80 緑魚
「回遊魚? ああ緑魚のことですか?」
緑魚というのが件の回遊魚の名前だ。
身体が緑色だから緑魚。あまり食欲を掻き立てられない名前に思える。
「ボクルグ様の踊りがあった日から、ちょうど7日後にやってくるんですよ」
「それが3日前にあったんだっけ?」
「ああ、だからレッサー・シーサーペントが野放しだったな危ないところだったよ。この時期に取れる緑魚はここらへんの生命線なんだ。身が厚くて腹が膨れるし、いけすにいれても長持ちする。見てくれが悪いんで売り物にはならないけど、ここらじゃ秋から春までの主食みたいなもんなんだ」
「ぴったし4日後に本当にくるの?」
「ええ間違いありません。俺が生まれてから今日まで、毎年ぴったし7日です。何なら見ていきます? あなた方に緑魚料理をごちそうしてやりたいし、寝る所なら俺の家を貸しますよ」
「いいの? それならお言葉に甘えようかな。緑魚も見てみたいし」
「緑魚食べたこと無いんですね、なら尚更あと4~5日待ってください。味は保障しますよ」
「ありがとう」
4日後、何が起こるのか……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
4日間は何事もなく過ごした。
村人達もなぜ音がなるのか、緑魚との関連は知らないようだ。
そして早朝。
「緑魚が来たぞー!」
村の漁師が叫び声を上げた。
村人達は総出で待ち構えており、俺達も邪魔にならない陸地から見学させてもらっている。
バシャバシャと海から音が聞こえた。
一瞬、海が熱く煮えたぎり沸騰しているのではないかと錯覚した。
それほど激しく海面が白く泡立っている。
「あんなに来るのか」
漁師達は泡立つ海面に向けて無造作に網を投げ、すぐに引き上げる。
網の中にはよく見えないが、何か緑色をした生き物が見えた。
「あれが緑魚か」
どうも普通の魚とは違うような気がした。また遠くてよくわからないのだが。
「でも、ああいうところを見ると助けてよかったって気がしない?」
パレアがそう言って笑った。
漁師たちは声を揃えて唄を唄いながら網を繰っていた。
酒場で肩を落としていたファレスさんも今は両手で力いっぱい網を引いている。
とても活気のある光景だった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「これが緑魚!?」
漁が一段落し、船いっぱいに緑魚を獲った漁船が陸に帰ってきた。
ファレスさんの船に近寄り、緑魚を間近で見て、俺達は驚愕した。
「ええ、ちょっとグロテスクですが美味しいんですよ」
「ば、バズ、これって……」
王都に向かう途中で戦った記憶は忘れもしない。
荒涼山脈の遺跡で眠っていた姿は今でもはっきり憶えている。
緑魚は脊椎動物などではなかった。
鱗の無いナメクジのような下半身に細かな触手が無数に生え、牛のような顔からは複眼の目玉がギョロリと飛び出している。
甲羅は持っていないが、緑魚は『真竜タラスク』のミニチュアにしか見えなかった。




