9話「VS『灼熱の冒険者』①」
誤字報告を何件か頂きました。ありがとうございます
以後、気をつけますね
ブルノームの発言と共に姿を現した1人の女性を目にして、周りにいる受験者は驚愕・絶望・唖然といった表情を浮かばせている中、ウルフだけは首を傾げ、ポカンとした表情を浮かばせる。
「あの〜?」
「な、なんだよ!?」
ウルフは隣にいた男性の肩を叩き、声をかける。
「彼女は一体、何者なんですか??」
「おまっ!?チナツさんを知らないのかよ!?」
ウルフの言葉に、男性はまた別の驚きの表情を浮かばせる。どうやら、誰しもが彼女のことを知っていて当たり前のようだが、ウルフは4年もの間、『魔族の森』に篭って修行していたのだ。現状の情報が疎くて当然である。
「彼女はチナツ。Aランク冒険者で又の名を『灼熱の冒険者』。今、話題沸騰中の冒険者で来月に行われるSランク冒険者認定試験の受験候補者の1人とも言われている凄い人だぞ!?」
「へぇ〜」
「へぇ〜って………」
男性の話を聞いて、目の前にいるチナツの最低限の情報を知ることが出来たウルフは、真剣な眼差しで彼女のことを見つめる。
「冗談じゃねぇ!!こんなの受かるわけねぇだろうが!!」
巨体の男性が怒りを孕んだ表情を浮かばせて声を上げる。それに続いて、周りにいる受験者も不満の声をあげる。
「そうだ、そうだ!!」
「ギルド長を呼べー!!」
「ふざけんなー!!」
ギャーギャーと騒ぎ出す受験者達。無理もない。なにせ、相手は数々の試練を乗り越え、Aランク冒険者として名を馳せている人物なのだ。ハッキリと言って勝負にならないことだろう。
いよいよ、騒ぎが次第に大きくなり、事態が悪化しそうになったところでーーー
「……………黙れ」
「「「「ーーーーーーーーッッ!?」」」」
チナツから静かに発せられた、たかが一言。この一言により感じられた圧迫されるようなオーラによって、散々騒ぎまくっていた冒険者は誰一人言葉を出すことは無くなり、一気に無音に包まれた。
周りと違って、何一つ言葉を発せず、チナツを眺めていたウルフですら彼女の一言に全身に鳥肌が立つぐらいに痺れていた。
(これがAランク冒険者か!!)
ウルフはビリビリと全身を痺れながらも、周りと違ってニヤッと口角が上がっていた。
「…………もし、この場で棄権を望む者がいたらバッチを私の方へ寄越してください。今なら、特別に受験料を返金いたします。」
辺りがシーンとなったところで、ブルノームが前に1歩出て声をかける。そして、彼の手には箱があった。その中にバッチを入れて欲しい、ということなのだろう。
「こんなの、やってられっか!!おい、皆、行こうぜ!!」
そう言って、また別の男性が胸につけていたバッチを強引に外してブルノームの箱の中にぶち込む。これによって、この男性は今回の受験を棄権したことになる。
それに続くように他の人もバッチを外してブルノームが持つ箱の中に入れていく。
大勢いた受験者は次々と棄権していく。中には罵倒しながら去る者もいた。因みに、さりげなくウルフに助言を告げたヤナギも棄権していた。
その光景を見て、ブルノームは今回の西の広場で行われる試験の受験者は誰一人いないと思っていた。
「チナツ様、恐らく今回の試験の受験者は誰もいなくなると思われます。ここにいても時間の無駄になりますし、この辺りで引き上がりましょう。」
ブルノームはチナツの傍に近寄って言葉を出す。それに、同感なのかチナツも「………そうね」と言って、この場を後にしようとしたがーーー
「この人を倒せば、僕は冒険者になれるんですよね??」
とある場所から、そう声が聞こえる。チナツやブルノームを含め、未だにその場にいた誰もかが声の聞こえた場所にすぐさま顔を向ける。
すると、そこには胸にバッチを付けた白髪の1人の少年がいた。正体は言わずもがな、ウルフである。
「え、あ、あぁ、はい。」
珍しく、ブルノームは動揺し噛み噛みとしながらもウルフの質問を答える。まさか、受験を棄権しない者がいるとは思ってもみなかったからだろう。
「正気か、あの女!?」
「やめとって、死ぬぞ!?」
棄権した受験者達は、女子だと思っているウルフにそう声をかける。しかし、ウルフは棄権する気などさらさら無かった。むしろ、少しワクワクしている。
なにせ、相手はAランク冒険者。長年の修行の成果を試すのに十分すぎる相手だ。
「………私、いくら相手が女だろうと手加減はしないよ??」
チナツはウルフに向かって鋭く睨みつけながらボソッと声をかける。先程の一言以上に威圧がかかっていて、それを聞いた者、全員が鳥肌を立たせた。
「……………当然です!!早く始めましょう!!『灼熱の冒険者』さん!!」
それでも尚且つ、ウルフは怖気付くことなく、むしろ笑いながらチナツに向かって言葉を出した。
♠♠♠♠♠
