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21 心を読む魔法

 庭の隅っこ、昔俺が魔法の訓練に使っていた一角。


「どうだ、魔法は使えそうか?」


 そこではパレアが俺のメモを見ながら精神集中をしている。

 目の前には小さな昆虫の入った虫カゴが置いてある。


「全然ダメ、魔法は小さいころ少し習っただけなのよ。ちょっとした切り傷くらいなら治せるけど、役に立つレベルの魔法は無理」

「まだ始めたばかりだろ、せっかくの魔法の才能があるんだから」

「才能っていったって、魔法が使えるだけならそう珍しくないでしょ?」


 “魔法が使える人”と“魔導師”間には大きな隔たりがある。一応その境目となるのが、ファイヤーボールやヒール、サモン・モンスターといった、十人程度の敵と味方入り交じる戦場で、決定的な影響を与える魔法が使えるかだ。

 魔法を使えるという人間の大半が、松明の代わりに光を出したり、蝋燭の火程度の炎の塊を起こす程度しかできないのだ。


「小さいころはどんな訓練を?」

「……普通よ、8つの系統を順繰りにやってくの。私は出来が悪かったから、いつも居残りしてた」

「そうか、でも偉いじゃないか、ちゃんといくつか魔法が使えるようになったんだろ?」

「そんなことまで分かるのね」

「できなかったのなら訓練はもっと不安げなものになるからね」

「最初は驚いたけど、もう驚かないわ」

「何が?」

「あなた心術と幻術は凄腕クラスなんでしょ? 心を読んだのね」

「なるほど、屋敷のメイドに聞いたんだな」

「ええ、それで私が魔法を使えることも、なんで魔法を使えるのかも……私の過去も知ったんでしょ?」


 パレアの非難するような目で俺を見ている。やはり何か重い過去があるのか。


「俺は必要なとき以外は心は読まない、だからパレアの過去が具体的にどんなものかまでは知らん」

「は?」

「尋問している敵が嘘をついているかいないか、そういう時以外は読まない」

「別に怒ってるわけじゃないのよ、感情的になっている部分はあるけど、あなたにしたら当たり前の行為なんだから」

「疑ってるな?」

「……心を読んで確かめてみれば?」


 まったく。俺は苦笑した。


「別にカッコつけてるわけやヒューマニズムで心を読まないわけじゃないんだ」

「どういうこと?」

「心の声なんて当てにならない。全くね」

「意味がわからないわ。心の声ってことは隠しようのない本心ってことじゃない」

「本心なんてすぐに変わるものだよ。例えば、今キミが俺に抱いている、怒りの感情は明日も続くのかい? 明後日は?」

「別に、そこまで根に持つつもりは無いけど」

「だろ。例えば親に怒鳴られた子供が親に対して抱く憎悪は一晩寝れば全部消える。だけど、心を読んだら、その瞬間は確かに憎悪、子供によっては殺意すら抱いていることがあるんだ。それは本物だけど、まったく本物じゃない」

「……それはそうだけど」

「少なくとも人間関係を構築する上で、心を読むなんて失敗するだけだよ。感情は瞬く間に変わるもので、そんなものに振り回されていても何のメリットもない」

「じゃあ私の魔法について当てたのは……」

「最初に言った通り、君が貴族かそれに匹敵する裕福な家、あるいは魔導師のような地位のある家の人間が持つ雰囲気を感じたからだよ」

「何よそれ」

「カリスマとも言う」

「……今更そんなもの、邪魔なだけね」

「そうでもないさ」

「いいえ邪魔よ、私もナヴィみたいに生まれついての奴隷であればよかった。それならこんなことで悩まなくて済んだのに」


 パレアはそう自嘲した。


「ナヴィはナヴィの苦楽が、パレアにはパレアの苦楽があるよ」

「ナヴィも苦しんでるっていうの?」

「それは分からん」

「あら、あなたにも分からない人がいるの?」

「はは、じゃあ種明かしをしよう」


 俺は笑う。


「パレアには俺が人の心を覗いているように見えたのかもしれないけど、それが奇術師の手法だよ。自分の分かっている部分だけ言い当てることで全部分かっているように思わせるんだ」

「どういうことよ」

「逆なんだ、俺が分かったのは君のことだけだパレア。だから君を引き取りたくなったんだ。ナヴィのこともリアのことも俺にはまだ良く分からない」

「何よそれ」


 ぽかんとパレアは俺を見つめると、ぷっと吹き出した。


「よく分からないわ」


 パレアは困ったように笑っていた。

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