28 夜が怖いと泣く子供
手を出して良かったのだろうか?
まだ村の中を調べてすらいないのに。
「シャーリー!」
だけど泣きながら気を失っている少女の身体を抱きかかえている母親の姿を見たら、やはりああするしか、俺には選択肢が無かったと思う。
「診せてくれ」
俺は母親の側に近寄った。
「あ、あなたは……」
「旅人だよ、あなたの事情は知らないけれど、その子の怪我の応急手当はできると思う」
「お、お願いします!」
俺は少女の身体を調べる。
「肋骨を一本痛めているけど、完全に折れてはいない。内臓も無事だな」
「大丈夫なのですか?」
「ああ、折れたところを動かさないように固定して、しばらく安静にしていれば後遺症もなく治るはずだ」
そっと俺は少女を抱きかかえる。
「家はどこだ? 寝かせる場所が欲しい」
「……そこの酒場を使ってください」
「君の家はどうした? 宿なしには見えないけれど」
「今はちょっと……」
「……俺はバズ、あなたの名前は?」
「ステフです」
俺は右の拳銃から弾を一発取り外す。
火薬と鉛の弾丸が手のひらに転がった。
火薬を振り払い、弾丸だけをステフに差し出す。
「幸運のお守りだ。肌身離さず持っていてくれ、きっと災難から守ってくれる」
「あ、ありがとう」
見た目はただの鉛球。しかしステフにとっては今日の幸運の証みたいなものはずだ。
「とりあえずこの子を落ち着ける場所へ、話はそれからだね」
俺はシャーリーを酒場へと運んでいった。
じっと酒場のやつらが俺を睨んでいる。
俺はその視線を無視して奥へと歩く。
「ベッドを貸して欲しい」
「……分かった、今日は店じまいだ、みんな帰っとくれ」
躊躇の表情が女店主の顔に浮かんだが、ぐったりとした幼いシャーリーの顔を見ると首を小さく横に振ってそう言った。
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シャーリーの身体に添え木を当て包帯で固定する。
「う……」
「動かないで」
痛みで目が覚めたのか、シャーリーはゆっくりと目を開けた。
「ま、ママは?」
「ここよ」
「ママ!」
「おっと」
俺は起き上がろうとしたシャーリーの肩を優しく抑えた。
そして、ステフと場所を交代する。
「ごめんねシャーリー……私のために……」
「ママどこか痛いの? 泣かないでママ、いつもママが歌ってくれるお歌、今日はあたしが歌うから、だから泣かないで」
我が子にかけられた言葉は、よりいっそうステフの感情を揺さぶったようだ。
シャーリーの手を握りしめながら、肩を震わせて泣いている。
そんな母親を慰めるために、シャーリーは子供らしいたどたどしい音程で歌を歌い始めた。
きっと、夜が怖いと泣く彼女に母がそうしてくれたように。




