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27 アウトロー

 火薬と雷管は一週間補給なしのつもりで持ってきたから十分ある。

 馬はジョンが用意してくれた。


「それじゃあ俺は行くよ、みんなはせっかく町に来たところ悪いんだけど、訓練所で戦闘訓練しといて、リアはまだ体調が完全じゃないから薬草の見分け方と調合の訓練を受けてみて」

 本当なら一緒に簡単な小物モンスター討伐の依頼でも受けて三人の動きを確かめてみたかったんだけどまあそれはいつでもできる。


 訓練所への斡旋はジョンおじさんから冒険者ギルドの方に口利きしてもらう。

「無理しない程度にね」

「それはこちらが言うことよ、本当に大丈夫なの?」

「大丈夫さ、一週間以内に戻ってくるよ」

「バズさん……絶対帰ってきてね」

「ありがとうリア」


 三人に見送られて、俺はアクロポリスを後にする。

 移動で二日、帰りも二日。村では時間は三日か。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 考えても見れば一人で旅をするのは久しぶりだ。

 四年ぶりか?

 あの時は徒歩だったな。


「絶対帰ってきてね、か……やっぱ前回とは違うな」


 ブルルンと馬がいなないた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 村の入り口をゆっくり馬で進む。

 一見、村は何も異常が無いように見えるが、時折家屋の影からピリピリとした視線を感じた。

 俺は気にしていない風を装いながら、村の酒場を目指した。


 ギィィと音を立てて扉を開けると、中には六人の村人が昼間から飲んだくれている……ように見える。


(剣を振るってきた手か鍬を振るってきた手か、それくらい俺にも分かる)


 カウンターへ近づくと、中年の婦人が無愛想に出迎えた。


「旅人かい? あいにく村の人に出す分しかないんだ」

「飲める水と黒パンだけでもいいからわけてくれないか?」

「食べたら出てくんだよ、まだ日は高い、隣の村まで間に合うだろう」

「……ああ分かったよ」


 出てきたのは思ったより柔らかいパンとミルクだった。

 菜っ葉と少しばかりのベーコンもついてきた。


「ごちそうだな」


 黒パンと水というオーダーからすれば破格だ。

 女主人はニコリともせず、カウンターで皿を磨いている。


 食事を続けていると、酒場の村人たちがじっとこちらを睨みつけてきた。

 脅しているようにも、こちらの様子をうかがっているようにも見える。

 この村に何かあるのは間違いない。

 問題はどこにあるのかだが……。


「きゃあああ!!」


 外で悲鳴が聞こえた。

 悲鳴が聞こえたというのに、村人たちに動じる気配はない。

 それどころか口元に薄い笑みすら浮かべていた。


「何だ?」


 俺は周りにも聞こえるように、そうつぶやいてから立ち上がり、外へと向かった。


 外では一人の女性が二人の男に抱えられ、引きずられるように連れ去られようとしていた。


「嫌あああ!!」


 女性は必死に抵抗しているが、男たちは手慣れた様子だ。

 どうする、助けることはできる。しかしここで動いていいものか。


「ママ!」


 背後から声がした。

 振り返るまもなく俺の足元を小さな影がすり抜けた。


「行っちゃダメよ!」


 酒場の女店主の悲鳴が聞こえたが、小さな影はまるで聞こえていないかのように女性の元へ向かう。


「ママにひどいことしないで!」


 小さな影は少女だった。リアよりも幼い。7~8歳くらいだろう。

 母親を救おうと必死に追いすがり、男の足にしがみついた。


「シャーリー!」

「ちっ、どけ」


 男は少女を振り払い。


「ああ!?」


 母親が悲痛な叫びを上げた。

 小学生低学年くらいの幼い少女を、男は容赦なく足を振り上げ蹴り飛ばしたのだ。

  ボグっという嫌な音と共に少女の身体と宙を舞った。


「シャーリー! シャーリー!」


 母親が激しく暴れる。それを男は無理やり押さえつけた。


「おい、これ以上お前の可愛い娘を怪我させたくなかったら俺たちの言うことを素直に聞くんだな」

「……ッ! この人でなし!」

「どうする」

「……わかり……ました」


 男は母親に手を伸ばす。

 その時、ズドンという銃声がした。


「ぎゃ!?」


 母親に向かって伸ばした男の腕から血が流れる。

 もちろん、俺が撃った銃弾だ。


「事情は分からないけど、非道な振る舞いは止せよ」

「なんだテメエ!?」

「ただの旅人だよ」

「良くもやりやがったな!」


 腕を撃たれた男の左手が腰の裏へと回された。


「おい止せ!」

 が、隣の男に静止された。

「け、けどよう」

「相手はただの旅人だ」


 男は忌々しそうに地面につばを吐いた。


「テメエは村で武器を抜いたんだ。俺たちの村じゃそれはご法度、すぐに出ていけ」

「補給に立ち寄っただけだ、もともとすぐに出て行くつもりだ」

「そうかよ、じゃあそうしろ」


 男たちは母親を突き飛ばすと、俺を睨みつけながら去って行った。

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