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四歩目は、戸惑いを以って踏みしめる。

連続投稿の前半部分です。

 あれから1年が経った。


俺は、家の近くの山の中腹にある大きな岩の上で、ぼんやりと座り込んでいた。

ここからだと、木々のために家は見えない。


凶暴なオオカミに襲われて父さんが死んだ。

なんてこともなく、平穏に過ごせていた。


 ある1点を除いては。


 それは、母さんが、自身が魔法使いだと打ち明けられたことだ。そして妹もその素質があると言う。

その素質を、大きく、開花させるには期限があるそうだ。

そしてその時期がそろそろ終わってしまうらしい。


 何故今まで教えてくれなかったかというと、俺には全く素質がないからだと。

 それだけならまだ冷静に受け止められた。母さん達が特別で、俺と父さんが普通だと思えたからだ。

 けれど、それすらも違った。


 俺が特別で、父さんを含めたほとんどの人間が程度はあれ、魔法を使えるそうだ。

詳しく言うと、魔法とまでは言わないが魔素が扱えるってことらしい。

 

 魔素ってナンダロウネ


 その説明を受けて、ショックを隠しきれず、独りにしてくれと言って、家を出てきたばっかりだ。

風が吹き付けてきて少し寒い。

けど、日光で温かくなった岩が俺を温めようとしてくれる。

岩に、心の内で感謝する。

岩の表面を、気が向くままに指でなぞって、物思いにふける。


 ああ、訳が分からん。どうしてこうなった。

魔法ってなに? 歴史の教科書でも見た事ねえぞ。

最初は発見されていない原理や技術の総称かと思ったけど、そんなことは無かった。

実際に母さんが申し訳なさそうに、軽く意味のわからない文句を言って、人差し指から火をだしたのだ。


 それを見たとき、俺は驚きに驚いた。その程は、自分のあいた口が塞がらなくて、妹に閉めて貰ったほどだ。

だから、お礼代わりにめちゃくちゃ可愛がりました。


 他にも火を水平に飛ばしたりもしてみせた。

それを見たときも、俺はあいた口が塞がらなくなって、またもや妹に閉めて貰った。

お礼代わりにめちゃくちゃ可愛がりました。


 リーナの笑顔は本当に可愛らしい。

普段の、目元が少しキツい美人よりの顔が、破顔して可愛らしくなる様がとても良い!

笑顔によって、できるえくぼ、きらきらと輝く瞳、etc...


 嗚呼! なんて素晴らしいんだ!


 いかんいかん! 話が脱線した!

 

 話を元に戻そう。

つまり、ここは地球じゃない可能性が出てきたってことなのだろうか?

そもそも輪廻転生したんだから、生まれ変わるのは未来じゃないかとか思っていたんだ。

けど、う~ん……予想より斜め上すぎて頭が混乱するなあ。

 

 地球うんぬんはこの際置いておこう。情報が足りな過ぎる。

今一番考えないといけないことは、俺だけが魔法を使えないってことだ。

厳密には珍しいということらしいけど。そこはどうでもいいんだ。

 大切なのは少数派ってことだ。

帯剣して出かけるご時世で、魔法を使えない奴がどんな扱いを受けるか目に見えている。

まずカモられる。加えて見下される可能性もある。他にも不利な状況が生まれそうだ。


 ああ、だから村に俺を近づけさせなかったのか。

いじめれるもんなあ、絶対に。

しかもなんだ? いじめられる事を考慮して家から離れていた場合、妹も俺の境遇に無理やり合わせられていたってことか?


 いかん、いかんよアラン。死にたくなってきたよ。これ以上この方向で考えるのは、よそう。

それだけのことで人里離れて過ごす事はきっと無いはずだ。ないよね?

 

 岩肌をなぞりすぎて指が痛くなってきたが無視して思考を続ける。


 今、把握するべきは俺が魔法使えないことで、何か迷惑をかけていたか確認することだ。

もしあるなら全力で謝ろう……うん。   よし。


 決心した俺は、顔を上げると同時に伸びをする。

なんだか今までの暮らしがガラリと変わった気がする。

しかも、いままでおとぎ話だと思って聞かされた、英雄のお話やドラゴンが出てくる物語も、実話だったみたい。

全くわくわくしない。これからは空を見上げるたびにドラゴンと目が合って襲われないかビクビクしそうだ。


アーオアーオ


ボウン


 ん? 今何か、音が、家の方角から聞こえかったか? 

何かが燃え上がったような音だったと思う。

家族がバーベキューでもやり始めたのか?


 そう思って、俺は家の方へと、見えもしないのに視線をよこす。


 やはり、木々が邪魔で何も見え……なんだ?

