防衛戦の少女 後編
オートマタの砲撃が続く中、オーズはすぐに指示を飛ばした。
「シールドを予備エネルギーへ接続しろ!」
その声にマービンは端末を確認しながら答える。
「予備エネルギーも、もうほとんど残っていません!」
「分かっている」
オーズは頷いた。
「生き残っている砲台だけを守るようにシールドを再配分しろ。それなら多少は時間を稼げる」
端末へ視線を向けながら続ける。
「もう少し奴らが前進すれば、龍槍弾の射程圏内に入る。それまでは何としても持ちこたえるしかない」
すぐに別の報告を求める。
「崩壊した防壁は何か所だ?」
「商業地区、正門、南地区の三か所です」
通信が復旧したことで、各地への連絡はすぐに取れるようになっていた。
「各防衛部隊は?」
「すでに向かわせています」
「住民の避難は?」
「ほとんど完了しています」
その報告に、オーズは小さく安堵の息をついた。
しかし、マービンは言いにくそうな表情を浮かべる。
「……ただ、一つ問題があります」
「何だ?」
「南地区は避難していません」
その言葉に、オーズは目を見開いた。
「どういうことだ?」
マービンは少し視線を落とす。
「南地区は帝国から逃れてきた難民や孤児たちのために整備された地区です」
一度言葉を切り、静かに続けた。
「我々の任務は、サラティー市民を優先して避難させることです」
その言葉に、オーズの表情が険しくなる。
「同じ市民だぞ!」
怒声が響いた。
だがマービンも引かなかった。
「我々は五十年間、帝国に苦しめられてきたんです!」
握り締めた拳が震える。
「私の父も母も……帝国に殺されました」
その言葉を聞き、周囲にいた兵士たちも複雑な表情を浮かべる。
怒り。
憎しみ。
悲しみ。
五十年戦争で故郷を焼かれ、家族を失い、仲間を失った者たちにとって、その傷は今なお癒えていなかった。
理屈では割り切れない。
そんな空気が、この場を支配していた。
マービンは静かに言う。
「理屈じゃないんですよ」
オーズはゆっくりとマービンを見つめ返した。
「……それでもだ」
その一言に、周囲が静まる。
「彼らもまた、大切な人を失い、故郷を失い……やっとの思いでこの街へ辿り着いた人たちだ」
「この街に住んでいる以上、守るべき民に違いはない」
オーズは力強く言い切る。
「我々が守らなくて、誰が守るんだ」
その言葉に、その場は静寂に包まれた。
そんなやり取りを聞いていたセレナは、静かに歩き出す。
向かう先は――南地区。
助けを待つ人たちの元だった。
足に力を込めようとした、その時だった。
「待て、セレナ」
ウェルトの声が背中から飛ぶ。
いつものように止められる。
そう思い、セレナは振り返った。
ウェルトは真っすぐ彼女を見つめていた。
「南地区へ行くんだろ?」
セレナは小さく頷く。
「……うん」
「だったら、その靴のアーティファクトは防壁の上では使うな」
ウェルトは崩れた城壁を指差した。
「ここで加速したら、防壁がさらに崩れる」
「外へ降りてから使え」
その言葉に、セレナは少し驚いた表情を見せる。
止められると思っていた。
けれど、ウェルトは違った。
自分を信じて送り出そうとしている。
その想いが、痛いほど伝わってきた。
「……うん」
小さく、しかし力強く頷く。
ウェルトは少しだけ笑った。
「この状況だ。無茶はするな……とは言わない」
そして、優しく言葉を続ける。
「ちゃんと帰ってこいよ」
その一言に、セレナの瞳がわずかに揺れる。
信じてもらえている。
その嬉しさを胸に、彼女は真っすぐウェルトを見つめ返した。
「……わかった」
力強い返事とともに、セレナは防壁の外へ向けて走り出した。
飛び降りるセレナの姿を見たオーズは、思わず防壁の縁まで駆け寄った。
「おい! 嬢ちゃんが!」
慌てて下を覗き込む。
だが――。
そこには、何事もなかったかのように着地し、静かに立ち上がるセレナの姿があった。
そして彼女は南地区の方角へ視線を向ける。
次の瞬間。
ドンッ――!
地面を蹴る轟音とともに、その姿が一瞬で視界から消えた。
否。
あまりにも速すぎて見えなかっただけだ。
「な、なんと……!」
オーズは目を見開く。
その様子を見たウェルトは、防壁の下を気にすることなくオーズへ視線を向けた。
「軍なら知らないか?」
「クイーン討伐に大きく貢献した少女の話を。」
その言葉に、オーズの脳裏へ一枚の報告書がよみがえる。
少し前、グランドルから送られてきた戦闘報告。
クイーン二体討伐。
そのうち一体を、一人の少女が討伐したという、にわかには信じ難い内容だった。
「まさか……あの嬢ちゃんが!?」
オーズが驚きの声を漏らす。
ウェルトは小さく笑うと、防壁の外へ視線を向けた。
「あっちはセレナに任せる。」
「俺も下へ降りる。街へ侵入してくるオートマタを迎え撃つ。」
そして振り返り、大声を張り上げた。
「ゾイ!」
少し離れた場所で負傷者の治療に当たっていたゾイが顔を上げる。
「お前はそのまま治療に専念しろ!」
「俺は人暴れしてくる!」
ゾイは力強く頷いた。
「分かった!」
「気を付けて!」




