第1話 赤い目の赤子
初めての『なろう』です。こちらでも書いてみたくなりまして投降致します。
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第一章:王国崩壊と死神の目覚め
◆◆◆第1話 赤い目の赤子◆◆◆
その日は嵐だった。
何かの前触れなのか、夜半から急に降り出した雨は徐々に激しさを増し、一晩中雷鳴を轟かせ、人々が眠りにつくのを邪魔するかのようにその地域一帯を、豪雨と雷鳴が支配していた。
「長いな……」
茶髪の壮年を過ぎたであろう初老の男が、ランプで灯された石造りの部屋の中で、椅子に座り、焦燥感を露わにしていた。
「もうそろそろだと思うのですが……」
部屋にはもう一人女性の姿があった。
手元にはランプを持ちその姿がおぼろげに見えていた。
濃紺を基調にしたロングスカートのクラシカルなメイド服に身を包んでいた。
長袖のドレスは足首まで届き、装飾は控えめだが仕立ては一流。
その佇まいは、仕える者としての格を静かに主張していた。
白いエプロンドレスは、胸元から腰までを覆い、洗い込まれた布地は柔らかく、それでいて皺一つない。襟元と袖口には細いレースがあしらわれているが、長年の奉公で磨かれた実直さを引き立てていた。
三十代半ばだと思われる年齢を感じさせる落ち着いた面差し。髪はきちんと後ろでまとめられ、飾り気はない。その手に掲げられたオイルランプの揺れる灯が、彼女の横顔に淡い陰影を落とし、長きにわたり目の前の男に仕えてきた者だけが持つ静かな威厳を浮かび上がらせていた。
夜明け前の一瞬の静寂の中、その目付きには迷いがなく、その家と目の前の男そのものを背負っているかのようだった。
ゴロゴロゴロゴロ
空に轟きが唸り、突如ピシャッ!と稲光が走る。
ガラス窓から外を見ていた男性は、眉間に深い皺をつくり光る空を見上げていた。
「陛下。寝室でお休みになられてはどうでしょうか」
陛下と呼ばれていた男性は、この国の国王だった。
しかし陛下と呼ばれた国王は即座に否定した。
「末の子供とは言え、我が子の誕生なのだ。儂が初めに見ないでどうするのだ」
「失礼致しました……」
暗雲の空が僅かに白みだしていた。
その部屋はドアが二つあり、一つは廊下へ、もう一つは分娩室だと思われた。
ガチャ
ドアが開く音と共に王は窓からドアへと視線を即座に移す。
だが、開いたドアは分娩室ではなく、廊下へと繋がるドアであった。
「フリードリヒか」
ドアから現れたのは初老の男性であった。
春先だというのに暖かそうなガウンを着ており、その室内着のまま王の前に現れても顔色一つ変えない男だった。
「何人目の子供ですか。王ならドシンと構えておきなさい」
いたずらっ子のように笑みを浮かべながら椅子に座っている王へ言い放った。
「五月蠅い。構えているだろ」
「視線が宙を彷徨っておりますぞ」
即座に返答するフリードリヒと呼ばれる男。
不貞腐れる王は、再び窓の外へと視線を向ける。
窓の外は、幾分嵐も収まったのか、若干空が明るくなり、遠くに稲光も遠ざかっているようだった。
王とフリードリヒの間にある豪華な飾りの入ったテーブルの上にあった冷めた紅茶をメイド服の女性が下げ、新しく湯気の立ち芳醇な香りの立ち込める紅茶を並べた。
「陛下、宰相様、紅茶でございます」
メイドが紅茶を置くと早速宰相と呼ばれた初老の男が飲みだした。
「朝の熱い紅茶は格別だわい」
「どうせ、早くから起きてたんだろ」
「まあな、陛下もその内解る。自然に目が覚めるのじゃ。陛下もいつまでも私が遊んであげた時のように若くはないのですよ。ふふふ」
「ああ分かった分かった。それ以上言うな。メイドも聞いているじゃないか」
そのメイドは顔を背け、笑みを漏らしているのを隠そうとしていた。
この王にして、この宰相。そして王の前で笑っても居られる関係からみても、この王は細かい事を気にしない性格であった。
コンラート・ヴァレンティヌス・エル=カーディア王
武の王と言う異名がある今生の王は、厳つい顔に似合わず子煩悩であった。
今なお仲の良いマグダレーナ・ピエタス・エル=カーディア王妃以外に側室も持たず、合計8名もの赤子を授かっていた。
そして今出産の真っ最中であり、城内では男か女か賭けが行われているにも関わらず、無礼講じゃと言って放置している豪快な男であった。
