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ルーチェの正体、リーナにバレた

ルーチェが来てから、俺のステータスは変なことになっている。


【レイ 4歳 人族】

 HP:15/15 MP:8/26 Lv:2

 素質:時空間(極希少)

 蓄積:時空間・小

 スキル:鑑定Lv1 アイテムボックスLv1 ディメンションルームLv1

 固有称号:転生者

 従魔:エンシェントドラゴン(幼体)


 MPの最大値が、毎日少しずつ伸びている。


 理由は単純で、ルーチェが毎日、俺の魔力を根こそぎ奪っていくからだ。足りない分は大気から魔力を集め与えている。そして空になった器は、回復するたびに少しだけ大きくなるらしい。卵に魔力を込めていた頃から伸びてはいたけれど、生まれてからの伸び方は桁が違う。育ち盛り、ということなんだと思う。


 そのかわり、俺は夕方になるといつも、軽い立ちくらみと付き合うことになった。


「レイ、顔色わるい」


 セルが俺の顔を覗き込んで言った。


「平気」


「るーちぇが、ごはん食べすぎるから?」


「……鋭いな」


 セルは「るーちぇ! レイのごはん、のこしてあげて!」と真面目な顔でルーチェに説教を始めた。ルーチェは止まり木の上で、わかっているのかいないのか、きゅう、と神妙に鳴いた。



 セルとルーチェは、もうずっと前からの友達みたいになっていた。


 朝の追いかけっこは日課で、廊下を猫としっぽと翼が転がっていく。セルが隠れんぼを教えれば、ルーチェは天井の梁という反則の場所に隠れて、セルが「ずるい!」と怒る。そのくせ、セルが院長先生に叱られて廊下の隅でしょげていると、ルーチェはいつのまにか隣にいて、翼をセルの肩にかけている。


「るーちぇは、いいこ」


 セルが言うと、ルーチェは胸を張る。それを見て、またセルが笑う。


 いい関係だと思う。心からそう思う。


 ただ——俺は時々、忘れそうになる。この小さな生き物が、伝説の中の存在だということを。



 忘れさせてくれないのが、リーナだった。


 その日の午後、俺が森から帰ると、リーナは食堂のいつもの場所にいた。膝の上にはいつもの薬草の本——ではなくて、もっと古い、革表紙の本が開かれていた。


 そして、その横のテーブルの上に、ルーチェが座っていた。


 リーナは本とルーチェを、交互に見ていた。


「……ただいま」


「おかえり、レイ」


 リーナは顔を上げて、それから、少しだけ間を置いて言った。


「ねえ、レイ。ルーチェって、ただのトカゲじゃないよね」


 俺は籠を置く手が、一瞬止まった。


 リーナが本を、こちらに向けた。


 開かれたページには、古い挿絵があった。長い首、折りたたまれた翼、月を見上げる竜の姿。輪郭は今のルーチェより遥かに大きいけれど、頭の形と、翼の付き方と、尻尾の先の形が——同じだった。


 ページの隅の古い文字を、リーナの指がなぞった。


「竜、って書いてある。古い言葉で。……この本、ルーチェの名前を探したときに見てたやつ」


 ルーチェはテーブルの上で、自分の絵だとわかっているのかいないのか、挿絵に鼻先を近づけて、ふんふんと嗅いでいた。


 俺はしばらく黙っていた。誤魔化す言葉は、いくつか思いついた。似てるだけ、とか。トカゲにも色々いる、とか。


 でも、相手はリーナだった。止血草を見つけた目と、毎日本を読み続ける根気の持ち主だ。今日誤魔化しても、この子は調べ続ける。そして、いつか確信に変える。


 だったら。


「……内緒に、できる?」


 俺が言うと、リーナは目を少しだけ見開いて、それから、ゆっくり頷いた。


「うん」


「誰にも?」


「誰にも。……アリア姉さんにも?」


「アリア姉にも。今は、まだ」


 リーナはもう一度、今度はしっかり頷いた。それから本を閉じて、小さな声で聞いた。


「……竜、なの?」


「たぶん。鑑定——じゃなくて、その、なんとなく、そうだと思う」


 危なかった。スキルの名前まで言いかけた。リーナは「なんとなく」の部分に少しだけ首をかしげたけれど、それ以上は聞かなかった。代わりに、テーブルの上のルーチェに向き直って、ぺこりと頭を下げた。


「よろしくね、ルーチェ。……すごい子なんだね」


 ルーチェは、きゅう、と鳴いて、リーナの指に頭をすり寄せた。


 秘密を知る人間が、一人増えた。不思議と、不安はなかった。むしろ、荷物を半分持ってもらったような、変な安心感があった。



 夜、寝る前に、リーナが俺の部屋の戸口に来た。


「これ」


 差し出されたのは、紙の束だった。古い本から書き写したらしい、竜についての記述。「竜は月の満ち欠けに敏感」「竜は魔力の濃い場所を好む」「竜の成長は、主の器に従う」——。


「役に立つかなって」


「……ありがとう」


「ひとつだけ、気になるのがあって」


 リーナが紙の一枚を指した。


「『竜は、己の在るべき場所を、空に探す』って。意味は、わからないんだけど」


 リーナが帰ったあと、俺はその一文を、何度か読み返した。



 その夜遅く、ふと目が覚めると、腹の上が軽かった。


 ルーチェは窓辺にいた。


 桟に小さな前足をかけて、夜空を見上げていた。月が出ていた。満月には少し足りない、欠けた月だった。


 ルーチェは身じろぎもせずに、長いこと、月を見ていた。それから、小さく、本当に小さく、きゅう、と鳴いた。


 いつもの鳴き声と、違う響きだった。誰かを呼ぶような。何かを探すような。


 頭の中に流れてくる感情は、淡くて、遠くて、言葉にならなかった。さみしい、に似ていて、なつかしい、にも似ていた。


「……ルーチェ」


 声をかけると、ルーチェは振り向いて、いつもの顔で俺の布団に戻ってきた。腹の上で丸くなって、すぐに寝息を立て始めた。


 俺は、リーナの書き写してくれた一文を思い出していた。


 ——竜は、己の在るべき場所を、空に探す。


 月明かりの中で、俺はしばらく、眠れなかった。

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