33.免許を取ろう
1月某日。
梓たちは冒険者免許試験会場に来ていた。
現在所持している仮免許の有効期限は3月末までで、
それを過ぎれば冒険活動ができなくなってしまう。
だが、正式な冒険者免許さえ取得してしまえば
中央魔法学園ダンジョンだけでなく、学園の外でも
概ね自由に冒険活動を行うことが可能になるのだ。
まあ実のところ、無免許で活動している者は多い。
特にこの名古屋エリアは違反する者だらけであり、
ルール無用こそ名古屋ルールだと謳う者までいる。
10年ほど前には冒険者志望者など少数だったのが、
この数年で随分と情勢が変わったものだ。
その変化に合わせて試験内容が見直された。
以前は形式だけの試験が実施されていたのだが、
質の低い冒険者ばかり増えてもしょうがないので、
一定以上の実力が無いと突破できない内容の試験へと
生まれ変わったのである。
……まあ、それでも梓たちの感覚からすれば
舐めているとしか思えない試験内容だったのだが。
問1。
日本の冒険者たちを陰から支え続けることにより、
国民の安全を守っている善良な組織の名称を答えよ。
……この筆記問題は、ほぼ全ての受験者が間違えた。
梓たちは当然『ギルド』と記入したのだが、
なんと答えは『日本冒険者協会』だったのだ。
誰が作成したのか一発でわかるクイズであった。
それ以外にも3つの絵の中からスライムを選んだり、
小学生レベルの漢字の書き取り問題があったりと、
こんな試験に落ちる奴は絶対にいないだろうという
お粗末な内容なのであった。
まあ、1割ほどの受験者は筆記で落ちたのだが。
実戦試験は1時間以内に100匹の魔物を倒せという
それなりに手応えのありそうな内容だったのだが、
上限10名のチームで挑戦してもよいとのことで、
しかも討伐した魔物の数だけで合否判定が決まるので
攻撃力のみを必要とする試験であった。
そのためアタッカーにとっては有利なのだが、
タンクやヒーラーなどのパーティープレイにおいて
重要なポジションの人材が受かりにくくなるという、
一体何を考えてこんな基準を設けたのかわからない
試験内容となっていた。
ちなみに梓たちは3方向にばらけようとしたのだが、
試験官が討伐数を把握できなくなる事態を防ぐために
全員固まって動くことを強要されてしまった。
10人もの試験官が同行していたというのに謎である。
そして最後に軽く面接を行い、
冒険者になる意志があるかどうかを確認して終了。
受験者が少なかった頃はその日のうちに結果が出て
合格者は冒険者免許を受け取って帰れたそうだが、
ここ数年は何日か待つのが当たり前になったらしい。
1ヶ月後、合格者たちは再び試験会場に足を運んだ。
免許を郵送してもらう方法もあるにはあるのだが、
日本冒険者協会の杜撰な仕事ぶりを考えると
誤配の恐れがあるので、やはり直接受け取るのが
安心できると言えるだろう。
ちなみに去年は全国で20000件以上の誤配が発生し、
推定3000名以上の免許が紛失してしまったそうだ。
その前年まで誤配など滅多に起こらなかったのだが、
日本冒険者協会が試験に関わった途端これである。
何はともあれ、合格発表だ。
発表は体育館のような無駄に広い建物で行われ、
壇上には日本冒険者協会の人間が立っている。
そして、どうやら受験番号順ではなく
五十音順で発表が行われるらしい。
梓パーティーで最初に呼ばれたのは──
「天川織姫!」
「はい」
織姫は席を立ち、壇上まで歩き、発表者に頭を下げ、
冒険者免許を受け取り、再び発表者に頭を下げ、
他の合格者たちに頭を下げ、元の席に戻るのだった。
なんと無駄な工程だろうか。
卒業式ではないのだ。1人ずつ呼び出す必要は無い。
免許を渡す順番ははっきりしているのだから、
配るか並ばせるかすればよい。
こんな無駄な作業をしているから時間を食うのだ。