コンラート王は、妻であるマクダレーナの年齢を考えるとこれで最後の子供と言うのも理解しており、より一層の誕生を心待ちにしていた。
それは妻であるマクダレーナも同じで子供は幾らいても良かったのだが、45歳になって身ごもるとは思ってもみなかったのか、最後の赤ちゃんと言う事を陛下にも公言しており、陛下も一つの楽しみにしていたのだった。
「しかし、このような嵐とは縁起がいい」
フリードリヒ宰相は、ズズズと紅茶を飲みほした後、更に明るくなり出した空を見て言った。
「おい、フリードリヒ。そのような言葉は初めて聞いたぞ」
「でしょうな。私の考えた縁起物ですから」
なんだ、聞かせろよと王は紅茶カップを持ち、身を乗り出す。
「陛下、この世の理を信じますか?」
「この世の理だと?強い者が勝ち、弱者は滅びるのだろう」
「では、今の天気はどうですかな?」
「嵐は視界を悪くし、小さい者は動かず、大きな者が闊歩しても存在を消せるいい機会だとも言える」
「だが、大量の雨は山を削り川へと流れ、肥沃な水や土を運んでくれるのです。雷は高い木々を燃やし、新たな種を残し焼け野原に新しい息吹を吹き込みます。この世の中に意味のない物など存在しないのです」
「だからこの嵐も意味がある事だと言う事か?」
「そうです。直接では無いにしろ何か意味があるのです。水は生きるのに必要な物であり、風は季節を運んでくれる。これは新しい息吹の誕生じゃないかと私は睨んでます」
「それは今生まれそうになっている我が子がこの国の新しい風になると言う事か」
「いかにも。残念ですが今の段階で次期王になれる素質がある王子の存在が薄いと言わざるを得ません。まだ小さい幼子も居ますが……」
「まあ待て。まだみんな若い。特に下から三人はまだ子供だと言っていい。それに儂は早々に隠居する予定はないぞ」
「そうしていただくしかないでしょう。私が引退などさせませんからね。第二宰相と第三宰相はアレですし、息子のエーリヒも従事して僅か……」
「何を言うかと思えば息子が成長するまで待てと言う事か。確かエーリヒは宰相見習いだったな。どこか、頭が切れると言う話も聞こえてはいるが……なんだ?息子自慢か?」
「まさか。あっちこっちにフラフラとしているかと思えば本を読み漁ってみたり……もっと人となりを見て対話をして国内外の事にも目を向けなければならないと、何度も伝えているのに」
今まで自分の話だと思っていたのだが、息子の話になるとこの老獪な宰相も人の子か。
コンラートは心配するフリードリヒを見てほくそ笑んでいたが、それに気が付いたフリードリヒは、苦虫をつぶしたかのような顔に変わった。
「ゴホン、今は陛下のお子の話ですぞ」
「お前が勝手に話し出したんじゃないか」
儂は何も悪くないぞと笑みを零しながら外を再び見る。
今まさに生まれてこようとしている子は、王にとって九番目の子供になる。
この宰相からは側室も持って、もっと子供を作ってもいいですぞとは何度も言われていたが、妻のマクダレーナを超える人はいないと確信し、一生一人で添い遂げると心に決めていたのだ。
誰も欠ける事もなく育った、または育ちつつある子供を見て、頼りないと思うのは親の目線であれば、みなそう思う事なのか。いまだ次期王の素質を見せる者はおらず、少々頼りないのだが、まだ儂も50歳を過ぎたばかり。もう少しはこの玉座に座り、子供たちの成長を見てみたいと思っていた。
そして今生まれようとしている最後と思われる子供の行く先も…………
そう思っていると、急に空が暗転するように陰り、豪雨が窓を叩きつけ出した。
そして…………
ガラガラガラゾドドドドドドド――――ン!
空が真っ白になるほどの凄まじい雷電が地響きと共に鳴り、城のどこかへと落ちた気がした。
次の瞬間、オギャーと元気な声で泣く赤子の声が聞こえて来た。
「生まれたか!」
コンラート王が椅子から飛び起きるように立ち上がった。
待機所となっていた部屋にいる王を含めた三人が、分娩室のドアを見つめた時、その声が聞こえた。
「ヒイイイイイイイイイイ」
「誰か!」
「隠しなさい!」
「こ、この赤子は」
「呪われてる!呪われてるのよ!」
急に騒ぎ出す室内に、何が起こったのかとコンラートは急ぎ足でドアまで向かい、一気にドアを開けた!
