第18話 王都炎上
◆◆◆第18話 王都炎上◆◆◆
二階の攻防は、楽に進めたかと思えたが、次第に悪魔付きが混ざり出し、魔眼一発では死ななくなってきた。
「このクソが!」
使い勝手の良い風魔法の風刃を左手で出して肉片を刻み、土魔法の石槍か岩弾を右手で連射し、弾幕を作るように殲滅する。
もはや一撃で倒せない魔眼は使えなくなっていた。
「ああっ、火の魔法があったら燃やし尽くしてー!」
最大火力が足りない。もちろん今の持っている魔法も悪くはないのだが、四大属性魔法以外を扱える通称『ブレイカー』として、何を優先してレベルを上げるかと言う所でずいぶん悩んだ。
特異な魔眼は当たり前として、次にどういう進化をするかが分からない四大魔法を中心に上げる事が出来なかったのだ。
もちろん優先された中で、秘密にしていた方がいいと思って殆ど使っていない魔法もある。
だが、この魔法は燃費が悪い事が分かったのである。
いわゆる魔力を大量に食うのだ。
こんなザコなどに連発できる魔法ではない。もちろん自然回復もしているが、連射すればその内魔力が底を付く。
魔導士としてしか戦った事がない俺は、魔力が無くなった時点で終わりなのだ。
そもそも、魔力が無くなると気絶するように眠ってしまうのだが。
「ふう、一息つけるぜ」
指を咥えて水の補給をする。
そして次の獲物を探し、歩き出した時だった。
「よう」「あら」「ここらで」「休憩でもしていけば」
流れるような言葉で、壊れた窓枠に座る黒ベルトのボンデージファッションで決めたエロティックで肉感的な女二人と、どこからどう見てもモテる要素しかないイケメンのやはりお揃いボンデージファッションに身を包む、ゲロを吐きそうなくらいにギリギリ露出でほぼ股間しか隠していない爽やかイケメン二人が廊下を占領していた。
「見た目が良くても毒の花じゃね。退けよ、俺は無理やりにでも通るぜ」
言い終わる前に風牙を放つ!
弱い者には圧倒的力で、強い者には卑怯と言われても勝つ!それしかねえ!
だが、サキュバス、インキュバスと思しき悪魔は、フッと一息で俺の圧縮空気の刃を対消滅させる。
「ああ野蛮だね~」
「そうそう、もっと気持ちいい事しない?」
「俺らが相手をしてあげるよ」
「ふふふ、気持ち良い事をすると、戦争なんてどうでもよくなるわよ」
やべえ、下級悪魔なんだろうが、今までとレベルが違う。
これは出し惜しみは無しか……
「だよね。俺も気持ちいい事は大好きさ。まだ未経験だけどね。
でも、こっちは経験豊富なんだな。もう一発受け取ってみ」
俺はタクトを振るように指先を右上から左下へと振り、衝撃波を出した。
バチッ!
◇ジークフリート:視点◇
「ザコばかりだが、こうも数が多いとは!得体のしれない異形な魔物もいるし、めんどくせえな!」
単純な一振りの剣風で人間を吹き飛ばし、残った悪魔付きを一撃の下で真っ二つに斬る。
その歩みは今だ弱まっていなかった。
◇ハインリヒ:視点◇
「竜巻!氷化!」
風と水の同時魔法を唱える!
凍てつく氷が暴風の中で回りながら廊下を横回転して竜巻が伸びていく。
「自分の命くらい、てめえらが守れねえで何が反乱だ。待ってな真っ直ぐ行くぜレオ」
大規模攻撃が板についたハインツは、笑みを浮かべながら先を急いだ。
◇レオナルト:視点◇
「て、てめえ四大元素以外も使えるのか」
「ああ怖っ、おじさん地の顔が出てるぜ。醜い顔がよ」
心の中でこれは効いてる、効いてる、とほくそ笑んでいた。
「みんなダラケてみっともねえな、連鎖雷撃」
俺は雷魔法のレベル4の魔法を発動させた!
単純な雷撃、プラズマのように光る弾が、光の速さで対象にぶち当たり、そこから周りの対象へと連鎖・雷撃が転がっている仲間へと広がっていく。
バリッ バリバリバリ!
声も上げられずに硬直しながら苦悶の表情を上げる淫魔たち。
「それは、めったに人間どもが使えないはずの雷……」
端にいた男が俺を見上げながら話し出す。
俺はそれに対して丁寧に答えてやった。
「ああ、俺の生まれた日はどうやらスゴイ嵐だったらしくてな。大雨、大風、そして大量の雷が降っていたらしいぜ。だからこんな事も出来るのさ、落雷召喚」
レベル6の雷を召喚する。
少し高めの廊下の天井に靄が発生し、雷撃が突然落ちた!
