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20 リアとナヴィ

 リアはひたむきだ。

 一生懸命に仕事をする。サボるとか面倒臭いという考えはないようだ。こういうところで損をして体調を崩したのではと邪推してしまうほどだ。

 今は幻術を解いた俺の部屋を掃除してもらっている。

 リアは豪華な部屋がみすぼらしい質素な部屋に変わったのを見て、驚くと共に小さく声を上げて笑った。


「ふんふーん♪」


 故郷の歌なのか、聞き慣れないメロディを口ずさみならがリアは床を拭いている。


「リア、そろそろ休憩だ」

「もうですか? まだ大丈夫ですよ」

「決められた時間で仕事をし、休むときは休むのも効率的に仕事をするコツだ。とにかく休め」

「はい」


 それに素直だ。自分の意見も持っているが、それに固執せず柔軟に判断できる。良い意味で子供らしい。


「はい、お茶」

「ありがとうございます」


 ハーブティーと爺ちゃんの菜園の果物の砂糖漬け。

 甘いものなんて食べたことは無かったのだろう、目を輝かせて食べている。

 リアの身体は細い。病状を調べるために少し見せてもらったが、栄養不足なのが明らかだった。

 今飲ませているハーブティーは、肺の病気に効くという薬草だ。

 砂糖漬けの果実は栄養価が高く、保存も効く。メイドの食事では病人用の栄養食には不足している気がしたので用意した。


「あの……」

「どうした?」

「こんなに良くしてもらっていいのでしょうか……この果物だって安くないでしょうし」

「病気が治った方がたくさん働けるだろ? だからいいんだ」

「私、良くなるんですか……?」

「不安か?」

「はい、私、小さい頃からずっとこんな感じなので」

「小さい頃から?」

「私の生まれた村は沼のほとりにある村で、たまにそういう身体の弱い人がでるんです」

「……風土病か」


 考えても見れば、あの商人の他の奴隷は痩せている傾向はなかった。食糧事情は並程度だったと考えるべきだった。

 肺の病は栄養失調によるものだが、他に何か根本的な原因がある。


「少し詳しい話を聞かせてくれないかな」


 爺ちゃんやディナ、ジョンなら何か分かるかもしれない。そのうち診てもらうことも考えよう。


「はい、私の生まれた村は外と全然交流がなくて、だから名前もない村で、みんな“村”って呼んでました」


 リアは俺が病気について詳しく話して欲しいと言ったのを、故郷について詳しく話して欲しいと言ったと勘違いしたようだ。俺は言い直そうかとも思ったが止めた。


「湿気が多くて、家中カビが生えて大変だったんです。あっ、家はこっちみたいに木で組むんじゃなくて、モンスターの皮を使って作るんです。食事はいつも魚でした。水は豊富なのですけど薪が無くて、冬は大変だったなぁ」


 リアは楽しそうに故郷の話をする。


「いいところだったんだな」

「全然! みんな貧乏で、なんでこんな土地に住んでるんだろうっていつも不思議に思ってました」


 そう言うリアの顔は嬉しそうだ。故郷が好きなのだ。


「でも……今はもうありません」

「何かあったのか?」

「はい、竜がやってきて」

「デミ・ドラゴン?」

「いえ、トゥルー・ドラゴン(真竜)です」

「……そうか、災難だったな」

「私を含めて10人くらい生き残ったのですけど、食べ物も何も無くて……それで、どうしようもないからくじ引きで一人を奴隷として売って、そのお金で他の人はまた村を再建しようって」

「いつか行ってみたいな、その村」

「えー、そうですか?」

「そうだよ」

「その時は案内しますね、美味しい魚の取り方も教えますよ」


 リアは嬉しそうに笑った。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 ナヴィは真面目だ。

 言われたことをしっかりやる。でも言われたこと以上はやらない。

 命令の段階で思いついたことを確認し、実行する時にはそれを上手くやろうとすることだけを心がける。


「どうだ」


 他のメイドに混じって礼儀作法の練習をしていたナヴィに声をかけた。


「はい、バロウズ様。皆様からもとても良くしていただいております」


 ナヴィは俺の本名を知ってからはバズとは呼ばなくなった。周りからどう思われるかも大切だから、というのが理由だそうだ。

 確かに、そういうこともあるかもしれない。


「教え甲斐なくて困ります」


 昔からこの屋敷で働いているメイドは苦笑した。


「言われたことはすぐにできるようになるんです、これじゃあ一週間もすれば教えることは何もなくなってしまいます」

「そりゃすごいな」

「この子は借り物なのでしたっけ?」

「今のところはね」

「私が欲しいくらいです、奴隷っていくらくらいなんですか」

「分からないけど、多分これくらい?」


 俺が言った額を聞いて、メイドはがっくりと肩を落とした。


「そりゃ無理です。よくバロウズ様は三人も譲ってもらいましたね」

「たまたま魔法が役に立ったんだよ」

「そうですか、魔法とは便利なものですね」


 この屋敷の人たちにとって、俺は欠陥魔導師。

 運が良かったとしか思っていないだろうな。

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