しばらくして、あいうえおが終わる。
か行の仲間といえば──
「風間雛菊!」
「はい」
ヒナは席を立ち、壇上まで歩き……以下略。
「佐原太陽!」
「はい」
「中村誠!」
「はい!」
なにぬねのが終わり、昼休憩を挟む。
「不動茜!」
「はい!!」
そんな調子で段取りの悪い発表が続けられ、
日が沈みかかる頃にようやく終わりが見えてきた。
「鷲尾梓!」
「はい」
こうして梓パーティーの面々は、葉加瀬以外の
全員が正式な冒険者免許を受け取れたのである。
「渡辺愛!」
「Zzz……」
だが、まだ発表は終わらない。
ざっと見て、100人以上の渡辺が控えているのだ。
渡部や渡もいるのだろう。地獄のラストスパートだ。
(免許受け取った人は帰ってもいいだろ……)
(協会の連中は疲れたら交代してる癖に……)
(なんで俺たちは拘束されてんだよ……)
(とにかく無駄が多すぎなんだよ……)
日本冒険者協会の評判は下がる一方だ。
免許の交付が終わり、合格者たちはゲッソリしながら
建物の外へと散らばっていった。
景色は完全に夜であり、季節は冬であるというのに、
キンキンに冷えた空気がなんとも涼しく心地良い。
暖房ガンガンの室内に半日閉じ込められていたのだ。
その解放感たるや、サウナ後の冷や水が如し。
とりあえず、もうこんな所に用は無い。
梓パーティーも引き上げようとしたのだが、
肝心のリーダーが事務所の方角へと歩いてゆく。
「あれ、わっしー?
出口こっちだよ」
「私は遠隔武器の所持及び使用に関する免許の
更新手続きを済ませてから帰ります
皆さんは私に構わず、先に帰ってもいいですよ」
「あ〜、銃の免許かぁ
でも今からやって間に合う?
あと1時間くらいで閉店だったような……」
「むしろ、今がベストです
本日来訪した合格者たちの中に
私以外の銃免許取得者を17名見かけましたが、
全員が出口に向かっていきました
私は更新に必要な書類を全て用意してあるので、
せいぜい10分もあれば終わるはずです」
「それなら間に合うね
自分たちは外で待ってるよ
って、他の銃使いの顔を全部覚えてんのね……」
「私の記憶力は高いのです」
そして担当窓口にやってきた梓だが……
「えっ、免許の更新?
いやあ、いきなりそんなこと言われてもなあ
今日はもう遅いんだしさ、帰りなよ
そんなのいつでもできるんだしさ、
君も疲れてるでしょ?」
「いいえ、私は疲れていません
ここは免許更新の窓口ですよね?
なぜ私を追い返そうとするのですか?
時間ならあります 必要な書類も用意してあります
いつでもできると言うのならば、今やってください
この対応には納得がいきません」
「いや、そうじゃなくてね?
担当者がもう帰っちゃったから対応できないの
ほら、合格発表が長引いたでしょ?
今日は免許更新の希望者なんて現れないと思って、
早々に引き上げちゃったんだよ」
「意味がわかりません
私は事前に電話で確認を取りました
あなた方は、冒険者免許の交付が終わった後に
銃のライセンスを更新してくれると約束したのです
反故にされては困ります」
「いや、べつに約束を反故にするとかじゃなくてね?
担当者がもう帰っちゃったんだってば
俺に言われても対応できないの、わかんない?」
「担当者に連絡すればいいだけの話です
まだ勤務時間は終わっていません
仕事をしてもらわねば困ります」
「いや、もう帰っちゃったんだってば!!
担当者の仕事は終わったの!!
そう言われたら普通、諦めるでしょ!!
なんで普通にできないかなあ!!
困ってるのは俺の方だよ!!
俺は臨時で雇われたバイトだし、
変な書類持ってこられても迷惑なんだよ!!」
「意味がわかりません
勤務時間を全うする前に帰宅するなど、
そんなことが許されていいのでしょうか?
これで3度目です
約束を反故にされるのはこれで3度目なのです
毎回確認を取っていたのに、なぜですか?
