056 いざ謁見 その3
「という訳で方向性は決まったな」
「はい、父上」
芹香が頭を上げるのを待って公王はエースに確認する。
「それとジュエル殿、全てが終わるまで貴方も城に逗留していただく。良いな?」
公王の命令にジュエルは頭を下げる。
「もちろんでございます。万が一の際は処罰するなり、人質に使うなりしてくださいませ」
その答えに公王は困った顔をし、エースが公王の代わりに話す。
「ジュエル、それは違うんだ。
父上が言っているのは、このままでは君の身も危ない。だから事件が解決するまで、君の安全を確保したいと言う事なんだよ」
自身を案じられたのがこそばゆいのか、ジュエルが顔をあげるとほんのり頬が赤くなっていた。
「そうでしたか? それは失礼致しました。えっと……、よろしくお願いいたします」
「あ、それじゃ僕が頼まれてたお願いってどうすればいいかな?」
キノが約束に関して覚えていたのか、問いかけるとジュエルは微笑んで答える。
「私がお願いしたかった事は全てキノ様が叶えてくださいました。
お願いしたかったのは、秘密裏に勇者様の居るソルトへ運んでいただき、勇者様に危険を伝えるお手伝いをして頂きたかった事。
公王様にお話しを通すため、勇者様を伴って王城に入るお手伝いをしていただきたかった事なのです。
その両方ともお願いする前に、しかも最高の状態で叶えていただきましたので最早お願いする必要は無くなりました。
本当にありがとうございます。
シィーブン家ではなく、私個人としてですがこのご恩は絶対に忘れません」
「あ、そうなんだ? 良かったね?」
キノがにっこりと笑うと、ジュエルはそっと指に嵌っていた指輪を外す。
「この指輪は守りの魔法が掛かっているアイテムという話で、とても高額な品です。こちらをお礼にお受け取り下さい」
その指輪をキノに差し出そうとするが、リルが間に立って阻む。
「そのような指輪、いりません」
「え?」
いきなり断られたことにジュエルは固まってしまう。
「そのような指輪を渡し、勝手に婚約を成立させるつもりですね。
私には判ります。そのような卑怯な手、2度とさせませんっ」
決意の篭った瞳でリルはジュエルを睨む。
「あっ……、えっと……、そのようなつもりは……」
「いいえ、私には判ります。いいですか? キノ様には私という者があるのですから、そのような誘惑は無駄なのです!! とっととその指輪を引っ込めてください」
以前、キノがシエル姫から指輪を貰い、うかつに嵌めたばかりに婚約することになった。という経緯は覚えておいでだろうか? 少なくともリルは覚えていたようだ。
かたくなとして指輪をキノに近づけさせようとさせない。
「えっと……」
あまりの剣幕にキノを含め全員がは何も言えない。ピーシアだけはにまにまと面白そうに見ている。
《マスター、念のため指輪を【神の目】で確認してはいかがでしょうか?》
《あ、うん》
サブのアドバイスを受け、キノはジュエルの持つ指輪に【神の目】を念じる。
○守りの指輪
守りの効果が付与されている指輪。
1度だけ命に関る攻撃を無効化する事ができる。
サイズ#14
《どうやら特殊な呪いはなさそうですね。本当にお礼の為に渡そうとしているようです》
《そうなんだ?》
《ですが、あの指輪は命を狙われる可能性の高いジュエルか芹香が身につけておくべきではないでしょうか》
《ふんふん》
《そもそも今のマスターを傷つけられるものはほとんど居りません。リルも滅多な事で傷つけられる心配は無いでしょう。
あの指輪は不必要と言い換えてもいいですね》
《そっか》
「その指輪はジュエルさんが持ってた方がいいよ?」
リルから一方的にいちゃもんを付けられ、涙目になっていたジュエルが助かったとばかりにキノの方を向く。
「キノ様?」
「その指輪は命に関る攻撃を一回だけ無効化する事ができるみたいだから、命を狙われてる人が付けといた方がいいんじゃないかな?」
ジュエルは目を見開く。
「そうだったのですか!? 全く知りませんでした……」
「うん、っていうか知らなかった?」
「はい、申し訳ございませんが全く知りませんでした。
この指輪は、以前父の書斎にあった、"うっふん天国 天の章"を熟読していた所を父に見つかってしまい。何を勘違いしたのか、父が「この指輪を上げるから、今見た物は忘れるんだ」と言って譲って頂いた品だったのです。
ですが、他にお礼として渡せるようなもの今の私には……」
「ん~、ついでにやったことだし、お礼なんて別にいいよ?」
「ですがそれでは……」
「じゃ、そうだね。僕の目標は勇者様へのご恩返しなんだ、どうしてもお礼って言うなら勇者様が喜びそうな事をしてもらえると嬉しいかな?」
その言葉を聞いてジュエルは芹香を見る。
