07-66.残された時間
「あんな調子じゃ、いつまで掛かるかわかったもんじゃないわよ」
「まあよい。気長に待とう」
「あまり時間は残ってないわよ」
そうだな。もう一年と少しで十年のタイムリミットだ。そうしたら我々は一度この箱庭世界を出る必要がある。こんなバラバラの状態で終わることになれば禍根を残すことになるのは間違いない。
「しかしまあ、ディアナもおるからな」
なんとかするだろ。たぶん。
「どうなってもいいと思ってるの?」
「くどいぞ。気になるなら戻ればよかろう」
「……ごめんなさい」
「戻る気が無いなら何か気分転換でも考えておくれ」
「気分転換……」
どうせ待つだけなのだ。この際くだらん余興であろうと付き合おうではないか。
「エリクとユーシャの回想なんてどうかしら。フィリアスって記憶を映像として出力出来るのでしょう?」
「却下だ」
そんな気分ではない。
「なら向こうの世界は? エリクとユウコの昔の話」
「ダメだ。二人に関するものは無しだ」
「そうよね……ごめんなさい……」
敢えて提案したのだな。まったく。気遣いの方向性が間違っとるぞ。
「なら私とディアナの」
「バカを言うな」
パティも随分と余裕が無いのだな。
「なら……どうしましょう」
「別に無理して考えなくともよい。おいで。パティ」
パティは素直に近づいてきた。
隣に座ったパティを抱き寄せた。
「……エリク」
「そう不安がるな」
「うん……」
まあそう言われて簡単には切り替えられんか。
「パティは外に出たら何をしたい?」
「……家族に会いたいわ」
「真っ先に誰に抱きつく?」
「……レティかしら」
「楽しみだな」
「エリクは?」
「やはりシュテルだろうか」
「ユーシャに取られちゃうんじゃない?」
「それもそうだな。ならばネル姉さんだ」
「真似? セリナは?」
「何故セリナなのだ」
「他の家族の中で特に好きそうだから」
なんだそれは。確かに好きなタイプではあるけども。
「それを言い出すなら私の理想はパティだ」
「私は成長してしまったもの」
「後悔するようなことではあるまい」
なんならここに入る前の姿にだってなれるだろうさ。姿形だけならそう難しくはあるまい。
『とくい~♪』
パティの姿が変化した。懐かしの少女の姿だ。アウルムが術をかけてくれたようだ。
「……どう?」
「うむ。やはりパティは私の理想の美少女だな」
「ならずっとこっちの姿でいようかしら」
「全部無かったことにでもするつもりか?」
「それもいいかもしれないわね」
「どこがだ」
「エリクが言ったんじゃない」
「このまま外に出れば皆も思い直すやもしれんな。私たち程の仲であっても、十年も引き籠もっていれば拗れもする」
「……そうね」
「しかしな。人とは……家族とは、本来喧嘩をするものなのだ」
「わかってる。もう何度も喧嘩してきたじゃない」
「何度でも繰り返そう。私たちなら大丈夫だ。そう信じて」
「嫌よ。もうこんな気持を味わいたくなんてないわ」
「パティは仲直りできたじゃないか」
「クルスとコルピスが傷ついているところだって見たくないの」
「ならもう二度とバカな事は言わんでおけ。次はアウルムの悲しみを見ることになるのだからな」
「言わないわよ。意地悪ね」
「反省したのなら何よりだ」
「エリクだって……」
「わかっている。私に咎める権利は無いのだろう」
「……そこまでは言わないわ。エリクは泣いている子たちに手を差し伸べてくれただけだもの」
「泣く必要なんぞなかったのかもしれん。私が短気を起こして連れ出さなければ、今頃クルスもコルピスも笑えておったのかもしれん」
『ちがう』
『ちがうよ~』
「そうか」
強いな。この子たちは。
『エリク』
『おかげ』
『おかげ~♪』
「うむ。私がいつまででも二人の宿主を務めよう」
『ずっと』
『いい』
『エリク』
『コルピスも~♪』
「……本当にもうよいのか?」
『うん』
『いい~♪』
そうか。
「オトヒメ」
『構いませんよぉ~♪』
すまんな。
「ならば二人も私のフィリアスだ。やつらが取り返しに来ても決して奪わせはせん。そのつもりでいておくれ」
『『がってん!!』』
「……」
そうだ。何も言わんでおくれ、パティ。今だけは。




