03-58.赤ちゃんとお姉ちゃん
「今更だがソラは何という種なのだ?」
「実はまだギルドでも特定されていないのよ」
どうりで聞いていないわけだ。そもそもパティすら知らなかったのか。
「純粋なスカイドラゴンの系統だとは思うけど、サイズや力の総量的にはきっと上位種よね? ソラはどう? そういうのってわかる?」
『知らないよ。そんなの人間が勝手に決めた枠組みでしょ』
そりゃそうだ。そもそもソラはネル殿から力を貰ってるから普通のスカイドラゴンとも違うのだろう。またアウルムと同じように特殊個体として扱われることになりそうだ。
『御名答♪ 大体そんな感じです♪』
あ、どうも。ネルさん。もしかしてまたユーシャに?
『はい♪ ですがお気になさらず♪』
あれかな? 実は私と話すのが目的なだけで?
『余計な事は考えない事をお勧めします♪』
あ、はい。失礼しました。
『ふふ♪ 素直な子は好きですよ♪』
取り敢えず友好的なのは間違いなさそうだ。私も秘密を守るとしよう。
『話の分かる人も大好きです♪』
それは何より。
「明日にでもファムに聞いてみよう。ファムならきっと知っているだろうさ」
「ええ。そうね。ギルドにもついて来てもらいましょう」
大丈夫かなぁ。いや何がって事は無いんだけども。
「何か心配ごと?」
「……何も。ただいよいよ始めるのだなと」
「そうね。結局今回も何の役にも立てなかったけど、次こそは頑張るわ!」
「まあ程々にな。パティのお陰で何時も助かってるさ。ギルドが私に強引に絡んで来ないのも、きっとパティと共に在るからだ。パティはパティの思っている以上に私達の事を守ってくれているよ」
「ふふ♪ もう♪」
良かった。すっかりご機嫌だ。
『なんで主様達は同性なのに発情してるの?』
「はつっ!?」
『人間ってそれが普通なの?』
「いや、あの……別にそういうわけじゃ……」
今のは発情はしていないと否定したのだろう。タイミングがズレて別の質問への答えになってるけど。
「落ち着けパティ。ソラもあまり妙な事を聞いてくれるな。ドラゴンにだって気まずい感情はあるのではないか?」
『さあね。我はずっと一人だったし』
それは……。
「なら私が教えてやる。これからは私達が家族だからな」
『好きにすれば』
「うむ。それでだな。発じょ、げふん、悪かったパティ。そう睨むな。えっとだな。あれだ。なんだか甘酸っぱい空気を感じたら生暖かく見守っておくれ。特別に仲良くしているのを茶化されるのは殊更に恥ずかしいものなのだ。そういうものだと覚えておいておくれ。それと私達は同性同士で愛し合い、伴侶として契を交わしている。これもそういうものだと流しておくれ。細かくは気にするな。いずれ慣れるさ」
『ふ~ん。よくわかんないなぁ』
「半端な答えですまんな。私達もこのような関係になってから日が浅いのだ。いずれ私なりの答えを聞かせてやるさ。その時までどうか見守っていておくれ」
『なんかそれは嫌だなぁ』
「ふっ。わかってきたじゃないか」
『なにさそれ』
「なんだか無性にムズムズしてこないか?」
『鱗が逆立つ感じかな』
なんだろう? 鳥肌? 取り敢えず居心地の悪さを感じているのは間違いなさそうだ。
「他者が特別に仲良くしている姿を見ると自然とその場を離れたくなるのさ。ソラの感じているそれは間違いでは無いのだよ」
『なのに黙って側で見てろって? 主様は酷いやつだね』
「私達も極力ソラにそう感じさせぬよう遠慮するとも。そうやって人間は互いに気遣い合うのだ」
『なにそれ。めんどくさぁい』
「ふふ。図体の割に中身は随分と幼いのだな」
『我子供だし』
「え? そうなのか?」
『まだ二百年も生きてないもん』
それは……どうなのだ? いや、なんとなくドラゴンとしては短いのではと思うけど。
「それじゃあ本当に赤ん坊みたいなものじゃない。ごめんなさいソラ。悪いことしちゃったよね。無理やり捕まえてこんな所に連れてきて……」
『うっ……また泣くの? 我あれ嫌なんだけど……』
「あ、ううん。泣かないわ。ごめんなさい。二度とあんな姿は見せないから」
『そっか。良かった』
ソラは心底安心したようだ。なんだかんだと感情豊かなドラゴンだ。
「ところでソラって男の子?」
『違うよ? 雌だよ?』
そうなの? 全然その辺考えて無かった。ソラ君じゃなくてソラちゃんだった。ファムはどの道ソラ君って呼びそうだけど。
「いずれソラの番も探してやらねばな」
『余計なお世話だよ。心配するくらいなら程々のところで解放してよ』
「それは……まあ、いずれ話し合おう」
私の独断で解放出来るとも限らないし。実はもう何時でも出来るのかな? 例の辻褄合わせは済んだと考えても?
『ダメです♪ 私のプレゼントを手放すなんて何様のおつもりですか♪』
あ、はい。生涯大切にさせて頂きます。
『よろしい♪』
すまんな。ソラ。ネル殿の決定は絶対だ。なんだか私、ネル殿にだけは逆らえない気分なんだよね。
『それは私がエリクさんのお姉ちゃんだからでは?』
あ~。そういう事になるんだぁ。あれ? じゃあユーシャも私の妹だったの? それはなんだかなぁ。別に悪くは無いんだけどなぁ。
『ダ・メ・だ・ぞ♪ 余計な事考えちゃ♪』
えぇ……今のネル姉さんが……。
『ネル・姉・さん!!! 何と素晴らしい響きでしょう! 良いでしょう! 勿論許可します! 今からエリクさんではなくエリクちゃんです! エリクちゃんは最高の妹です!』
ランクアップした。ただその呼び方だとレティと被るな。
『むむ! それは由々しき問題です! なら私はギンカちゃんと……いえ、これでは主様が知ったら拗ねるかもしれません。とすると……まあ、ギンカで良いでしょう。他に呼んでいる人もいないようですし』
普通に私の前世も知ってたぁ。しかも女神も私の事……。
『ギンカ』
はい。もう考えません。
『よろしい♪』
なんだか不思議なお姉さんが出来てしまった。今後は増々賑やかになりそうだ。