ジュエルの視線に気づいた芹香は"私のことじゃないよ"とばかりに手を振る。
「はい、ありがとうございます。勇者様の為、できうる限りのことをさせていただきます」
ジュエルは熱い視線を芹香に注ぎ、キノへ頷く。
芹香が後ろで"あちゃあ……"とばかりに頭を抱えているが、キノもジュエルももちろん気づかない。
「キノ殿はこれからどうするつもりか?」
話が一区切りついたとして公王がキノに問いかける。
「そうだね、オーウェルさんにこっちのギルドで調べたいことが見つかるかもしれないって教えて貰ってるし、それを調べてみるかな?」
「あ、それなら僕が案内して上げるよ。この街には詳しいんだっ♪」
キノの答えにピーシアが割り込む。"何故、魔族がこの街に詳しい"と言うツッコミが色々な所から出かかるがなんとか飲み込む音が聞こえる。
キノは断る理由もなかったので素直に頷く。
「そうだね、それじゃお願いしようかな?」
「うん、任せといて♪」
先ほどの姿を消す魔術もそうだが、彼女は何よりも言葉の端々に様々な情報を握っている事をちらつかせている。野放しにして大丈夫なのだろうかと公王は頭を抱えてしまうが、ここで話を聞いている以上既に手遅れである。
「う……うむ、まぁキノ殿が付いているのならピーシア殿が街を歩いても……むむぅ……いいのだろうか?」
「あ、大丈夫。翼と角だけを消すことも出来るから。大抵の事じゃ魔族ってばれないよ?」
経験則なのだろう、あっけらかんと返す言葉に、公王も色々と諦めるしか無かった。
「そ、そうか」
「うん、便利でしょ?」
「……うむ、そうだな」
彼女の擬態を一目で見破ったキノが一緒なら滅多な事はないだろう、と公王は自分で自分を納得させる。
「そうだな。今回の件では色々と助かった。
この後はキノ殿を巻き込むつもりはないが……もしキノ殿の力が必要になった際、声を掛けさせて貰っても宜しいだろうか?
それと出来れば時折、王城へ顔を出していただけると嬉しい」
「うん、いいよ」
公王としてもキノ程の力を持つ者を野放しにはできない。だが、隣国の王子と報告も上がっている。何より事情を色々と知られてしまっている。と言うこともあるが、勇者から信頼を置かれている面や現在が非常時と言うことも考え、妥協点を探したのだろう。
素直に協力を受諾してくれるキノに安心し、人知れずホッと息をつく。
「ありがたい。
しばらく滞在するのなら安全な宿を紹介するとしよう。……そうだな、サリエムに案内させるか」
公王が兵士を呼びつけると、すぐにサリエムが扉を開けて入ってきた。
「サリエムよ、キノ殿の宿を手配せよ。滞在費は国で負担する」
「畏まりました。期間は定めるのでしょうか?」
「そうだな。キノ殿滞在の予定は?」
話題を振られ、キノは困った顔をする。
「決めてなかったけどどうしよう?」
「ふむ、それでは期間を1ヶ月までと定めておきましょう。キノ殿もそれで宜しいですか?」
「うん、ありがとう」
「サリエムよ、それではそのように手配してくれ」
「畏まりました」
サリエムは公王へ確認を終ると、キノ達の前に歩いてきた。
「それではキノ様、リル様、ええと……」
始めて魔族を見たからだろうか、ピーシアを見たときにサリエムの目が一瞬だけ泳いだ。
泳いだだけで済んだのはサリエムが熟練の侍女長からかもしれない。
「ピーシアだよ、よろしくね」
わずかな間に気付いたピーシアがにやっと笑って名乗ると、サリエムは何事もなかったようにピーシアにも頭を下げる。
「失礼致しましたピーシア様、ご準備は宜しいでしょうか?」
「あ、うん、ちょっと待ってね」
サリエムの反応に肩透かしを食らったピーシアだが、すぐに何かに気づいたように待ったを掛けると徐々に羽と角が消えてゆく。
「うん、お待たせ。もう大丈夫」
完全に翼と角が見えなくなると、ピーシアが頷く。
「ではご案内させていただきます。それでは公王様、失礼致します」
「ああ」
サリエムが退室の礼をすると芹香から声が掛かる。
「ねぇ、リル、聖者様。後で遊びに行っていい?」
「ええ、待ってますよ」
芹香へリルが笑顔で答える。
「リル様、私も踏んでもらいに「来ないで下さい」」
ついでにエースも懇願するがすげなく断られる。
内容が内容だけに兵士や公王まで唖然として見ていたが、今のエースには気になるものではないだろう。
「それではキノ様、リル様、ピーシア様参りましょう」
1人平常心を崩さないサリエムが3人を促し謁見の間から出るまで、公王達はフリーズから解けることはなかった。
また暫しストックに入ります。
最近面白くかけてないような気が……。楽しく読んでもらえるように頭ひねってきますっ(((o(*゜▽゜*)o)))
PS:他にも色々投稿しました。良かったら読んでください。




