81 緑魚が導く先へ
「これを見ろバズ」
「なるほど、そういうことか」
分けてもらった緑魚を調べてみて、興味深いことがいくつも分かった。
緑魚は魔力に引き寄せられる性質があるようだ。
水中で魔法を発動すると、それまでヌボーっとしていた緑魚が激しく暴れながら俺の手に噛み付こうとした時は少しビビった。
「やっぱ緑魚気持ち悪い」
「味もそこまででもないのう」
爺ちゃんは緑魚のスープを食べている。
舌の上でとろけるような食感で、まあ悪くはない。
だが村の人々が絶賛するような味ではなかった。
ただリアにとっては非常に美味しい料理だったようで、何杯もおかわりしていた。
「魔力か」
どうやら緑魚はゾンビーにとってとても美味しく感じる魚のようだ。
料理にうるさい爺ちゃんの舌は味をしっかりと把握することができる。その料理がなぜ美味しいのか、爺ちゃんなら普通は見抜ける。
それでも感じ取れない味とするならばそこには甘味、塩味、酸味、苦味、うま味の五味ではない、魔力という別の要素が加わっていると考えるべきだろう。
「とても弱いけどこの緑魚にも、真竜と同じように魔法を無効化する力があるね」
爺ちゃんが発動したライトの魔法に群がる緑魚の隙間から漏れる光が、少しずつ弱くなっている。
「なるほどのう、確かに微量ながら、この界隈の海の魔力が高くなっておる」
「土地の魔力の量なんてちゃんと調べたこと無いから気が付かなかったよ」
確かに地面や海にも微量の魔力が漂っている。
しかしそれは魔導師の持つ魔力に比べたら非常に小さいものだ。
自然の魔力を利用する魔法は、現在のところ実現していない。
「緑魚がタラスクに近しい性質を持つのは間違いないのう」
「……多分、これはタラスクを作る過程で産まれた産物だと思う」
「ふむ?」
「第二種族も一度にタラスクまで完成させたわけじゃないはずだ。タラスクにたどり着くまでに色々な段階があったはずだ。緑魚もそんな途上の産物じゃないかな」
「断定するには情報が足りんが、筋は通る推察かのう」
「ブランドン兄さんならもっと詳しく分かるんだろうけどね」
「ふむ、まぁ緑魚自体についてはこんなもんじゃろう」
「本題は雷鳴の方だね。緑魚がこの村にやってくるのは、多分この村の魔力が増えるのに雷鳴が関係しているからだ。季節によって回遊しているわけじゃなくて、魔力を増大させる『何か』によって、回遊を誘発されてたんだ。だから雷鳴からぴったり7日後に村にやってきてたわけだね」
「海の魔力は緑魚が食べてしまっているけど、魔力は地面にも残っている。この痕跡をたどれば雷鳴がどこへ行ったのか、もしくはどこから来たのか、どちらかが分かるはずだ」
「よし、そちらはワシが調べよう。ようやく前進じゃな」
自然現象において常に変化せず一定というものは多くない。
毎年、その年の気象条件に関係なくぴったり7日というのは少し不自然だ。不自然なことには人為的な何かがある。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
爺ちゃん達にとって微量な魔力であっても、意識さえすれば見るだけで区別できるらしい。
「こんなところを通るのか」
獣道すら無い山道を俺たちはかき分けながら進む。
地上には何か歩いた痕跡はない。やはり空を飛ぶなにかによってここに魔力の増大が起きたのだろう。
難所は爺ちゃん達の飛行の魔法で超えるが、飛行の魔法は数十分程度しか効果が持続しない。基本的には歩きだ。
決して楽な道のりではないが、リアもしっかりついてきている。
「大丈夫かリア」
「うん平気だよ」
無理をしているわけでもなく、まだまだ体力に余裕があるようだ。
身体が弱かったのが嘘みたいだ。
「むしろパレアの方が辛そうだな」
「な、なんで強化の魔法って一日中効果が続いたりしないのかしら」
パレアは魔法に文句を言っている。魔法を持続させるのはとても難しいのだ、仕方がない。
俺たちは道無き道を進んでいった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
魔力の終点には湖が広がっていた。
「のどかな場所ね、でも何もないわ」
パレアが首を傾げる。
「いや、これは幻術だ。しかもかなり強力な」
「え?」
爺ちゃんはう頷くと幻術破りの魔法をパレア、リア、ナヴィにかけた。
「これは!?」
そこには湖など無く、灰色の石材……コンクリートのようなもので地面を覆われ、頑丈な塀で囲まれた施設があった。
施設には飛行機のような翼を持つ……ただしプロペラのようなものは見当たらない機械が三機並んでいる。
「どうやら当たりのようだね」
俺は銃を抜いてそう呟いた。




