天使の少女 オーズ視点
正直読んでる人はほぼいない一人で書いてる小説ですが、ゆっくりと続けていけたら良いなぁ。
激しい砲撃が防壁を少しずつ削っていく。
何度も戦闘を繰り返し、そのたびに補修と補強を重ねてきた防壁は、シールドが消失した今もオートマタの砲撃に耐えていた。
だが、それも永遠に続くわけではない。
砲撃を受けるたびに防壁は少しずつ崩れ、ところどころには大きな亀裂が走っている。
そんな状況の中でも、オートマタの進軍は止まらない。
そのとき、防壁に設置された有線通信機から声が響いた。
「オーズ中佐! グランドルのバリル少佐から通信です!」
「繋げ!」
オーズがすぐに通信機を手に取る。
『こちらバリルです。オーズ中佐、聞こえますか?』
「ああ、こちらバリルだ。ようやく通信が繋がったか」
『はい。こちらも先ほどまで通信が繋がりませんでした。そちらに向かっていたギルド員から、サラティーにオートマタによる襲撃の可能性があると連絡を受けまして、すぐにそちらへ通信を試みたのですが……』
「ジャミングだ」
『やはり……そちらの状況はどうなっていますか?』
「現在、サラティーはオートマタの大群による襲撃を受けている」
その言葉に、通信の向こう側が一瞬静かになる。
「防壁は半壊。すでに街への侵入も許しているが寸前の所でなんとか食い止めている状況だ」
『……そうですか』
バリルの声が少し低くなる。
『救援部隊はすでに編成しています。軍からも部隊を出し、現在サラティーへ向かっています』
「どれくらいかかる?」
『およそ三時間です』
その言葉に、オーズは一瞬だけ目を閉じた。
三時間。
今のサラティーにとって、それは決して短い時間ではない。
防壁はすでに半壊し、負傷者も多数。
敵はなおも増え続け、街の中にも侵入を始めている。
それでも――
「……そうか」
オーズはゆっくりと目を開く。
その表情には、ほんの少しだけ安堵が浮かんでいた。
「なら三時間、持たせればいいんだな」
『はい。必ず救援に向かいます』
オーズは砲撃の続く戦場を見つめる。
「あまり遅いとこっちだけで終わらせてしまうぞ」
冗談めかしてそう言うと、通信の向こうから少しだけ笑い声が聞こえた。
『それは困りますね。では、こちらも急がないといけません』
「ああ。待ってるぞ、バリル少佐」
『了解しました。必ず間に合わせます』
通信が切れる。
オーズはゆっくりと通信機を置いた。
「……三時間か」
その言葉を聞いていた周囲の軍人やギルドの人間にも、わずかな安堵が広がる。
援軍が来る。
それが分かっただけでも、張り詰めていた空気がほんの少しだけ和らいだ。
だが――
オーズはすぐに戦場へと視線を戻した。
目の前では、無数のオートマタがこちらへ向かっている。
三時間。
ただ待てばいいわけではない。
この三時間を、生き残らなければならない。
「……さて」
オーズはすぐに双眼鏡を覗き込む。
サソリ型。
その後方には大型の砲撃型。
さらにその周囲には、こちらへ向かってくる無数のオートマタ。
オーズはしばらくその距離を見つめていた。
そして――
「距離は!?」
「十分行けます!」
その返答を聞いた瞬間、オーズの目つきが変わる。
「龍槍弾装填! 用意!」
「了解!」
その通信を聞いた防壁の砲台に待機していた軍人たちが、一斉に動き始める。
龍槍弾。
それは、オートマタとの戦争の中で生み出された対装甲用の特殊弾だった。
この世界のシールドは、基本的にエーテルやエネルギーによる攻撃を防ぐためのものだ。
逆に言えば、物理的な攻撃までは完全に防ぐことができない。
だからこそ、シールドの内側へ入り込む近接戦闘が有効だった。
しかし――
これほどの大群の中へ突撃することなど、自殺行為に等しい。
そこで人間側は、防衛型オートマタの強固な装甲を正面から撃ち抜くための物理弾頭を開発した。
徹底的に破壊力と貫通力を追求した結果生まれたのが、龍槍弾だった。
ただし、その代償も大きい。
弾体が重く、通常の砲弾よりも射程距離が極端に短い。
十分な破壊力を発揮させるためには、敵がある程度まで接近する必要がある。
つまり――
敵が近づくまで待つしかない。
そして今。
その条件が整った。
オーズは双眼鏡から目を離す。
「狙いは防衛型!」
さらに敵の後方へと視線を向ける。
「砲撃型もだ!」
砲台の周囲で装填作業が進む。
巨大な弾体が砲身へと押し込まれていく。
オーズは右手を上げる。
「龍槍弾――」
周囲の兵士たちが息を止める。
「撃ち方、始めぇぇぇ!!」
次の瞬間。
防壁に設置された砲台から、激しい轟音と爆炎が一斉に吹き上がった。
放たれた龍槍弾は高速回転しながら、一直線に敵陣へと突き進んでいく。
先頭を進んでいたサソリ型オートマタが反応する。
両方の爪と尻尾を前方へ向け、三つのシールド発生装置を同時に起動。
巨大なシールドが展開される。
だが――
龍槍弾は止まらなかった。
「――ッ!?」
次の瞬間。
凄まじい衝撃音とともに、龍槍弾がシールドをすり抜ける。
そして、そのままサソリ型の装甲を貫いた。
強固な爪ごと。
胴体を。
まるで紙を突き抜けるかのように。
一体。
二体。
三体。
次々とサソリ型オートマタが撃ち抜かれ、その巨体が地面へと崩れ落ちていく。
さらにその後方。
砲撃型オートマタへと龍槍弾が突き刺さる。
大きな砲台ごと装甲を貫き、内部で爆発が起こった。
「効いてるぞ!」
「防衛型を撃ち続けろ!」
「砲撃型も狙え!」
防壁の上から歓声が上がる。
これまで一方的に砲撃を受け続けていた人間側が、初めて明確な反撃を見せた。
オーズはその光景を見つめながら叫ぶ。
「手を休めるな!」
砲撃部隊が次の弾を装填していく。
「奴らが後退する前に、できるだけ数を減らすんだ!」
「了解!」
兵士たちは必死に動く。
こういうときのために、彼らは日頃から訓練を重ねてきた。
戦争が終わり、平和な日々が続いていたとしても。
いつ何が起きるか分からない。
そのために磨いてきた技術が、今まさにサラティーを守る力となっていた。
砲撃音が再び響く。
一発。
また一発。
龍槍弾が次々と敵陣へ撃ち込まれていく。
オーズは拳を握りしめる。
援軍が来るまで、あと三時間。
その三時間を耐え抜くために。
サラティーの人々は、再び戦い続ける。




