表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/24

三歩目を、疑いもなく進める。

 0歳から半年経った。


ここは田舎みたいだ。

周りは見渡す限り、森であり、近くに家もない。両親以外の人を見たことがない。

自分のベッドであるカゴから窓を通して景色を眺めるが、通りすぎるのは人ではなく、いつもそよ風だ。

毎日父親が、俺と母親にキスをして、獣道と間違えそうな小道を通って外へ出かけていく。

そんな愛情あふれるスキンシップに俺は照れてしまうが、嫌いではなかった。

むしろ、自分はホモなのかと戸惑ってしまったほどだ。

しかしそんな戸惑いは小さなものだったのだ。それを凌駕する驚きがあったからだ。

父親が出かける格好に、帯剣がしてあることだ。

剣?! なんで剣?! と赤ちゃん言葉で喚ぎ驚いた。


つまり、この時代は、前世で俺が生きていた時代よりも遥か昔なのだ。

一人で生きていける自信がなくなった。ハイハイは出来るけど

日本という温室で育った俺には難しそう。自信揺らぐわー


1歳になった。


両親の会話や俺に話しかけてくれる言葉に耳を澄まし、その内容の法則性や繰り返される発音、つまり単語を覚えていく。

穏やかな表情で話しかけてくれる両親をみると、自然と笑顔が浮かぶ。

これが本当の笑顔なのかな? と思うと、自然と泣いてしまった。

 そして、両親はそんな泣いた俺を見て、慌てて宥めようとしてくれる。

すると、俺がそんな慌てた両親の姿を見て、泣き顔を笑顔に再び戻す。

自分がやった事だが、困ったものだ。幸せで仕方がない。


また、そんな俺がパパ、ママと発音出来た時は、両親は両手を振って喜んだ。

俺もコミュニケーションがとれ始めたことにきゃっきゃっと喜ぶ。

そして、それと同じ時期に自分の名を知る。


アラン


それが俺の名前だ。不思議と胸を張って言いたくなる。自慢したくなる。

そして、父親がゴード。母親がマーサだ。

これからもよろしくお願いいたします。


2歳になった。


1歳後半からでき始めた二足歩行で積極的に情報収集する。

それと同時に舌を一生懸命に動かして喋ることもする。

早く、弟が欲しいと言わねばな。

父親……お父さんは、朝早くに出発し、夕方に帰ってきて寝てしまう。

遅い時は1週間はかえってこない。これだから、一向に子作りしようとする雰囲気が感じられない。

その流れを俺は断ち切ってみせる。






幾年もの時が流れた。



そして、俺は15歳になった。


 日光に反射して輝く森の中で、俺は茂みに隠れて深呼吸をする。

心地良いと感じられる程度に水気を含んだ、新鮮な空気はいつも俺を穏やかな気持ちにしてくれる。

 

頬で風を感じ、地面に片手をつけて大地を感じる。

耳を澄ませば、近くを流れる小川のせせらぎ、そして草を踏む音が聞こえてくる。

音の持ち主は恐らく水飲み場としてここへやって来たのだろう。

葉にまばらに覆われた視界、その合間を窺うように覗き込む。


――獲物だ。明るい茶色の毛を纏うそれは、メスの鹿。


 獣道を見つけ、追いかけることより待つことを選んで良かった。

自然と口角が上がる。


 その俺の心の変化を感じ取ったのか、獲物の草を踏み分ける音の間隔が大きくなる。

 

 いかんいかん、警戒されたか? もう一度、自身の認識を改めよう。

俺は今生き物ではないのだ。茂みと同じ、土に根を下ろし、風を感じる森の友だと。


 そうやって、心をもう一度落ち着かせ、穏やかにさせる。

空いたもう片方の手で、近くに置いていた弓に手をかける。


 獲物は喉を潤しているようだ。


 いつもの要領で、風が吹き込まれてくる度に、自分の居場所を少しずつずらす。

そうすることで俺から発する不自然な音は、風が隠してくれる。

 

 長い間、同じことを繰り返し、茂みの密度が薄いところへとにじりよる。

5分たったかもしれないし、3時間以上たったのかもしれない。

経過する時間は意識しない。

気高き森は時間の流れに寛大だ。友である俺も、そうでなければならない。

視線は常に獲物を見つめ、かつ背景を見つめるようにする。

見るというよりかは、獲物を収めた景色を眺めるという意識だ。


――着いた。

 ゆっくりと、立つと同時に弓を構えて矢をつがえる。


 獲物がはっきりと見える。


 景色を眺める意識から、獲物を見つめる意識へと変える。


 それを一呼吸の間にすまし、息をすぅと吸い込み、そして……射る―――

 

 ひゅうと音を立てて、とぶ矢は吸い込まれるようにして、頭へと当たった。


 獲物は、糸が切れた人形のように地面へと崩れ落ちる。

 

 それを確認すると同時に息を吐く。

よし! とガッツポーズをとる。

喜んでくれる家族の顔が目に浮かび、顔がにやける。

そんな事を考えながら、運ぶために、また後で解体するために、手持ちの研がれたナイフと縄を駆使して容量良く血抜きを行う。

これぐらいの大きさなら一人で運べるな。

 そして、俺は日が暮れ始めた我が家へと意気揚々と足を運びはじめた。



「ただいまー」


 俺は扉を開けながら声をあげる。


「おかえりなさい」と母さんが応えてくれた。


 それと同時に、

「兄ちゃん!! おかえりー!!!」

と大声をあげて妹のリーナが俺の胸に向かって飛び込んでくる。

 

 あああ、可愛いなあリーナは! いつ見ても可愛いなあ!!