床をも揺るがす衝撃と振動。しかも一瞬だけの雷ではなく、雷光がずっと残ったままの状態で電撃を与え続けていた。
この電撃の厄介なところは、俺の指や腕などから出現するのではない、召喚だけに敵の真上からいきなり雷が振り落ちるのだ。光の速さで。しかも魔力の込めただけ増減できるし、落雷の場所も選べるのだ。
その落雷をまあまあ強く魔力を込めて、意識もうろうとしていた男に当てる。
「グギイイイイイイイイイイ」
ブスブスと煙を上げて体内からジュール熱で焼き切る。しかも自然に周りへも放電しているので、辺りの淫魔は全員感電しながら硬直していた。
「面倒だ、全員死ね」
魔眼を大量に使っていたおかげか、レべルが一つ上がってLv6になったばかりの魔眼を発動する!
ひゅんひゅんと黒い影が感電して動けない淫魔に纏わりつき、一人、また一人と弱った魂を刈り取る。
「死神だけに、人間離れしてきたな。精神的にも慣れたし、いくらか腹の減りも無くなったような気が……ん?!」
その時、後ろから声を出しながら走ってくる人間の姿があった。
「レオくーん!おまたせー」
その人間は満面な笑顔で馴れ馴れしく名前を呼びながら近寄って来たのだった。
◇その頃執務室に幽閉されていた王らは……◇
「陛下、そろそろ激しくなってきましたなぁ」
何もする事がない今、椅子に座って貧乏ゆすりをするしかなかった。そこへ一緒に閉じ込められた第一宰相のフリードリヒの姿もあった。
「ああそうだな。いよいよ佳境に入って来た感じだな。では……儂もそろそろ準備をするとするか」
机の上のランプや書類を全て腕で下へと落とし、引き出しを開けてロックを外すと重たそうな黒い天板をググっと持ち上げた。
「若い時からそんな仕掛けが好きですなぁ」
フリードリヒの独り言を無視し、天板の下から出て来た真っ赤な鞘に納められた一振りの剣を取り出す。
「久しぶりに使いますか。お父様より使ったら駄目だと言わわて怒られた一品を」
鞘を腰へと留め、久しぶりに抜剣する。
「子供におもちゃを与えちゃ駄目だと先代にも言われましたなぁ」
その刀身は、白銀では無く、炎が揺らめくような紅色の刀剣だった。
「あーあ、私の命もここまでですなぁ」
「さっきからごちゃごちゃと煩いぞ」
「いえ、最後なので言わせてください。陛下のおしめも変えた事があるのですぞ。最後にもっと美味い物を食べておきたかった」
「それだけか。付き合わせてしまって悪いな」
「いいえ、退屈しませんでしたので。楽しかったですよ」
「そうか……」
嘘は言っていないと思う。長年連れ添った宰相。死んだ妻よりも長い付き合いだ。嘘位は分かる。
今は澄んだ目で開いた窓を見て遠くを見つめていた。
王都の町は燃え、警笛の鐘は大分前から止まっている。
そして感じた事のない異様な魔力も上昇。そして異形の者の襲来。
人質を取られては何も動けんわい。
だが、一つだけ。一つだけ望みがあるとすれば、レオナルトか。
生まれた時しか顔を見る事は叶わなかったが、アレは、大成するであろう。夜な夜な離宮から抜け出ておったようだが、逞しく育った。
執務室から見る離宮は遠くにあるのだが、今や下から燃やされ崩落しかけていた。
そしてその向こうから迫りくる大量の砂塵。
そしていつの間にか感じるようになった空振。
「スタンピードも同時に仕掛けて来るとはね。陛下もツイてない」
「こういうのは容易周到と言うんじゃないのか?」
「もうどうでも良いんですよ。思い切ってやちゃってください。思い残す事はありませんしね。息子のエーリヒが上手くやるでしょう。戦闘員以外は何人か逃げていれば合格点ですがね。それを見届ける事が出来ないのはしかたがないですな」
「ああ、そこら辺は上手く事が運んだわ。アレが……レオが次の王にならん事を」
「そしてエーリヒが私の後を継げるように……」
幼馴染とはいがたいが、物心がついた時から一緒だった俺ら。
今のエーリヒとレオナルトの関係に近いあいつらの健闘を祈る。
「さあ、やるか。最後の聖戦だ」
「私は幸せでしたよ陛下」
「ふん、女々しいセリフは聞きたくないな。こういう時は叱咤激励を言うんじゃねえのか?」
「おっと忘れるところでした。最後の仕事ですよ陛下。灰燼と化すまでやりつくすのですぞ……こうですか?」
「ああ。やるぞ」
俺は製作者不明の1000年以上も前から国の宝物庫に入っていたと言う炎の魔剣を握りしめる。炎の魔石から削り出したと言われるが、今や作り方が分かる者はだれ一人としておらん。
それよりも伝えねば、と俺は机の中に入っていた渦巻き状の一枚貝のような鉄製品を取り出して小さなスイッチを押す。
