45 古代遺跡
蔦をナイフで払うと、錆のない金属の扉が顕になった。
扉の大きさは2メートルほどだ。
「鉄や鋼でもないし、ミスリルやアダマンタイトでもないな」
見たこともない金属だ。
「どうやって開ければいい?」
「分かりません、鍵穴どころか取っ手もないですね。私にはこれは壁のように見えます」
「うーん……」
「私がやってみようか?」
「パレアが?」
「自信はないんだけど……一応、解錠の魔法憶えたから」
「なるほど! それは是非頼む」
「で、でも、私が開けるのは階位1の魔法の鍵までだから、こんなすごい遺跡の扉は開けないと思うの。だから期待しないで」
「俺はそもそも解錠の魔法使えないからな、試してみてくれ」
パレアは扉に触れると意識を集中して、呪文をぼそぼそとつぶやいた。
「我紡ぐ言葉によりて守り手解れ……アンロック」
パレアの手が淡く輝くと、
「おお!?」
ギギギという音がして扉が上へ揺れながらスライドしていった。
「なにこの扉? どういう仕組なの?」
「技術はすごいが、魔法的な備えはしてなかったみたいだな。お手柄だパレア」
「あ、ありがとう、役に立てたなら嬉しいわ」
扉の先からはかび臭さが漂ってきた。床には分厚い埃の層ができている。
「……エア・バブル」
パレアの魔法によって俺たちの周りに空気の層ができる。
「危険なカビがいてもこれで大丈夫」
「すっかり魔導師だな」
「ま、まだ第二階までしか魔法使えないから」
パレアは顔を赤くしているが、何が起こるかわからない場所で、呼吸の対策をしてこなかった俺のミスがフォローされた。
仲間にしてよかった。パレアは優れた魔導師だ。
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通路につかわれている素材は僅かに弾力性のある灰色のパネル、おそらく樹脂だ。
この遺跡を作った存在は高分子材料を扱えるほど高度な技術を持っていたようだ。
魔法的に作ったのか、それとも化学的になのかまでは分からないが。
「誰も居ないね」
リアがつぶやいた。
遺跡に動くものの気配はない。
どこから入りこんだのか、小さな虫が壁を這っていることはあるが、ネズミのような小動物すら見かけない。
ランタンはリアが持っている。パレアは剣、ナヴィは弓、俺は銃を構えて慎重に先に進む。
「罠もないな、というより放置されて長過ぎたのか、遺跡が死んでる」
天井には灯のようなものがあるのだが、それが点灯する気配はない。
このくらいの施設なら、自動点灯機能くらいついていそうなものだけど。
壁にスイッチがあるようにも見えない。
「この横穴何なの?」
パレアが指差したのは通路のところどころにある高さ1メートルほどの横穴だ。
最初は通気口か、ダストシューターなのかとも思ったが、どうやら違うようだ。
俺はしゃがみこんで中を覗き込む。
「扉がある」
「え?」
「ほら」
パレアも覗き込んでみた。奥には遺跡の入り口と同じような金属製の扉があった。
「行ってみる?」
「そうだな」
とても立ってはいられない。四つん這いになり奥へと進んだ。
ここもパレアの解錠の魔法で扉を開く。
扉の先には通路が続いていた、今度は横にそれる道もあり、壁にはマップのようなものもあった。それはまるで居住区のように見えた。どこも高さ1メートルしかないことを除けば。
「ここは小人の国だったの?」
「小人か」
マップに書かれた文字は読めない。俺の知らないものだ。
「小人の文字じゃないな」
「そう、一体何なのかしら、なんでこんな遺跡が荒涼山脈に……」
「嵐竜ジズとも無関係じゃないかもな」
「竜は知的生物を襲うんでしょ? こんなすごい遺跡とは相性悪そうだけど」
パレアは首を傾げた。
「もしかしたらここにいた人達も竜に襲われたのかも!」
リアが言う。その可能性もあるな。
「うん、その調子で皆も考えてみてくれ、俺もまだここの遺跡の正体が分からない」
狭い通路を這い進みながら、この謎について俺は考え続けていた。




