77 戦竜教団を追え
父さんの部屋にあった書物には戦竜教団の拠点までは無かった。
だが戦竜教団の歴史についてはいくつか資料が見出された。
もちろん、戦竜教団という固有名詞が出ることは滅多にない。ただ、そのありかたから戦竜教団であると推測できる記述は、少なからず見つかった。
戦竜教団の拠点は複数ある。それらの拠点は師父と呼ばれている年長者によって管理されている。
そしてそれを統括する聖地と呼ばれる拠点があり、年に一回、各拠点の師父はそこで情報交換、及び新しい新しいアーリマンの堕慧児を引き取ってくる。
ナヴィに話を聞いた所、それは間違いない。ただ暗い籠の中にいれられて運ばれるため、聖地がどこにあるのかはナヴィにも分からない。
聖地には師父達をまとめる大師父と呼ばれる者がいるらしい。
「大師父は不老不死の仙人らしいね」
「ほう、不老不死とな」
爺ちゃんは面白そうに微笑んだ。
俺は爺ちゃんの小屋に戻り、整理した情報を交換している。
「アーリマンの堕慧児は魔法を使えないと思ってたんだけど、魔法に頼らない不老不死なんてあるのかな」
「例えばハワードのような?」
「精神交換か……」
俺の父親、ハワード・ヒースは精神生命体とも言える種族だ。他者と精神交換を行い肉体の老いや制約すべてを無視することができる。
「爺ちゃんは父さんを監視するためにここにいたんだ」
「……ああそうじゃ、ハワード・ヒースは特別な存在じゃった。これまでの歴史でも何度かあの種族はこの世界を訪れておる。一度、あの種族とやりあったことがあってのう。以来ワシはあやつらが現れたら側で監視するようにしておるんじゃ」
「なるほど、分かった」
「すまんのう、黙っていて」
「いいよ、父さんについて、そして俺がなぜここにいるのか、これは俺が自分の力で知るべきことだったんだ」
「父親がどうあれ、お前はワシの弟子じゃ」
「うん知ってる」
「ならいい、それだけは伝えておきたかった」
俺は今更爺ちゃんを疑わない。
爺ちゃんは俺の師匠なんだ。
ノックの音がした。
「手伝いに来たわよ」
「おお、エカヌスか、入ってよいぞ」
「俺もいるぞ」
「オイノ! 来てくれたんだ」
扉からぬっと巨大な影と干からびた細い影が入ってくる。
オーガメイジのオイノとリッチのエカヌス。
爺ちゃんの友人達だ。
「戦竜教団と一戦交えるらしいな、面白そうだ俺も連れて行け」
「全く、戦うとは限らないって言ってたでしょ? でも交渉のテーブルに私達がいることは不利にはならないと思うわ」
「ありがとう、二人が来てくれるなら心強いよ」
大きな口を開けてオイノは笑うと、俺の背中を力強く叩いた。
「任せておけ、いつ俺を頼ってくれるか、どんな事をさせるのか楽しみだったが、バズ坊は俺の期待を裏切らない男だ。戦竜教団が相手とは」
「オイノは知ってるの?」
「うむ、俺の帝国でなんども大反乱を扇動しているやつらだ」
「オイノの東方帝国だっけ?」
「ああ、ここから東の海を超えた先、大平原を支配する帝国だ」
「……え? 海を超えた先にも戦竜教団がいるの?」
「ああそうだぞ」
困ったな。
「どうした?」
「……この国というかここら辺に住む人達にとって、海は未知の世界なんだ」
「そういえばそうらしいな」
俺たちサンダーランドは南の海に接してはいるが、船は沿岸沿いにしか航行していない。
海の向こう、外海というのはこの地域に住む人にとって未知の世界だった。
「戦竜教団は外海を渡る航海術を持っているのか? 目立ちそうなものだけど」
父さんの資料にはそんな情報はなかった。
航海術の情報なんてまっさきに集めそうなものだけど。
「基本的に外海を船で渡ることはできない。海は真竜の勢力下で、船を守りながら真竜と戦うことは現実的ではないからな。そんな中、無用の長物である外海を渡れるような船を作っている港があれば知られていないはずがないな」
「それじゃあオイノはどうやって?」
「俺の帝国では少数の魔導師が海を渡るために空飛ぶ船を使う」
「空飛ぶ船?」
「魔力を燃料に飛ぶ魔法道具だ」
「それも変だな、アーリマンの堕慧児は魔力を持たない」
「ふーむ」
「でも海を船で渡ることはできない。空を飛ぶ魔法も使えない」
そのとき、机に置かれたエンジンが視界に入った。
爺ちゃんが作っていたやつで、今は随分形になってきている。
「エンジンか」
思い当たった可能性。
確証はないが、戦竜教団が超神話に触れているのなら、そのような技術を持っていてもおかしくないのではないだろうか?




