うのは、体が透けていることだけだ。

真理もゆっくりと顔をあげて、俺を見る。

……俺はどんな顔をしていたのだろう。

真理は俺を見たとたんに、悲しそうな表情を浮かべ、笑った。しかし、表情はなんとかなっても涙はならないらしい。真理はまだ泣いている。


「さよなら。……お兄ちゃん。」


それを言ったら、役目は終わったとばかりに真理は消えた。

……また俺はなにも言えなかった。


「それでは、そろそろ本題に入りましょうか?普上賢次さん。」


「………………」


俺はもう聞く気もなかった。帰ろうと歩き出した。明日は学校に行こうかな。


「普上真理を生き返らせたくはありませんか?」


ピタリと俺の時間が止まる。その様子を見て、彼女がニヤリとする。


「我が名はユガミ。あなたの願い。この神たる私が叶えて差し上げましょう。」


「ふざけんな!」


俺は思わず叫んでいた。


「あらあら。ふざけてなんていませんよ。」


「嘘だ!死者を生き返らせていいわけがない!」


それを聞いてまたクスッと笑うと、ユガミは声のトーンを落として言った。


「それを決めるのは、私です!」


その言葉に俺は何も言えなくなる。


「もちろんただとは言いません。」


俺は生唾を呑み込んだ。


「私とゲームをしましょう。」


「……ゲーム?」


「そう。ゲームですよ。」


ユガミはどこからともなく紙を取り出すと、俺の方に陰陽師が札を飛ばすみたいな感じで投げてきた。

その紙は俺の顔の前で止まると、俺から見えるように向きを調整した。




『ゲーム名 鬼ごっこ

ルール 1 フィールドはこの町全て。

2 最初は普上賢次以外の町民はユ ガミ側につく。

3 19時から7時は休みとする。

4 期間は一週間。

5 相手のに人間に触れることで味 方に変えることが出来る。

勝利条件 普上側 勢力が過半数を越える。

ユガミを捕まえる。

ユガミ側 町民全てをユガミ側にす

る。


なお、どちらの勝利条件も満たされ

ない場合は後日再戦とする。 』


「さあ、遊びましょう。」


ユガミが楽しそうに笑う。その笑顔は人に畏れを抱かせる。ユガミの放つ圧倒的な存在感が、嫌でも人の格の違いを思わせる。

……俺はユガミに勝てるんだろうか。神に人は勝てるんだろうか。もし勝てなくても、敗けが確実だとしても、勝たなくちゃいけない。

ここまで思考した時に気付いた。

ああ、俺はもう戦う気なんだ。ここまで思考しても、俺はゲームをしないことを考えなかった。例えそれが禁忌だとしても、やはり俺は大切な妹が生き返る可能性を捨てることはできない。


「ああ、ちょっと遊んでやるよ。」











「もしお兄ちゃんの大切な人が死んだら、お兄ちゃんはどうする?」


俺は答えられなかった。

もう遅いかもしれないけど。真理。これが俺の答えだ。

感想、誤字脱字、ゲームのルールについても何かありましたらお願いします。

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