「コンラートだ。王都の皆にはこの声が届いていると思う」
その声に、城内以外の領民達は耳を傾ける。
「今朝から続いているこの戦闘は、悪魔が仕掛けた物であった。長年勤めあげた第三宰相が悪魔に唆され、知らぬところで大勢の正騎士団、魔法騎士団が離反した。この責任はこの儂が取ろう。そしてまだ知らぬ者が言うrと思うが、すぐ先の魔の森から幾千、幾万もの魔物がスタンピードをおこしておる。ここは儂らに任せて一旦撤退するのだ。王家の生き残りもここは逃げてその血を残すのだ!反撃の時は必ずやってくる!今は生き残る事を最優先とし、再び再建するまで力を溜めろ!急げ!魔物はすぐそこまで来ておるぞ!」
城下町で戦っていた者、門を開けて第二騎士団を迎え入れた者、逃げて来た馬を捕まえ、何も持たずに跨り逃げていく。
軍馬の中でも特に大きい魔闘馬が大型馬車を引きつれ大勢の人を乗せて走り出す。
執務室では俺の声を聴いた敵兵がドアの前に大勢集まっていた。
そこへ炎の魔剣を一振りし、ドアを袈裟懸けに敵兵もろとも断ち切った。
「さあ、老いぼれたとはいいえ、これでも武王と呼ばれた男だ。この首、簡単には取れると思うな!オオオオオオオオオ!」
身体強化の魔力を剣にも流す。
魔法は使えなかったが、この剣のおかげで普通では切れぬ物も切る事が出来た。
深紅に輝く魔剣を振る度に、数人がまとめて肉片に変わる。
だが、それもここまでだった。
「少し甘く見ておったわ。まさか魔剣が今もここに隠されているとはね」
異形の者。人間、牛、羊の三面人。更に鳥の足や蛇の尾もあった。
「いっぺん死んどけえええええ!」
渾身の力を入れて剣を振るった!
ガキインッ!
何処からか出て来た槍が俺の剣を遮っていた。
「お前が死んどけ」
ゴオオオオオオ
口から火を噴く悪魔!
凄まじい熱気が全身を包むのだが、魔剣のおかげで幾分、火力を減衰する事が出来た。
「この儂に炎など効かぬわ!」
ハッタリだが、自分自身を鼓舞する!
逃げるところなどない。いや、逃げるつもりも無かった。
剣を出し、渾身の力で悪魔を切る。
ガキイン
ガキイインッ
遮られ、跳ね返され、そしてまた火炎を受ける。
怯んだ所へ連続の突きがやって来て肉を切られる。
流石に全盛期とは違い、思うようには行かない。
スタミナも、力も、そしてその理力も。儂らとは一線を越えている。
ここまでか。
全身黒焦げになったまま拡声の魔道具を握りしめる。
「全国民よ!逃げよ!逃げて再建するのだ!儂はコンラート!逃げて力を蓄えるのだ!
エル=カーディア国に栄光あれ!!」
命が燃える程の魔力を一気に魔剣へと流す。
小さい魔石ならば一瞬で壊れるのだが、このサイズの魔剣は、そう簡単には壊れない。
だが、それ以上の魔力を与え続ければ?
「バカな人間だ」
「そうか?まあ付き合えよ。あの世でもな……一緒に死ねええええええ!
レオナルト…………マクダレーナ……今からそっちに向かうぞ」
大人しく椅子に座って佇むフリードリヒ。
そして発光する輝く剣からの発光を受けて相手を睨むコンラート。
深紅から白く輝くような発光をしていた魔剣が一気に…………爆ぜた!
ズドドドドドドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴドドドドゴオオオオオオオオオオオオオ!
超超高熱が一気に身体を蒸発させ、意識が一瞬で飛んだ……
勢いよく上がる火柱は、遠い南の交易都市ラグナ=ザハル市まで見えていた。
「兄貴…………」
◇ハインリヒ:視点◇
「レオくーん!おまたせー」
白いワンピースを着た20代と思われる女性が小走りでやって来た。
レオ君と言う事は姉弟の誰かか?
ひょっとして助けに来たのかと思って見ていると、両手を広げてハグをするような素振りが見えた。
少しは俺を待っていた者がいるんだな。
それが俺の気のゆるみだった。
女は至近距離で瓶の中に入った中身をぶちまけた!
「ぐあああ!」
咄嗟に躱したものの、顔の一部に激痛が走った!
「可愛い可愛いレオナルトよ。お姉さんの代わりに死んでくれ。代わりに私は完全なる美貌で女王となるのよ!ほーほほほほほ」
知らない女が高笑いしている中、すぐさま水で顔を流す。
多分酸のようなものだ。咄嗟に避けたが全ては躱せなかった。
だが……死ぬのはお前だ!
「ばかじゃねーの?死ねよ」
魔眼を発動させる。その瞬間だった。
超高温の火炎の波が一気に押し寄せる。
爆発を伴うその衝撃に、俺は薄れゆく意識の中、窓から外へと吹き飛ばされていた。