 猛る気持ちを裏腹に、頭を撫でて応える。

 

 俺に甘えてくるリーナは今年で12歳になると思う。

ちなみに父さんは40前半で母さんは30後半だと当てずっぽうで決めている。

というのも、この世界では年齢という概念がない。

日数のカウントはするが年のカウントはしないのだ。

どれだけ俺は昔に産まれんたんだろうね……

 

 リーナが飛びついてきたままの姿勢で顔を上げて、話しかけてくる。


「うぇへへ、汗くさーい!!」


「朝からずっと森にいたからな、疲れたよ」


「お疲れ様、今日はどうだったのかしら?」


「うん、ばっちしだよ、母さん、今から残りの作業を終わらせてくる」

 

 そう言って俺が開けていた扉を再び通ろうする。

 

 それを母さんが手で制す。


「いいわ、後は私がやっておいてあげる。

 疲れたでしょう? ゆっくり休みなさい」


「・・・ありがとう」

 

甘えさせていただきます!


「あ! お母ちゃん! 私も手伝う!」

 

 それを母さんはまたもや手で断り、作業のために家を出る。

 

 残された俺は、椅子に腰を下ろして妹を可愛がることにする。妹は抱きついたままだ。

 

 リーナは母さんの遺伝子を濃く受け継いだのか、明るい赤色の髪をしている。

長さは長く、三つ編みにして母さんと同じように肩から垂らしており、胸まで届く。本人は活発なためか、ショートカットにしたがっていたが、

母さんにたしなめられていた。

そして、顔立ちは父さんに似たのか勝気な顔立ちで、目は軽く吊り上っている。

しかし、笑うとその人懐っこさが顔に出るので大変可愛い。そのためか、可憐という言葉が良く似合う。


 可愛いなあ可愛なあと思いながら、頭を撫でてお互いの今日の出来事を報告し合う。

毎日の一日の行動は、俺が猟に出かけ、妹は母さんの家事のお手伝いや薬草採集、時々俺の狩りにもついてきたりする。

ただ、一度も他の人と会った事が無い。近くに、村があることは知っているが、行くことを両親に禁じられている。

1人前として認めるまで駄目なんだそうだ。

 帯剣して出かける父さんの姿を知っているので素直に納得できた。

恐らく法も満足に敷かれていないのかもしれない。

 ただ妹はあまり納得してないようにも見える。


 そんな、俺と妹の様子を見て、母さんは普通は逆じゃない?男の子なんだからと不思議そうに笑っていた。


 ガチャリと音がして扉が開く。誰かが外から入ってきた。

灰色の短髪に髭をつけ、渋い顔立ちで輪郭は四角い、山が似合う男、父さんだ。


「ただいま~」


「「おかえり」なさい」

 

父さんが、しかめっ面にみえた表情を破顔させる。ガハハと言って、俺と妹の頭を荒々しく撫でてくる。

父さんが俺に尋ねた。


「母さんはどこにいるんだ?」


「外で、俺が獲った鹿を解体してくれてるよ」


「直ぐに戻ってくると思うよ!」

妹がついで答える。


 父さんが一層大きくガハハと笑う。


「お前も一人前の狩人になってきたんじゃないか?」


「そうかな? でも、剣の方はまだまだだよ」


「明日明後日は暇だ、稽古をつけてやる」

 

 フッ、あんたの息子としての成長ぶりを見せてやろう。

だが、謙虚な姿勢をみせておこう。

 

「よし! 久々の稽古だ! 頑張るよ!」

 

 と、子どもじみた返事をしておく。


「わたしも! わたしも!」


 妹も懸命に、私を忘れないでとアピールする。


「覚悟しておけい」


厳しく言ってるつもりだが、顔がにやけているので台無しだ。


 ガチャアと音がして母さんが戻ってきた。


「あら、貴方、おかえりなさい」


ほんわかした笑顔でお父さんの帰宅を喜ぶ。


「ただいま」


お父さんがそれらを包むようにして母さんを抱きしめる。


それらが醸し出す雰囲気に、思わず俺は妹と顔を見合わせる。


そして、誰かが笑いだして、つられて自分も笑いだす。

連鎖して皆が笑いだす。幸せだ、本当に。


 あと5年。

 20歳の旅立ちの前に全てをある程度1人前にしなければいけない。

 もう5年しかないんだ。もう、5年しか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