五歩目は、背を押されて。
連続投稿の後半部分です。
表現出来ない痛みが足を襲う。歯を噛みしめる。
あまりの痛さに目を閉じ、息を止めてしまう。
次に、足から頭へ炎が纏わりついてきた。炎の熱に耐えられず、痛さを忘れて身体をねじる。
しかしそれでも、炎を振り払うことが出来な……出来た?
自分が、炎に焼かれはしたが、燃えていないことに気付く。
連続してやってこない炎に、肩すかしと同時にホッとする。
そして直ぐに疑問が浮かぶ。
バックバックとビビる心臓をを抑え、
恐る恐る目を開けてみた。やはり炎は止んでいる。
呼吸をしようとして、未だ熱い空気を吸い込んでしまい、軽くせき込む。
そして、段々、自分の置かれている状況を思いだし、タタッと立とうとしたが、足全体を針に刺されたかのような痛みが走り、足を震わしながら立つ。
どうやら足全体が軽い火傷を負っているみたいだ。
しかし行動に支障はない。
トカゲがいた方へと視線を向ける。
ようやく起こった状況を呑みこめた。
父さんが止めてくれたのか
そこには、またもや鍔迫り合いをしている父さんとトカゲがいた。
いや、違う部分がある。対峙したトカゲの横っ腹に大きく斬られた痕がある。血は流れていない。
だが、流れた形跡があった。
そして、一番大きく違ったのは父さんが目に見えて疲労していることだった。
トカゲの傷も気になるが、父さんの疲れが大きくなり過ぎていることに戸惑う。
さっきも汗を額に浮かべてはいたが、明らかに違う。まるで、200m走を全力ダッシュしたような勢いだ。
焦りが大きくなる。
このままでは、不味い。
いや考えるな。
それは無視して、為すべき事に注意を向けなければ。
すぐに考察をやめ、弓矢の損傷具合を確かめる。
そして、近くの木に試射する。
……よし。軽く炎に焙られて、しなりが変わっているが、ブレ幅の範囲内だ。
これならいける。
振り返って構えると、父さんともう一度目が合う。
父さんが鍔迫り合いで態勢を変えないのは、俺の援護を狙っていることだと確信する、
すぐに次をつがえて、本命を射る。―――狙うは横っ腹。この損耗だと、そこしか当てる自信が無い。
ピュッと矢が横っ腹に当たる。が、弾かれた。
!?
どういうことだ、なんで弾かれた! 鱗がそこまで硬いのか?!
傷一つすら付いていないぞ!
父さんもそれを目の当たりにし、驚く。
しかし、すぐに口をニッとさせて、
そして――――俺を視た。
その目つきは、知っているようで初めて見るものだった。
父さんが毎朝、出かける時、俺たちに笑顔を見せた後、尾を引くようにしながらも変える、据わった目つき。
それを何倍も強くしたような、決意の表れ。
胸がざわつく。
思わず叫ぶ。
「父さん!!!!」
まだ他にも出来る事があるかもしれない。
家に戻れば、ショートソードがある。他にも母さんがいるかも!
…母さん? どうして、妹も母さんも見ないんだ? どうして?
ふわりと風を感じ、俺が嫌な想像から目の前の現実に引き戻される。どちらも望まない状況だ。
風を感じるよりも前に、父さんはもう一度距離をとることを試み、成功する。
しかし、トドメとばかりにトカゲがもう一度追撃をかける。今度は袈裟切りの構えではなく、突きの構えだ。
「くっ!」
もう一度牽制のために矢を放つ。
が、無視される。トカゲと視線が不意に合う。
しかし、すぐに逸らされた。興味が無いとばかりに。無害だといわんばかりに。
そこからは意識が朦朧としていた。
ただ事実のみが、目から頭の中に流れ込む。
上段の構えで父さんが迎えうつ。
トカゲの突きが父さんに繰り出される。
それと同時に父さんも剣を振りおろし、敵の首を一太刀にかけた。
トカゲの頭が地面に落ちる。続いてトカゲの体がぐらりと崩れる。
奴を倒した。けれど……
父さんは敵の突きを避けなかった。
その結果、剣が父さんの体に刺さったままだ。剣を伝って血が、ぽたりぽたりと滴り落ちている。
ハッとする。
「とうざん!!!!」
喉がカラカラなのか、俺が泣いているのか分からない声で叫ぶ。
直ぐに駆け寄る。それと同時に父さんが後ろへと倒れかけるのを、俺が両手を使って支える。
剣は刺さったままだ。父さんが呼吸するたびに、空気が抜けるような音がしている。
どうみても痛い。おれの心も痛くなる。抜いて上げたい。しかし、刺さっている位置が心臓近く、肺に刺さっていることが分かる。
抜いたら、出血が酷くなる。しかし、抜かないと父さんが死ぬ。いや抜いても父さんが死ぬ。
そのことに気付き、思い知らされる。
言いたいことが支離滅裂に湧いて出てくる。
どうすれば助かる? 愛してくれてありがとう。本当の息子でなくてごめんなさい。俺が命をかけるべきだった。
父さんの命をかける程、俺は生きる価値が無いんだ。ああ、こんなことなら俺が行くべきだった。
何を言うべきか言わないべきか、頭の中がぐしゃぐしゃになる。口を開いても、
「父さん……」としか言えない。情けない。本当に情けない。
目が合う。また、自分を責め立てる言葉が次々に浮かぶ。
不意に頭を父さんの方へと移動させられる。びっくりした。
視界外で父さんの腕が俺の頭を寄せたのだと気づく。
生気のない顔だが、ガハハと笑う時の笑顔を見せた。
そして、
「ってい……」
何か言った。小声のために聞き取れない。
慌てて、耳を父さんの口に近づける。
そして、次は聞こえた、ハッキリと。
「知、、ていた、お前が転生者であることを。」
「!!!!」
直ぐに逃げたくなった。だが、ゴードの腕がそれを許さない。許してくれない。
「よく聞け、時間が無ぃ。
伝えなければいけないことが山ほどあ、、る」
「その上で、、おまえを愛することに決めた、、のだ」
ただ、救われた気がした。内緒にしていた。
この世界で一番の後ろめたさが無くなったような気がしたから。
聞きたい事が山ほど出来る。だけど、黙る。
父の言葉はまだ終わってはいない。
「すぐに妹を連れ、、てここを出ろ。あいつらは3体、、、で1チームだ。
残りの2体、、が近くにいるかもしれない。」
「お前たちはもう、、子供ではない。小さな、、大人だ。」
「人を信じるな。ギルド、、へ行け」
「転生者として感付か、、れるな」
そして、父さんは視線を、家の方へと向ける。その視線をおいかける。
足が見えた。足が覗いていた。しかし、ぴくりとも動かない。
「リーナに、は見せて、やるな」
その言葉で持ち主が分かる。
「そ、れ、、と、、、、」
スウと不意に命の灯が消えた。目の光が、失った。
父の胸に顔を埋めて、たまらず吠えた。
「あぁああぁ、ぞんな! やめでぐれ!!!」
「俺を独りにじないでぐだざぃ!!!!」
ただただ我を忘れて、泣きじゃくる。
だが、直ぐに父の言葉を思い出す。
他に二匹いる可能性があることを。
ギギイと音が鳴る。
思わず振り返る。敵意を以って。
俺の燃えたぎるような深い感情の高ぶりを全てぶつけるようにして。
そこにいたのは、扉を恐る恐る開けるリーナだった。