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26 サンダーランドとムナール

 俺たちが住むこの国の名はサンダーランド王国。

 そしてジョンおじさんはその王座の継承権第一、サンダーランド皇子ということになる。


「皇太子殿下に対しておじさん……!?」


 ざわりと室内がざわめいた。しまった。つい……。


「彼が幼い頃からの友人なんだ、それでおじさんと呼ばせているんだ、驚かせてしまってすまないな」


 ジョンはそう言ってフォローした。

 しかし、俺に対する視線は明らかにさっきまでのものとは異なっている。


「バズの腕前ならSランクは間違いない」


 降りてきたジョンは受付嬢へと近づく。


「殿下、困ります」

「そうだね、ならここは私が監察官になろう。依頼は私が持ってきたやつだ」


 王の第一後継者を目の前にしても案内嬢は静かな顔だ。

 すごいなこの人。


「わかりました、ではお願いします」

「うん、任された」


 ジョンは俺たちの方へ向き直る。


「それじゃあ、場所を変えよう」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 外に出ると、パレアたちがひそひそと会話している。


「どした?」

「どうしたじゃないわよ、どういうこと? あの方、ジョン殿下よね?」

「そうだよ、友人なんだ」

「はああ!?」

「いや、それだけ」

「あ、あなた何者なのよ」

「ただの地方領主の三男だよ、たまたま知り合いが偉かっただけ」

「バズさまはすごいですね」


 別に俺がすごいわけじゃないんだけどね。


 俺たちは町の北の方にあるボクルグの神殿に入る。

 ボクルグはこの世界で信仰されている巨大な蜥蜴の神で、竜の神を打ち倒し生物の時代を作ったとされる。七竜はこの竜の神の死骸から生まれた、そうボクルグの神官は語っている。

 もっとも、旧王国時代は別の信仰があったようで、七竜の存在が確認されたのが旧王国末期であることから、ボクルグ信仰はその後生まれた、もしくは元から存在しても教義そのものは旧王国滅亡後に作られたことになる。

 この世界には神と対話できるファンタジー僧侶は存在しない。

 宗教観に関しては地球と似ているのかもしれない。


 俺たちは神殿の一室に案内された。

 質素なテーブルと椅子が並び、水差しとコップが置いてある。窓はなく、燭台の上で蝋燭の炎がゆらゆらと揺れていた。


「ここでなら落ち着いて話ができる、占術対策もしてあるから魔法で盗み聞きもできないしね」

「そんな重要な話なの?」

「いや、ボクが依頼の話をするときはいつもここを使っているというだけさ」

「皇太子でも冒険者に依頼なんてするんだ。てっきり自分の配下とか使うものかと」


 フィリプさんならなんでも解決できそうだし。


「冒険者は有用だよ、魔導師も含まれてるしね。それにしてもバズが町にくるなんて珍しいじゃないか」


 そうジョンは言っているが、護衛であるはずのフィリプさんがいないのには理由があるのかもしれない。何か人が足りなくなる事態が起きているのか。


「それを言ったら、ジョンおじさんがアクロポリスにいるなんて思いもしなかったよ」

「タルトス様のところに行くならここを拠点にする方がいいからね、いつもいるわけじゃないけれど」

「それで、依頼があるって?」

「うん、なかなか頭を悩ませる問題でね」

「あんまり期間の長い依頼は受けられないよ? 今回は一週間くらいアクロポリスに滞在する予定だし」

「ここから馬で三日のところにある村にムナールへの人攫いの拠点があるらしい」

「人攫いの拠点?」

「ああ、この国の住民を攫いムナールで奴隷として売ってるんだ」

「そりゃ問題だね、でもこの国じゃ日常的なことじゃ?」


 犯罪組織はどの国にも入り込んでいる。

 特に奴隷交易は隣国まで持ち込めれば合法ということになっている。

 いっそ奴隷禁止に政策転換すべきだと思うのだけど、そうそう上手くいくものじゃないか。


「今回はちょっと問題がややこしい」


 ジョンは眉をひそめて言った。


「その村はイングルビー家領になるのだけど、どうやらイングルビー卿が嗅ぎつけたらしい」

「いいことじゃないか」

「今はまずい」

「何が?」

「今、拠点にはムナールのイブ家縁のものが来てるんだ」

「イブ家、ムナールの貴族?」

「ああ、サルナス家と並んでムナールの有力貴族だ」

「有力貴族が人攫いに関わってるのか」

「そういうこと、イングルビー卿は正義感の強い人で、領民が奴隷として攫われているのに激しい嫌悪感を感じていてね、近々討伐のために動くはずだ」

「いいことじゃないの?」

「今サンダーランドはムナールと事を荒立てなくない。ムナールが人攫いを指揮しているのは、人攫いどもに訓練された魔導師が多すぎることからも明らかではあるけれど、それでも証拠がないという状況で留めておきたいんだ」

「…………」

「納得いかないって顔してるね」

「まあね」

「いずれはなんとかしたいと思ってる。だがそれは今じゃない。それだけの準備が整っていないんだ。だが、今回の件が明るみに出れば諸侯達のうちムナールに制裁すべしという声があがるだろう。

それはサンダーランドにとって好ましくない」

「でもしばらくは人攫いも活動しなくなるんじゃないの?」

「その代わり戦争で多くの人が捕らえられ、奴隷にされるだろうね」


 ジョンの言うとおりか……。ままならないな。


「それで、どうなるのが一番いいの?」

「村にいるイブ家の人間を排除して欲しい。死体は人目につかない場所で処分すること」

「それって冒険者に頼む仕事?」

「ああ、高ランク冒険者は信頼が重要だって、さっきギルドで話してただろ? 強さだけならAランク止まり、Sランクは強さだけじゃなく、秘密を厳守するプロ意識が絶対条件だ」

「じゃあSランクより強いAランクってのもいるんだ」

「そうだね、まっそういうのは冒険者は副業で、盗賊や、例の人攫いをやっていたりロクなやつらじゃないね」


 ランクについてどうやったらあげられるのか聞きに来ただけなのに大変なことになってしまった。


「バズがやってくれるなら安心だけど無理強いはしないよ。断ってくれても構わない」


 俺はガチャリと愛銃を引き抜いた。

 無骨なフレームをじっと見つめ、何のために引き金を引くべきか考える。


「今はまだその時じゃないだけで、いずれはなんとかするだよね?」

「もちろんだ、準備が整ったらムナールとの問題を解決する。奪った奴隷は全部買い戻させるし、二度とサンダーランドに手出しはさせない」


 そういってジョンが懐から取り出したのは分厚いノート。

 テーブルに置かれたそのノートを俺は手にとって見た。


「人の名前と村の名前だね」

「各村に行方不明になった人間の名前を報告してもらっている」

「こんなに?」

「ああ、必ず買い戻させる」

「……分かった、信じるよ。この依頼引き受ける」

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