なぜ担当者はいつも不在なのですか?」
「知らねえよ、帰れ!!」
梓は追い出されてしまった。
後日、梓は再び免許更新窓口へとやってきた。
今回は他の更新希望者も数十名が来訪しており、
そこかしこで職員と揉める姿が散見される。
彼らも梓と同じく、理不尽にあしらわれたのだろう。
「免許の更新をしたいのですが」
「また君か……
いや、悪いんだけど担当者は休みだから、
今日のところは諦めて帰ってくれる?」
「では、担当者を呼び出してください
日本冒険者協会の福原という方です」
「いやいや、休みだって言ったのわかんない?
休日に呼び出すとか、そんなのあり得ないから
君はもうちょっと常識を学んだ方がいいよ?」
と、またもや追い返されそうな空気が漂う。
だが、今回は梓1人で来たわけではない。
強力な助っ人を連れてきているのだ。
梓の背後にいた男たちが一斉に外套を脱ぎ捨てると、
その場に居合わせた者は皆、動きを止めて注目した。
まずは安土桃太郎。
日本一有名なイケメン冒険者である彼は、
この『注目を集める』ためだけに連れてこられた。
どうやらその効果は覿面だったようで、
清掃員のおばちゃんを始めとした女性たちは皆、
恍惚の表情をしながら胸を高鳴らせた。
「まったく、ふざけるなよ……
俺をなんだと思ってるんだ……」
「まあ、そう言うなって
可愛い後輩の将来が懸かってるんだ
もしこの子が音波銃を使えなくなったら、
それは冒険者業界全体にとって大きな損失になる
おとなしく誘蛾灯の役目を果たしてくれよ、安土」
と、どこか楽しげな大上隼斗。
彼も男前であり、確かな実績のある冒険者なのだが、
メディアへの露出を徹底的に避けているので
有名だが顔は知られていない状態にある。
今回、梓がヘルプを求めた相手が彼であった。
「しかしまあ、想像以上に酷いな
つい1時間前に『担当者はいます』と、
電話で確認してから来たのにこれだぜ?
誰だよホラ吹いた奴、名乗り出ろよ
今ここに座ってる連中はなんの仕事をしてんだよ」
ギルドマスター、栗林努。
関東魔法学園の卒業生である彼は隼斗と面識があり、
梓が免許更新でつまづいている件を相談されたので
大先輩として一肌脱ぐことにしたのである。
ちなみにイケメン安土は彼が強制連行してきた。
そして、その3名よりも強烈な存在感を放つ男が
この場に降臨していたのである。
彼はライオンの鬣のような銀髪を靡かせ、
鋭い眼光をアルバイト職員に向けながら発言した。
「とりあえず、話の通じる人間を呼んでください
日本冒険者協会の者なら誰でも構いません
この建物内に誰かしらいるはずです」
ワイルドな外見からは想像もつかない丁寧な口調。
決してギャップを狙っているのではない。
それが彼本来の性格を表す喋り方なのだ。
「おい、まさか……」「嘘だろ……」
「本物か?」「なんでこんな所に……?」
「あとでサイン貰えるかな……」
来訪者、職員、清掃員……全ての観衆が息を呑み、
その身長2mの戦士に目が釘付けとなるのだった。
甲斐晃。
南極のテラノヴァダンジョンを制覇した英雄が、
免許センターに姿を現したのである。
現在、彼はフィンランドで暮らしているのだが
栗林氏経由で梓の事情を知り、緊急来日したのだ。
この世界的大物の登場により現場は騒然とし、
窓口のアルバイト職員は大慌てで席から立ち上がり、
奥の方でスマホをいじっていた高齢男性に報告する。
するとその日本冒険者協会の福原は事態を把握し、
速やかに梓が持ち込んだ書類を受理して
免許の更新作業に取り掛かるのであった。
1時間後、梓は無事に免許を更新することができた。
「目的を達成したので帰還します」
賛成だ。もうこんな所に用は無い。
BIG4は梓と共に引き上げようとしたのだが……
「アキラさん、サインください!!」
「モモ君こっち向いて〜!!」
「例のポーズお願いします、グリムさん!!」
まあ有名な冒険者が3人もその場に現れたのだから、
観衆からもみくちゃにされるのは必然であった。
生徒情報
氏名:鷲尾梓 <ワシオアズサ>
所属:中央魔法学園技術者クラス1-A
役割:遠隔物理アタッカー
武装①:音波銃
武装②:中央魔法学園女子制服
魔法:未登録
宿星:ポラリス