「それでは、ただいまより、冒険者登録試験を始めます!!」
西の広場の中央で、ウルフとチナツが互いに一定の距離を保ちながら向かい合う形で立ち、2人の中央にはブルノームが審判役として立っていた。そして、その周りには多くの棄権した受験者たちが戦闘を見ようとと集まっていた。
「改めて、試験内容を解説させていただきます。戦闘時間は10分。その間は、どう戦ってもらっても構いません。試験官が身につけているバッチを破壊した時点で合格です。………いいですか?リーフさん。」
「はい。」
ブルノームの説明に、元気よく答えるウルフ。その手には、彼から渡された今回の試験用の木刀があった。もちろん、チナツもウルフと同じ木刀を手にしている。
「それでは………両者、前へ!!」
ウルフとチナツは同時に前に出て、各々木刀を構える。いつでも、互いに飛び出せる準備は万端だ。
(…………珍しい構え)
木刀を構えるチナツは今のウルフを見て、言葉に出さず心の中でそう呟いた。
今のウルフは思いっ切りと腰を引き、木刀をてにしていない方の手を地につけて低い態勢を取るように木刀を構えていた。
その姿はまるで、四足獣のようなものだった。
「試験、始め!!!」
ブルノームの合図により、いよいよと待ちに待った試験が始まった。
「はぁぁあ!!!」
先に攻撃を仕掛けたのはチナツだった。目にも止まらぬ速さで一気にウルフとの間合いを詰め、木刀を振り下ろそうとする。
本来ならば、ほとんどの相手はこの一撃で沈むことだろう。この中にいる人間で数少なく、チナツの速さを目で追いついていたブルノームはそう思った。
しかしーーー
「はぁぁ!!」
ーーーガキン!!
「「ーーーーーーーーッッ!!」」
ウルフはチナツの攻撃を、手にしていた木刀で難なく受け止めた。
「…………………へぇ」
(まさか………チナツ様の攻撃を追える者がいるとは。)
ブルノームは平常心を装っているが、内心、焦りながら言葉を出す。チナツ同様レベルの冒険者ならまだしも、冒険者にすらなっていない少年が、彼女の攻撃を受け止めれるとは思ってもみなかったからだ。
この4年間の間、ウルフは足の速さに特化した高ランクモンスター達と戦う日々を送ってきた。ある程度の速さならば、普通に目で追うことができる。
「ふん!!」
チナツの木刀を弾き、その一瞬の隙に彼女の腹部に目掛けてウルフは木刀を振るおうするが、そのまま彼女は後方に下がって距離を取った。
「……………やるね、君。」
距離を取ったチナツはウルフに言葉を出す。
彼女は最初はウルフのことを命知らずの馬鹿な子だと思っていた。しかし、今の攻撃を受け止めた時点で只者ではないということを理解する。
「今度はこっちからだ!!」
ウルフは地を蹴って、チナツに立ち向かう。
(ーーーッッ、速い!!)
ウルフの余りの速さにブルノームを含めた、棄権した受験者達は驚きの表情を浮かべる。
「…………………いいね」
瞬きする間もなく、チナツの目の前まで接近したウルフはバッチに向かって木刀を突き出す。このままいけば、彼女のバッチを破壊することができるのだがーーー
相手はそう簡単にバッチを譲ってくれはくれない。
ウルフの攻撃を、チナツは見極めながら弾く。
「まだまだぁ!!」
追い討ちをかけるように、次から次へと圧倒的な速さでウルフは木刀を振るう。
しかし、彼のどの攻撃もチナツは見極めて弾いていく。流石は経験を多く積んでいるAランク冒険者といったところだろうか。
「………………いいよ、いい!!君、凄くいい!!」
攻撃を弾いていくチナツはそう言いながら、次第に気持ちが昂り始める。
(これは………少しまずいかもしれませんねぇ)
それに気が付いたブルノームは不安な気持ちを抱く。それと同時に、この先、何か悪いことが起きるのではないかと予測する。
そして、それは見事に当たることとなる。
「……………私、決めたよ」
「ーーーーーーーくっ!?」
連撃をするウルフの隙を狙って、回し蹴りをするチナツ。彼女の蹴りが彼の顔面に直撃する寸前に、ウルフは身体を強引に捻らせて回避し、少し距離を取る。
「ブルノームさん」
「…………なんでしょう?」
ウルフが距離をとったところで、チナツはブルノームに声をかける。ブルノームは胸騒ぎを感じながらも応答する。
「残り時間は?」
残り時間を聞かされて、ブルノームは手にしている小時計を目にする。すると、残り時間は………
「5分と30秒です。」
「…………あともう半分か。」
残り時間を確認したあと、彼女は何回か深呼吸を行い、とんでもないことを口にした。
「この子…………、もう合格でいいよ。だから、残り半分は…………加護を発動させてガチでいく。」
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