「何事だ!」
部屋は20畳はある豪華な部屋だった。
赤いビロードを張り巡らされ、部屋のあちこちには金箔の張られたオイルランプが煌々と照らし、中央にいる妻であるマクダレーナが臍の緒がまだ繋がったままの赤子を胸に抱いて上半身を豪華なクッションにもたれさせ、驚いた表情で赤子と夫であるこの儂を見返していた。
「何があったか説明せい!」
床には一人が卒倒したのか倒れており、医者である男が汗をダラダラと流しながら王へと視線を向けており、助手である他の男女も動揺を隠そうともせずにオロオロしていた。
一向に何があったかを説明せぬ医師団に痺れを切らし、妻であるマクダレーナへと近づく。
「いけません陛下!」
一人の男性助手が近づかないようにと身体をはって動きを止めようとするが、若かりし頃より武王の異名を持つ王は片腕で引きはがし投げ捨てる!
「儂の子ぞ!わしが見ないでどうする!」
この雰囲気は、生まれた赤子に何かあったのだろうと察しがつくが、それを確かめに、身を起こして少し不安な様子のマクダレーナの元へと足を進めた。
「何があった、マクダレーナ」
分娩を済んだばかりの妻へ優しさを込めようとして聞いたのだが、苛立ちが怒気を含んでいた。
「あなた……」
真っ白なタオルに包まれた赤子を見るマクダレーナ。
今までと同じように元気良く泣いている赤子の顔を見るが、何もおかしなところは見受けられなかった。
誰も何も言わない中、静かに泣き止んでいく赤子。
その赤子が不意に目を開けた。
「むっ!」
「ばぁぶぅ」
無邪気な声を出す赤子に反して、壮年の医者が急に立ちふさがった!
「いけません陛下!!」
「なんなのだコレは!説明せんか!」
ビリビリするような威圧を出しながら聞く王にたじろぎながらも汗をダラダラと流す医師は、誰も口を開かなかった言葉を発しだした。
「恐れながら、この赤子は……この赤子は魔眼の赤子でございます」
「魔眼だと?!儂の子が魔眼だと、邪眼の持ち主だというのか!」
この国。いや、この大陸では魔眼と言う最恐の存在が古より伝承されていた。
その魔眼の持ち主の周りには不幸が集まる。
まるで災厄を呼び寄せられるかのように。
その魔眼に見つめられた者は命を落とす。
あるいは、死よりも重い運命を背負うことになると。
その魔眼は不幸と共に現れ、
やがて、死と破滅を連れて去っていく。
人々は言う。
魔眼は呪いであり、裁きであり、
そして、人の世にあってはならぬ“災いそのもの”なのだと。
王国の記録にも、幾度かその名は記されていた。
村が滅びた年、名もなき一族が途絶えた年、
その傍らには、必ずと言っていいほど、赤い目の噂が残されていた。
だが、それを本当に見た者は、皆、口を閉ざすか、あるいは二度と語ることがなかったと……
王になってから魔眼の存在は確認できなかったが、今までのエル=カーディア国史の中でも時々平民の中で現れたと言う記述は確かにあった。
その伝承は、広く伝えられ、風邪を引いたら咳が出るのと同じくらいに民間の間にも当たり前の事と同じように広まっていたのだ。
それが、その魔眼の持ち主が王の子供として現れたのだ。
「恐れながら、その赤子の赤い目が何よりの証拠となりましょう」
医師は陛下の怒りを買わないようにと平に頭を下げ許しを請う。
その頭を下げた医師の向こう側には、生まれたばかりの赤子の顔が見えていた。
その右目は、妻のマクダレーナにそっくりな碧眼であったのだが、反対の左目は燃えるような真っ赤な目をしており、その赤い目に見つめられた王は、訳も分からずに身震いする。
「この赤い目が魔眼……魔眼なのか…………」
誰もが静まり返る中、部屋の外には雷鳴が鳴り響き、ばぶぅと言う無邪気な生まれたばかりの赤子の声だけが聞こえていた。
今日は、設定&人物紹介を含めて5話投稿します。
12時、15時、18時、21時の予定ですのでお願いします。




