1話
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
知り合いのいない高校に入学するからと、高校デビューをしようとしてしまったから?
それとも、高身長を活かすために髪を短くしてしまったからなのだろうか。
私はただ普通に友達を作って、普通に部活をして、普通に高校生活を送りたかっただけなのだ。
あぁ、今日も学校が始まってしまう。お腹痛い、胃薬ほしい。
なんならこのままUターンして家に帰らせてくださいお願いします。
「学校についたわよ、起きて」
学校?もうついたの?早くない?あと6時間ぐらい車に乗ったままでもいいと思う。
「しずく?」
「わかってるよお姉ちゃん。それより、毎日私の学校まで送るのしんどくない?」
「どうせ出勤の途中にあるんだし平気よ。しずくだって満員電車乗るの嫌でしょ?」
「それはそうなんだけどさ……」
何を隠そう、私が今乗っている車はゴリゴリのスポーツカーなのだ。
これで登校しているのだから目立って仕方ない。
「ほら、早く降りなさい」
「わかったよ。お姉ちゃん、今日も送ってくれてありがとう」
「どういたしまして」
降りてしまった。そして姉はもう行ってしまった。
今から私は一人で戦わなくちゃいけないんだ。
一度深く深呼吸をして、覚悟を決めて振り返る。
猫背にならないように、不安そうな顔をしないように。
笑顔を作って手を振るだけ。
簡単なことだ。
「みんな、おはよう」
「「「「きゃ~~!!!!!」」」」
う、耳が……。
視線怖い、手汗ヤバイ。
「今日もかっこいい……」
「私、今目が合った気がする」
「車から降りる姿……最高ね」
Why?なぜ?
ただ普通に車から降りただけだし、目も合わせないようにしているのに。
「歩く姿も凛々しい……」
「あの笑顔に救われる……」
顔が引きつらないように、手を振って急ぎ足で校舎に向かう。
下駄箱にも、廊下にもたくさんの人がいて、みんな私を見てうっとりとしている。
髪型か?この髪型がいけないのか?
「しずく先輩、おはようございます!」
ひっ!!!話しかけられた!!!!
廊下の向こうから、一年生らしい小柄な子が頭を下げてくる。
「おはよう」
できるだけ爽やかに返すと、その子は顔を真っ赤にして友達らしき子の後ろに隠れた。
「今の声ヤバイ……!!」
「尊すぎる……」
なんで?
もう無理だ。
まだ教室にもたどり着いていないのに、私のHPはもう3しか残っていない。
きっと今ピコンピコンって音が鳴っているんだ……。
とりあえず人のいない場所。
静かな場所。
酸素。
あそこに行かなきゃ。
一度教室に入り、荷物を置いてから目的の場所まで早歩きで向かう。
朝のHRまでまだ時間があるから、少しぐらい休んでも大丈夫だ。
たぶん。
女の子たちに挨拶をしながら歩いてしばらくすると旧校舎が見えた。
薄暗くて気味悪い雰囲気がするから、たまに授業で使う以外は人がいないのだ。
中に入って一番奥にある古びた教室。
私の憩いの場。
このホコリも木の匂いも全部私の酸素だ。
教室のドアを閉めた瞬間、全身の力が抜けた。
「っ、はぁぁぁ……」
もう無理、人多すぎ。
なんで朝からあんなに元気なの?
女子高って毎日文化祭なの?
近くの机に突っ伏す。
冷たい木の感触が気持ちいい。
「……帰りたい」
誰もいない空間だからこそ出せる小さな本音だった。
入学してからすぐ王子様扱いされて、2年生になった今もずっと続いているのだ。
なんなら、1年生が入学してきたことで王子様扱いがパワーアップしている気がする。
「私机になりたい。いや、机はみんなの役に立つからホコリがいい……」
「……先輩?」
「ひゃっ!?」
勢いよく顔を上げる。
幽霊!?
教室の入り口に目を向けると、一人の女子生徒が立っていた。
まだ新しい制服。
ふわふわの綿あめみたいな茶色く長い髪。
ぱっちりとした目。
どう見ても可愛い。
なんかもう女子高のお姫様ランキングがあったら上位にいそう。
「先輩、ホコリになりたかったんですか?」
「え……」
「机よりホコリになりたいんですか?」
さっきの独り言聞かれてた!?
いやそもそも旧校舎に入ったとき誰もいなかったよね!?
やっぱり幽霊……。
「わたし生きてますよ」
「ひっ……」
この子私の心の声に返事している怖い。
「さっきからずっと声に出していますよ」
終わった。
私の高校生活が今終わった。
女子高の王子様、実はホコリになりたがるコミュ障だったって校内の掲示板に張り出されるんだ。
私は勢いよく頭を下げた。
「せ、先輩?」
「お願い誰にも言わないで!私こう見えてメンタル豆腐だから!三日ぐらい寝込むから!!何なら不登校になっちゃうから!!!」
返事はない。
頭下げるだけじゃダメなのか?土下座したほうがいいかなぁ!?
「……ふっ」
わ、笑った?鼻で笑った?
「先輩って、思っていたより面白い人なんですね」
「お、面白くないよ……!」
「でも、なんか安心しました」
彼女はにこっと笑う。
「ちゃんと人間だったんですね」
「私は最初から人間だよ!?」
なんなんだこの子。
見た目綿あめみたいなのに意地悪なんだけど!
「安心してください」
彼女はそう言って、またにこっと笑った。
「わたし、誰にも言いませんから」
た、助かった……!
全身から力が抜ける。
「本当……?」
「はい」
優しい。
見た目だけじゃなくて中身まで天使――。
「その代わり」
条件!?
え、私今から脅されるの?
「私のペットになってくだい」
――え。
そう言った彼女は、さっきまでのふわふわとした雰囲気がなくなっていた。




