33 次なる目的は
「まさか捕らえてくるとは」
ジョンおじさんは驚いた様子で、人攫い達を牢獄に連れて行くように配下に命じた。
今回はフィリプさんもいる。
フィリプさんには驚いた様子はない。
「バズならそれくらいできて当たり前だよ」
「分かっているつもりだったが、それでも予想の上を行ったな」
こうして手放しで賞賛されるのはちょっと照れる。
もらった金貨袋の重さや新しいAランクのギルドカードも喜びを増す一因だ。
ジョンは間違いなく俺が成功すると思っていたようで、先にギルドカードを手配してくれていたのだ。
報告も終わり、そろそろ話を切り上げようとした時、ジョンは笑みを浮かべながら口を開いた。
「バズ、ちょっと旅行にいく気はないかい?」
「旅行?」
「目的地は二箇所・サンダーランド王都と、ムナール王国サルナス領だ」
「またどうして急に?」
「世界の秘密の一端を見せてあげようと思ってね」
「サルナス家っていったら兄さんのフィアンセがいたところか……それ絡み?」
「君の兄さん、ブランドン君にもしばらく会っていないのだろう?」
「ええまぁ、留学しているはずだけど」
「それがサルナス家だ」
「他国に?」
「他国への留学も無いわけじゃないね」
「……まさかヒース家は」
「まだ白とも黒とも言えない」
「それをなぜ俺に? 俺はヒース家の人間だよ? もしかしたらムナールへ付くかもしれないのに」
「サンダーランド皇子としては君はぜひ欲しい。しかしまぁ、私個人としては君には自由に生きてもらいたい」
ぱちりとジョンはウインクした。
「君の実力は十分だ、僕のコネなど無くともどこだって相応の地位を望めるだろう。だからこれは君への個人的な友情の証だと思って欲しい。真実を自分の手で知った上で、バロウズ、君が道を選ぶんだ」
「……ありがとう」
ジョンの顔は優しかった。
「ところで俺の連れの三人はどこへ?」
訓練をしているはずだ。訓練費用は今回の報酬の額からすれば微々たるものだ。
訓練の内容もろくに吟味していないので、三人の自主性に任せてあるから成果は分からないが。
「冒険者ギルドか訓練所にいるはずだよ、もしくはもう訓練を切り上げて宿に戻っているかもね」
「分かった、行ってみるよ」
「うん、それじゃあ冒険者バロウズ、依頼の無事完遂を感謝するよ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
訓練所に三人はいるらしい。
「バズさん! お仕事終わったの!?」
座学を終えていたリアはすぐに見つかった。
「うん終わったよ」
「無事でよかった、あたし薬の作り方色々憶えたよ」
「そうか、どんなの憶えた?」
「切り傷、打ち身、火傷にあと毒と解毒についても色々」
「ふむふむ」
キラキラと目を輝かせながら話すリアは最初に出会った頃のやつれた表情が嘘のように見える。
だがそれでも肌は透き通るように白く、体つきも最初に出会った時の病弱でやせ細っていた時に比べると正常範囲にまでは戻ってきているようだが、それでも痩せ気味だ。
握った手はとても小さく、まだこのままでは旅に耐えられる身体ではないだろう。
やはりちゃんと調べるべきだ。
「屋敷に戻ったら一緒にちょっと出かけようか」
「バズさんと? うん、どこだって一緒にいくよ」
病弱で奴隷の教育を受けている場合じゃなかったのだろう。
リアの態度は奴隷の少女というよりは懐いている歳の離れた従姉妹のように感じる。
でも……それでいいじゃないか。




