057 王都観光 その1
サリエヌに案内され、王城に近い宿屋の一室に陣取ったキノ、リル、ピーシアはソファに座ると一息ついた。
「気に入っていただけたようで何よりです。ですが一部屋で良かったのですか?」
サリエヌの疑問にピーシアが答える。
「構わないよ。どうせ僕は一晩限りだし思ったよりこの部屋大きいみたいだしね。あぁ、リルちゃんは警戒しないでいいよ。トレマ様にキノ君に手出ししたら潰すって脅されてるし、僕の好みはもっと筋肉のついた、ヴィクトール様みたいな人だからね」
さりげなくリルに自分が安全であることをアピールし、同室の許可をうやむやにする。
「そうですか。先ほどお話のあった通り、滞在費はピーシア様含め王家より出ますので、ごゆるりとおくつろぎください」
入り口脇に立っていたサリエヌは、慇懃にお辞儀すると「王城に戻らせていただきます」と言って部屋から出て行った。
彼女の足音が聞こえなくなり、ピーシアが耳をピクピク動かした上でため息を付く。
「ふぃ~、以前は立て込んでたからちょっとした話出来なかったけど、今度はゆっくり話出来るね♪」
リルは部屋に備え付けられて居るティーポットでお茶を入れ始める。
「あ、ありがと。僕は砂糖4つね♪」
遠慮なくお茶を要求するピーシアにリルは白い目で返す。
「何故ここにとどまって居るのですか?」
うやむやになったわけでは無かったようだ。
「やだなぁ。王様に明日まで待ってくれって頼まれたでしょ? それにさっきキノ君に渡した手紙、そこに詳しく書いてあるから読んでみて♪」
ピーシアは悪びれることなくリルに手を振る。
「あっ、そう言えば預かってた。じゃ、読んでみるね」
キノは手紙の事を思い出し、懐から取り出す。
「えっと……
『きのっち元気してる? こっちは元気でぷちぷち潰してるよ。
この手紙を読んでるってことは、ピーシアが忠実に言いつけを守ったわけだね。後で褒めてあげてね♪
ピーシアは魔族の中でも珍しく、姿を消す魔法が使えて隠密活動や情報収集に重宝する子なんだよ。実力もなかなか高くて便利だから、クダンの後釜も任せちゃった。
ちょうど支配領域ときのっちの活動範囲が一緒だし、面識もあったみたいだから私の代わりにサポートにつけることにしたよ、よろしくね。
で、本題なんだけど。
あのクサレ邪神、自分の信者を焚き付けて世界に混乱をもたらそうって腹づもりみたい。魔族の方でも怪しい動きが活発になって来たんだよね、めんどくさーい。
希様に教えて頂いた人身掌握術のおかげで、大多数の魔族は僕やエクスティア、ヴィクトールの狂信者として言うこと聞いてくれるんだけどね、1部の魔族は魔人側に付いてちょっかいかけてくるんだよね。
そいつ等が裏で色々と動いててね、すっごい邪魔だからぷちぷちぷちぷち潰してるんだけど、ゴキブリのような繁殖力で潰しても潰しても新しいのが湧いてくるんだよね。なかなか数が多いしだんだん狡猾なのが増えてきたからさ、そっちに手を取られていたちごっこ中。
もー、マジでウザくなって、いっそ無差別に潰してやろうかと思ったんだけどヴィクトールに止められちゃってね。仕方なしにぷちぷち潰してるの。
あ、時間はかかるけど危険は無いから心配しないでね。
で、多分なんだけど魔神の息がかかった者は他種族の中にもいると思うんだ。どこまで把握してるか分からないけど、きのっちは魔神の思惑をことごとく潰してるからね。多分狙われてるんじゃ無いかな? 魔神って案外執念深いから、気をつけといた方がいいよ?
