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地下ダンジョン

「人がいっぱい」


 日曜日の午後。

 どこを見ても、人であふれている。

 このゲームって、同時接続は何人くらいいるんだろう?

 1つのサーバーしかないから、余計に多く感じるのかな?

 それでも、りょーちゃんの姿はすぐに見つかった。

 見つかったんだけど……。


『ねぇ、いいでしょ?』


 また、年上の女の人に話しかけられていた。

 20後半くらいのお姉さん3人組。


『なかなかマンドラゴラ(※1)のレアが出なくて……』

『私たちだけだと、すぐにやられちゃうの』

『おにーさん強そうだし、ちょっとでいいから手伝って!』


 レアドロップ集めパーティーのお誘いかな?

 ぐいぐいと、りょーちゃんに迫っていく。


『ヒールなら3人とも取ってるよ!』

『クエストアイテム以外は、全部あげるから!』

『フレンド登録いいかな!?』


 どうしようかな……と思っていたら、りょーちゃんと目が合った。

 こっちに近づいてくる。


「行くか」

「いいの?」

「問題ない」

「……」


 チラッと振り返る。


『くそ、女がいたか』

『だから言ったじゃん!』

『あんたが『イケる!』って言ったんでしょうが!』

『せっかく課金アバターで寄せて上げてがっつりキメてきたのに、見向きもせんかったぞ……あの男』

『課金すべきは、その顔面なんだよなぁ……』

『あんたのゴリラ顔ほどじゃないけどね』

『おぉ? マントヒヒが吠えるじゃねぇか』

『やんのか? あぁ?』

『やめときなさいよ。そんなんだから、あんたたちは男にフラれるのよ』

『お前だってこの前フラれただろうが!』

『そうだそうだ!』

『フラれたんじゃないですぅー。こっちからフったんですぅー』

『ウソつけ! 『オムライスにメザシが刺さってるのが受け入れられない』ってグチってたぞ』

『そうだぞ! 『愛しているけど胃が受け付けない』って、付き合って1ヶ月で10kg減ったそうじゃないか』

『うん? ちゃんと健康に気をつけた証拠でしょ? なのにあの男は文句ばっか言いやがって』

『こいつはひでぇ……』

『アレを健康と言い張るとは……』

『?』


 3人で何か話している。

 追いかけてはこないようなので、そこまで急ぎの用じゃないのかな?


「2町へ」

「触ればいいの?」

「ああ」


 ゲートに近づくと、選択が出てきた。

 『2町』を選択して、中に入る。

 ダンジョンに入ったときのように、視界が切り替わる。




「わぁ……」


 等間隔に整備された町並み。

 大きな建物が、ずらーっと並んでいる。

 城下町っぽい感じ。

 1町とはまた違う雰囲気。


「こっちだ」


 町の中を歩いていく。


「……」


 最初の町と比べて、明るい髪色の人の割合が多い。

 課金アイテムで染めているのかな?


「ここは海外勢が多い」


 キョロキョロしてたら、りょーちゃんが説明してくれた。


「町によって違うんだ」

「地域によってデフォルトの初期町が変わる」

「そうなんだ」


 言われてみれば、濃いめの顔立ちの人が多いかも。

 町の風景と合わさって、よりファンタジー感が出ている。


『はぁ~い』


 金髪のお姉さんと目が合う。

 にこやかに手を振ってきた。

 こちらも手を振り返すと、投げキッスが返ってきた。

 そういった行為を目撃するのは初めてなので、びっくりする。


「いろんな人がいるね」


 座り込んで話し込んでいる人たちや、壁に向かって魔法を連発している人。

 屋根の上を跳び回ったり、半裸で剣を振り回している人もいる。

 モンスター狩り以外にも、いろんな楽しみ方をしているようだ。


「5町に行くと、さらに自由なことになってる」

「5町?」

「一番最後に追加された町」

「町によって特色があるんだね」


 雰囲気だけでも、違いが伝わってくる。

 町の作りも違ったりするのかな?


「5町は人が少なかったせいで、争奪戦(※2)に負け続けたからな」

「争奪戦?」

「5大陸間で行う大規模戦争。初期町で選んだ大陸に所属する」

「公式サイトで見た気がする」


 1対1で戦う個人戦。

 ギルド同士で戦うGvG(ギルド対ギルド)(※3)。

 国が入り乱れた大陸戦争。

 フィールドで自由にPK(プレイヤーキラー)(※4)できない代わりに、その他の対人戦コンテンツに力を入れてるらしい。


「どうせ負けるなら何してもいいだろうと『工作』『粘着』『妨害』『全裸特攻』『挑発全力ダッシュ』『敵の目の前でBBQ(バーベキュー)』などやりたい放題やった結果、国自体が無法地帯になった」

