29 あなたを助けたい
俺と酒場の女店主マリオンは部屋に二人を残して廊下に出た。
「いい親子だね」
「ええ……」
マリオンは難しい顔をしていたが、ふっと肩の力を抜いた。
「まずはお礼を言わないとね、二人と助けてくれてありがとう」
「あいつらは一体何者?」
「…………」
「言いたくないなら無理には聞かないよ。でも俺はこの村からすぐに出て行く旅人だ、そういう立場だからこそ力になれることもあるかもしれないよ」
「それは、頼めばあいつらと戦ってくれるってことかい?」
「あいつら盗賊か何かだろ?」
「……!」
「分かるさ、明らかに堅気の人間じゃないだろあれ」
「……いや、あんたは分かってない」
あいつらの情報を教えてくれるか?
「違うのか」
「ああ、あいつらは盗賊よりずっと恐ろしい奴らさ」
「だったらなおさら、このままじゃいけないだろ?」
マリオンの顔が自嘲気味に歪んだ。
「あいつらはこの村の住人なんだ」
「あんな無法しといて?」
「それだけの対価を支払っているからね」
対価か。
「……どれだけもらっているかは知らないけれど、それは子供を蹴り飛ばされて、下手すれば大怪我して命にかかわるようなことされて、それだけの価値があるものなのか?」
「それは……」
「あなたも納得出来ないからシャーリーをここに置いていたんじゃないのか?」
「そうだけど! そうだけど……」
そのとき、ガチャリと扉が開いた。中から目を真っ赤にしたステフが出てきた。
「ステフ」
マリオンが心配そうに声をかけた。
「私行くね」
「行くって……」
「私にはシャーリーがいる。あの子のためだったらなんだって我慢できる」
「でもステフ!」
「バズさんもありがとうございました」
「……ああ」
「マリオン、シャーリーのことよろしくね」
「分かった、あの子のことは任せておいて」
「ありがとう……じゃあね」
ステフはぎゅっと目をつぶると、表情を引き締め表へと出て行った。
「これでいいのか?」
「分からないけど、分からないけど……私にどうしろってのさ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
俺は穏やかな寝息を立てているシャーリーのベッドの側に座って、銃の整備をしている。
リボルバーは頑丈だと思われているが、整備状態が悪いと弾が発射されなかったり、シリンダーが所定の位置で止まらなかったりといった異常が起こる可能性は十分にある。
大きな戦いの前には一度整備するようにしている。この武器は俺の相棒なのだ。
「ん……」
「あ、起きたんだ。うるさかったかな?」
「ママは?」
「でかけてるよ」
「……ママ!」
また慌てて起き上がろうとするシャーリーを俺は慌ててなだめた。
「ママは大丈夫なの?」
「……ママが心配か?」
俺は銃の整備をしながら聞いた。
「当たり前じゃない! ママは大丈夫なの? ねえ教えて!」
「……俺は今日来たばかりだから、ママのことをよく知らないんだ」
「あたし、ママのこと助けに行く」
「ママは来てほしくないみたいだぞ」
「なんで? ママは酷いことされてるの、あたし知ってるんだよ」
「自分のことよりシャーリーのことが心配なんだよ」
「だからあたしに助けてほしくないの?」
「ああ」
「だったら関係ないもん。助けたいのはあたしなの、ママがあたしを心配していることは関係ないもん」
「なるほど、助けたいのはシャーリーか」
シンプルだ。相手がどうかは関係ない、自分が助けたいから助ける。
「ママから嫌われたっていいもん」
「そうか、それなら助けに行くか」
整備が終わり、弾丸まで装填し終えた銃を右手に持つ。魔力を込めると、トラッキングの魔法効果が発動する。
銃で撃った男とステフに持たせた弾丸、それぞれの方向と距離が頭に思い浮かぶのだ。本来は狩人やモンスターハンティング専門の冒険者が使用することの多い魔法効果だが、占術の使えない俺にとっては非常に重要だ。
二人のいる場所はほぼ一緒か。