その身体は僕の愛しい人のものでもあるんだから万が一にも傷つけたら許さないよっ♪ じゃ、お互いに協力して魔神をぶっ倒そうね。
あっ、そうそう。
もし希様の"ポケット"の中に、僕やエクスティアの服が入ってたら譲ってくれないかな? この間の戦闘でボロボロになっちゃったんだけど、希様が「絶対似合うからこれ着とけ」って投げ渡してくれたものだったからできる限り着ておきたいんだよねぇ。似たような服は作ったんだけど、やっぱり希様の用意してくれた服の方が愛がこもってるじゃない? 一杯用意してあるって言っていたから確保しておきたいんだ♪ お願いねっ♪』
ということらしいよ?」
キノが手紙を読み上げた後、リルは眉間に手を当てる。
「つまり何ですか? 今後、この娘がずっとついてくると言うことですか?」
気になった点は魔神や魔族の動向、身の回りの危険について。などと言うことよりキノの周りに女性が増える件にしか興味がなさそうだ。
「あ、僕のことは気にしないでくれてかまわないよ。気が向いた時だけキノ君のお手伝いすれば良いってトレマ様に言われてるから。それに僕は僕でやることも一杯あるから、四六時中一緒にいるわけじゃ無いしね♪」
いつの間に入れたのか、お茶を片手にピーシアはひらひらと手を振る。
「つまり私とキノ様の仲を邪魔するつもりは?」
「無い。と断言できるよ。
誘惑したらトレマ様が面倒そうでしょ? それに僕の好みはヴィクトール様のような人だもん。あ、もちろん成り行きとはいえヴィクトール様を助けてくれたキノ君には感謝してるよ。 まだ事情を知ってる人は少ないけど、すぐに魔族の大多数がキノ君に感謝するんじゃないかな? あのお三方の命を助けてたれたんだもん」
「そうなのですか?」
「うん、あのお三方の人気は凄いからね。ライブなんてした日には超満員が連日続くし、ファンクラブはほとんどの魔族が入ってるんじゃないかな?」
「ファンクラブ?」
「異界の言葉で狂信者の集い、って言えば良いかな? もちろん僕も入ってるよ。ほら」
ピーシアが懐からカードを取り出す。
そこには『ヴィクトール様親衛隊 NO.000006』と書かれていた。
「あれに……」
リルの脳裏にふんどしが浮かび、一瞬めまいを起こしてひたいを押さえた。
「素敵だよね、あの筋肉とか笑った時の白い歯とか、お尻に食い込む赤いふんどしとか」
熱に浮かされたように話すピーシアからリルは少し距離を取ると続きを話し始めた。
「じゃ、邪魔をするつもりがないのでしたら構いません」
「そう? ありがと。で、ヴィクトール様の素晴らしい所なんだけどーー」
リルは露骨に迷惑そうな顔をするが、ピーシアはまったく気づかず延々とヴィクトールの良さを語る。
「あっ、このお菓子美味しい。リルとピーシアさんも仲良く出来そうだし良かったみたいだね」
キノはキノで、マイペースにお菓子をつまんでにこにこと二人のやりとりを見ている。
《マスター、手紙の最後にあった服の依頼ですが、まだ在庫があったはずですから用意しておきましょう。
ソルトの街で砦への物資輸送の際、置いて来たのはリルが一目で不快だったもののみです。魔王が先日着用していたタイプの服は残っているはずです》
《あっ、そう言えばそうだった。残ってたかなぁ》
キノは"ポケット"へ手を突っ込むと服~、服~と念じながら中身を取り出して行く。
男物の下着や冒険者服に混じって可愛い感じの下着やチャイナ服、ミニスカナースや日本で可愛いと評判の高校の制服が何点か出てきた。
《良かった。少しだけど残っていたみたいだね》
《ええ、後は2人の会話が終わるのを待ちましょう》
--30分後
「いやー、リルもヴィクトール様の良さをわかってくれて嬉しいよ。これからもよろしくね」
「……そうですね。なるべく触れないようにします」
ツヤツヤで喜色満面のピーシアが、疲れ切った顔でぐったりしたリルの手をぶんぶんと振っていた。
「キノ君お待たせ。ついリルと話がはずんじゃったよ。おかげで熱くヴィクトール様の良さを語り合うことができたけどね。それじゃ街に行こう……か?」
いつの間にかリルを呼び捨てにするほどの仲になったらしい。ピーシアはキノへ振り向くと笑顔が凍りついた。
「キノ君……、ちょっと伺いたいんだけどそれは何だい?」
時間を持て余したキノは、日課となったティーカップを使っての【空間操作】の訓練を繰り返していた。
「何ってスキルの練習中」
「ふぅん。転移の魔法を使えるって情報は知っていたけど、そわな気軽に使えるとは思ってもなかったよ。それにしても凄いね、魔法陣や触媒もなしにスムーズに転移を繰り返している。
どうやって習得したか聞いても良いかな?」
ピーシアの目が剣呑な光を放つ。
「ん~、気がついたら習得してたからよくわかんないかな」
キノは少し首を傾げながら答える。
「そっか、キノ君は混じり物だったよね。元の体に関してはトレマ様からも詮索禁止と言われてるし、深入りはしないことにするよ」
ピーシアは元の飄々とした表情に戻ると床に散らばった服に視線を移した。
「おっと、そこに散らばっているのはもらってもいい服かな?」
「うん、"ポケット"に残っていたのはこれで全部。リルが欲しいのはとったあとだし、全部あげちゃって良いよね?」
後半をリルに問いかけるように言うとリルは頷く。
「ええ、いいと思いますよ」
「ありがと♪ それじゃ遠慮なく貰ってくね」
ピーシアは服を持ち上げると「あー」とか「良いなぁ」と呟きながら懐へ入れてゆく。
全ての服を入れ終わるとピーシアは2人に向けて言った。
「あ、それとピーシアの名はそれなりに有名だから、街中ではニースって呼んでね。特にキノ君は間違えないように。
それじゃ、この国の王都を観光しようか♪」
ここしばらくスランプ続いています。
あまり間隔をあけすぎると死んだと思われるので今回は一話のみの更新となりますがご容赦ください。