木々の間からうっすらと灰色の煙が上がってきた。


じっと見つめると、段々と色が濃くなっていく事が分かる。


 妹が魔法の練習でも、やり始めたのだろうか? 木を的にして。

だとしたら、きっと火の魔法なんだろう。

本当に……取り巻く環境が変わってきた事を実感する。

 

 取りあえず、話途中で勝手に出ていった事を謝らないと。

それにしても、俺が傷ついたのに何食わぬ顔で練習始めるんだな。

ちょっとだけ傷つくぜ。


 ……面倒くさい性格してんな、俺。

しかもなんだろね、この……もやっとする感情は。初めてだ。

前の自分と今の自分、培われた物が違いすぎて、考え方が衝突しているのか?

記憶を引き継いで子供の頃をもう一度体験する、つまり輪廻転生の弊害だろうか。

それともこれが、今まで経験がなかった反抗期とかそんなものなんだろうか。


……また脱線した。今はとっとと家に帰らないと。


 そう思って再び顔を上げると、


 ボウ! と大きな音と共に、青い空に向かって火線が描かれるのが見えた。


 それにしても、魔法を使う頻度が高いな。はりきりすぎじゃないのか? 山火事とか止めてよね!

私の親友なんだからね! 山とか森とか、草木とか!数えきれないほどいるんだから!


 今までこんな風景は見たことがなかったのに。村の方角でもだ。

12年間、見たことが無かった。この平穏だった12年間では。


……村の方角ですら見ていなかったんだよな?

ああ、なんだか嫌な予感がしてきたぞ。


 不安が胸中に浮かび上がリ始める。

次第にその不安は、具体的な形になろうとしてくる。

それを恐れ、遮ろうと、俺は慌てるようにして家へと走り始める。


 ああ思い過ごしであってくれ



 スッ! スッ! ハア! と呼吸を整えれる限りの全力で、木々の合間を疾走する。

目の前に岩場が見えた。俺の知っているものだ。

あと3分ほどで家にたどり着けることが分かる。3mほどの高さを平らな岩に向かってジャンプする。

両足で着地と同時に前転し、膝に来る前に衝撃を逃がす。そして、また全力で駆けだす。


アオーッ!


 まただ!

さっきから、家の方角から時々、獣の声が聞こえてくる。しかも知らない吠え声だ。

きっと何かに襲われている……!

 

 妹を除き、父さんと母さん、二人がいるのに戦闘が終わっていない。

その事から想像される相手の戦力に、冷や汗が流れ始める。



 くそ! なんてもどかしいんだ。早く着いてくれ……!

早く加勢しなければ!

 

 常備している背中の弓矢に意識を向ける。

矢は6本。敵の数は? 遠距離からの不意打ちをするべきだろうか?

けれど、それは家族にとっての不意打ちでもある。


 家族に当たる、可能性がある……!


 とはいってもやはり、魔法を使っているこの状況に加え、対峙している時間が長過ぎている事からも、

その獣が、恐ろしい奴だということが嫌でも分かる。

 

 ああ!! どうする!? どうすればいい?!