「入った瞬間に襲われたり? あ、でも、通常マップだとPKは無理なんだっけ」

「町に入ると、パンツ一丁の男どもに無言で追い掛け回される」

「普通に襲われるより怖いかも!」

「周りを取り囲んでスクワットしてくるだけだから、これといって害はない」

「それならいいのかな……?」


 情報なしで入ったら、びっくりしそう。


「こっちだ」


 町の外壁までたどり着く。

 そこから、今度はその外壁にそって進んでいく。

 どこかの史跡にもありそうなくらい立派な壁。

 しばらく歩いていくと、人が多く集まっている場所が見えてきた。


「着いたぞ」

「……地下ダンジョン?」

「ああ」


 建物に隠れるようにして、ひっそりと階段が続いていた。

 奥のほうは暗くなっていて、いかにもといった空気が漂っている。


「このゲームで一番危険な場所だ」

「えっ?」


 予想もしていなかった言葉に、思わず聞き返す。


「いきなりそんな場所に行っても大丈夫なの?」

「数が多くて回転が早いから、横湧き(※5)で死ぬのはよくある」

「レベルも装備も全然だよ?」

「全体的に敵の火力は低いし、強さ自体はたいしたことない」

「じゃあ、何が危険なの?」

「入ってみればわかる」

「?」


 ためらうことなく階段を降りていく。


「……」


 ここで考えていてもしかたないので、あとに続く。

 一歩。

 また一歩。

 下りるごとに、闇が広がっていく。

 少しずつ狭くなっていく足場。


「……」


 水の流れる音が聞こえてくる。

 地下水路でもあるのかな?

 階段の先にある、細い通路。

 そこを進んでいくと、明かりと共に広い空間が現れた。


「それっぽい感じだね」


 2人で並んで歩いても、だいぶ余裕のある地下トンネル。

 天井や壁から染み出した水が、地面に伝わって足元を流れている。

 壁にたいまつが取り付けられているので、思っていたほど暗くはない。


 カサカサ……。


「?」


 何かが擦れるような音。

 振り返ってみるけど、そこには何もない。

 気のせいかな?

 不思議に思いつつ、前を向いて歩き出す。


 カサカサ……。


「……」


 やっぱり、気のせいじゃない。

 音は確かに聞こえるけど、姿が見えない。

 ハイド系のモンスター(※6)だろうか?


 ぼとっ。


 目の前に、何かが落ちてくる。

 大きさは50センチくらい。

 平たくて楕円形な物体。

 黒くて、つやがあって、足と思われる部分が、もぞもぞと動いている。

 昆虫型のモンスター。

 この形や色からすると、元になった昆虫って……。


「!!」


 突然、その『何か』が、顔に向かって飛んできた!

 予想していなかった動きなので、その場で硬直してしまう。


 ズバッ!


 横から短剣が伸びてきて、その『何か』を両断する。


 ダンッ!


 さらに踏みつけて、トドメを刺す。


「あ、ありがと」

「まだくるぞ」


 と、天井を見上げる。

 こちらもつられて見上げると、そこには黒いかたまりが、びっしりと張り付いていた。

 その異様な光景に、背筋がぞわっとなる。


 ぼとっ。

 ぼとっ。

 ぼとっ。


 周りを囲むようにして、それらが落下してくる。


「!?」


 真上から落ちてくる個体がいたので、反射的に手で払い落とす。

 硬めの感触。

 防御力は高めかもしれない。

 あと、見た目通りぬるぬるしてる……。


「ウスイ本の予感!」


 ナビ子さんが飛び出してきたけど、対応してる余裕はなさそう。

 暗くて湿った場所が好きで、ぬめぬめしててカサカサ動く生物。

 私です。


※1、マンドラゴラ:引き抜くと即死効果がある絶叫を放ってくる草っぽいモンスター。

 パーティーを組んで誰かを犠牲にする方法が一般的な狩り方。

 ドロップする素材は調合や錬金術などで使うので、需要が高い。

 現実世界で説明すると、家族が寝静まったころに1人でムフフなゲームをヘッドフォンしながらプレイしていたら、うっかり操作を誤ってスピーカーをONにしてしまい、大音量でムフフなシーンを家中に響き渡らせること。


※2、争奪戦:町同士で戦う国家間戦争。

 たくさん人がいるので、ぼっちが混ざり込んでも大丈夫。

 ステータスや装備は専用の物を用意されるので、狩ってるうちにうっかりパンツ1枚になってしまったプレイヤーでも気軽に参加できる。


※3、GvG:ギルド同士の対戦。

 戦歴によってギルドランクが変動するので、ぼっちギルドと上位ギルドが戦うことはないので安心。

 作りたてのギルドは最低ランクからスタートするので、1vs100みたいな絶望的な組み合わせになることはある。


※4、PK:ひゃっはー! 金目のもん置いていきな!

 このゲームだと専用マップの『幻影の森』でPKできる。

 そのマップにしかいないモンスターや素材が入手できるので、殺伐とした人気がある。

 何も知らない初心者が迷い込んでよく惨殺されている。

 PKされてもアイテムがなくなったりお金が減ったりはしないので、安心して死ぬがよい。


※5、横湧き:すぐ近くにモンスターが出現すること。

 通常のフィールドやダンジョンでモンスターを倒すと、マップ内のランダムな場所に再び現れる仕様。

 他のモンスターと交戦中に出現すると、大変なことになるパターンが多い。

 現実世界で説明すると、なかなか眠れずに寝返りを打った瞬間、黒くてカサカサしたヤツと目が合うこと。


※6、ハイド系のモンスター:姿が見えなくなっているモンスター。

 スキル効果で一時的に見えなくなっているだけなので、ぶん殴ると姿が見える。

 プレイヤーにハイドスキルを渡したら、NPCの風呂場や寝室に直行したり、気になるプレイヤーをひたすらストーキングする事件が多発したので、現在では対人マップでのみ使用可能になっている。

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