不意打ちか!! それとも否か!!!


~~~ッ!!!!


 

家が! 見え始めた!


 しかし、ここからでは、家で隠れているのか、誰も見えない。なにも把握できない。

糞ッ!  なんて、もどかしいんだ! 


ギャリリイッ!


 金属がこすれる音!

それを聞いて、事は家の向こう側で起こっている事を確信する。


 よし、決めたぞ。家から飛び出すと同時に弓での不意打ち。

難しそうなら、吠えて、敵の注意を俺に向けさせ、追いかけさせる!

近隣の森は俺の庭。そこまで逃げ込めれば撒ける自信がある。


 もし撒けなくても、俺の命と引き換えに、家族が逃げれる時間を稼げるならば、


―――――それは本望だ。


 胸を張って、俺は死ねる!


 さあ、あと少しで飛び出せるぞ! いち、にの……さん!


 木々の影から開いた場所に出たため、日光がまぶしく感じる。

そして直ぐに目が光りに慣れ、ぶぁあ と視界が開ける。


! いたぞ! 父さんと、襲撃者が! 数は1つ。

うん? 両者は鍔迫り合いをしているぞ……? 獣じゃないのか?!

それに母さんもいない……??


 だが知りたいことは知った。

こいつが俺達の家を襲っている……!


 その襲撃者は2足で立っているトカゲだ。しかも1mほどの剣を握っている。

あれが物語に登場していた亜人というものだろうか。

全体的に深緑の皮で覆われており、日光を吸収する色合いだ。

体長、いや、身長は1.5mほどだろうか。俺より低い、父さんと比べたら小さすぎるほどだ。


 しかし、力は拮抗している。いや、押されているのか?


 父さんの額に汗が浮かんでいることが、ここからでも確認できるほどだ。

また、トカゲの方は、大きい口から大きな舌がこれでもかと伸びている。

そしてそれを、なぞって、ぽたりぽたりと涎を垂れ流していた。


 早く行動に移さねばならない。

しかし、それでも、よく考えなければならない。

不意打ちをしてもいいのかどうか、だ。

話の通じぬ獣と思っていたが、実際は亜人ではないだろうか。

 

 いきなり命を奪うべきではないのでは。

不意打ちなどせず、人数的不利を知らせ、降参を呼びかけるべきではないのか?


 ~~! ああ、またか! また悩まないといけないのか! 分からないことが多すぎる!

すでに弓矢は構えている! 早く行動に移さねば、父さんが!


 ギャリンという音と共にハッとする。


 父さんが鍔迫り合いに負けそうになり、4mほど慌てて離れていた。

しかし、無理やり離れたためか態勢を少し崩してしまっている。


 トカゲが好機とばかりに袈裟切りにしようと剣を構え、離れた距離をすかさず詰めようとする。


 まずい!

 

 直ぐに牽制の矢を放つ。


 トカゲは飛んできた矢に反応し、父さんへの接近を止める。

そして、ぎょろりとトカゲの目がこちらを捉えた。また、父さんも俺に気付く。

 

 不意打ちは出来なかったが、父さんを守れた事に俺は安堵する。

そして、直ぐに第2射の準備をして警告を飛ばす。


 「止めろ! 2対1だ!武器を捨てて降参しろ!」


 トカゲはだらりと腕を下げる。

 よし、戦意を失ったみたいだぞ。


 「早く武器も捨てろ!」

 

 そして、トカゲの行動に注意を払いつつ、父さんに視線を飛ばす。


 父さんはトカゲの行動に驚いていた。


 ……なんだ?

 

 そして、直ぐに俺の視線にハッとして、トカゲに向かって駆け出し、叫ぶ。


 「逃げろ! アラン!!」


 それが言い終わらない内に、俺は自分の失敗を悟った。



 それは、未知の危険だった。



 トカゲが 赤い光を体内から鈍く発光させる。

次に、その光に呼応するかのように、垂れ流されている涎から炎が生まれた。引火したのだ。油のように。

大きな口からも炎が溢れていた。まるで形があるかのように炎を噛んでいるようにも見える。

 

そんな幻想的な光景に息を呑む。それと同時に、頭のどこかで危険信号の音が鳴り、だんだんと大きくなリ始める。

 

 そして、トカゲは特有の鋭い眼つきで、俺をじっと見定めていた。胸を張り、首を弓の弦のように引いて……


 やばい!


 大粒の汗が、ぶわあと浮かぶや否や、俺は射る構えを解いて、横へと走りだす。

 

 さっきから確認していた火の魔法は、父さんや母さんのものじゃない!

こいつだ! こいつが生んだものだったのだ!

 

 そして、首を限界まで後ろへと伸ばしたトカゲは、頭を前へと突き出すと同時に、炎を吐いた。

炎が飛んでくる。しかし横に走っていた事が相して、すぐ後ろを通り過ぎ、避ける事に成功する。


 よし! よしッ!

 

 直ぐに、弓矢で反撃しようと、走る速度を緩めて、トカゲ野郎へと向く!

しかし、まだ攻撃をかわし切れていない事を俺は知った。吐かれた炎は単発ではなく、継続していたのだ。


 「くそっったれ!」 


 火線となった炎が、トカゲを中心とした時計の針のように俺に迫ってくる。

泣きそうになるのをこらえ、再び俺は走り出した。

しかし、俺よりも追いかけてくる炎が速かった。未来が見えてしまった。この身に降りかかる悲惨な未来が。


 ぅ、うおおおおおおおおおおお!!!!!!!


 じりじりと背中があぶられていることが分かる!炎が直ぐ近くに迫っていることが分かるっ!!

後ろを振り向く余裕すらない!もし振り向いたら、その行動による失速と共に俺の顔が焼かれてしまう!!!


 相手の、あるかもしれないガス欠を望んで横眼でトカゲの状態を窺う。

 

 駄目だ! 全然疲れを見せていない! 帰りにバッティングセンターでも行きそうだ!


 ジュウ!!!!!!

足が炎に呑みこまれたのか、焼かれる。それと同時に炎を線に形成する風圧に足がとられ、勢いよく前へと飛ぶようにして転ぶ。

直ぐに立ち上がろうしたが間に合わなかった。



 そして、炎が俺の全身を呑みこんだ。

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