03-57.青の龍の背に乗って
「バカ!!! バカバカバカ! バカぁ!!!」
あかん。パティがガチ泣きしてる。どうやら一部始終を見ていたらしい。具体的には私達がソラに食われて空に攫われるところを。そりゃ泣くわ。
「すまん。パティ。だがこうして目的は果たした。どうか許しておくれ」
「許すわけ無いでしょぉ!!」
ですよね~。
「私言ったわよね!? 竜を舐めるなって! 魔物を舐めるなって! どうしてあんなことしたのよ!! 私が信用出来なかったの!? モタモタ居座ってるとでも思ったの!? だから一人で立ち向かったりしたの!? バッッッッカじゃないの!!? エリクに何かあったらどうするのよ!! ユーシャ達まで巻き込んで!! 本当に何考えてるのよ!! 今度という今度は許さないわよ!! わかってるの!? 私本気よ!? 本気で……うゎぁぁああん!! エリクが死んじゃうかと思っでぇ!! わだじはぁぁああ!!!」
ダメだ。止まりそうにない。なんか皆の視線も痛い。
本っっっ当にすみませんでした……。
『あらあら♪ ふふ♪ 愛されてますねエリクさんは♪』
は?
『早速可愛い妹に会いに来ました♪ あら? まだ寝ているようですね。仕方ありません。このままエリクさんに話し相手となって頂きましょう♪』
え?
『あ、ご心配なく。このまま頭の中で考えて頂ければ伝わります。どうか私のことには言及なさらないでください。理由はお気になさらず。これも辻褄合わせというやつです。それともあれですか? エリクさんの場合は脳みそで考えているわけではないのでこの表現は不適切でしたでしょうか?』
いや、あの……。
『戸惑っていらっしゃいますね。これは空気を読めていませんでしたね。後でまた出直しましょう。どうぞ今は愛する恋人さんを慰めてあげてください。それではまた』
えぇ……。
あ、なんか本当にどっか行っちゃったっぽい。気配を感じない……まあいいか。後で考えよう。
「そっかぁ~♪ ソラって言うんだね~♪ えへへ~本物のドラゴンだぁ♪ さっすがクーちゃんだね♪ 凄いよね♪ え? クーちゃんに支配されてるわけじゃないの? そうなの? でもクーちゃんのこと主様って呼んでるよね? え? 言えないの? そうなの? なんで? 良いじゃん。教えてよ。ボクもソラ君のお友達になりたいんだぁ。良いでしょ? 良いよね? やったぁ~♪ ふふ♪ こんなにすぐドラゴンともお友達になれるなんてね♪ 嬉しいな♪ 楽しいなぁ♪ え? 空気を? あ、そうだったね。うん。ふふ♪」
一人やたらと楽しそうなのがいるなぁ。アウルムですら心配そうにパティの足元でウロウロしてるのに。それとソラの声って必ずしも皆に聞こえるわけじゃないんだな。私も気をつけよう。なんか変な人だと思われるのもあれだし。
「エリク!!」
「安心しろ。パティ。私はここにいる。どうか泣き止んでおくれ」
パティを抱きしめて宥めている内に日も暮れていった。目覚めたオルニスとユーシャは少し混乱していたが、泣きじゃくるパティの姿を見てかえって冷静になったようだ。その内にユーシャとシュテルも一緒になってパティを抱きしめ始めた。パティが落ち着いたのは夜になってからのことだった。
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「グズッ……」
家に帰り着いてもパティは未だに顔中腫らしたまま私に縋り付いて鼻を啜っていた。思い出すとまだ涙が溢れてしまうらしい。
「皆。悪いが先に屋敷に入っていておくれ。留守番組を安心させてやりたい。それにまだまだ夜は冷えるからな」
「はい。エリクちゃん」
レティが代表して皆を引率してくれた。私はパティを抱きかかえたままソラの背に残った。
「ソラ。すまんが少し付き合っておくれ」
『あいあいさ~』
屋敷の庭から再び飛び立つソラ。町の人々が騒がしい。違った。騒がしているのは私達だ。すみません。
明日の朝一でギルドに出向かねばな。ついでにアウルムの登録も済ませておくか。結局未だにしてなかったし。ファムの判断でも認めてもらえるかな? そこんとこもナタリアさんに相談してみよう。
「パティ」
抱きしめたパティの耳元で囁くように名を呼んでみる。擽ったそうに軽く頭を振ったパティは私の胸元に耳を押し当ててきた。どうやらお気に召さなかったらしい。今はそんな気分じゃないのだろう。
「……心臓の音がちがう」
「元からだ」
私キメラだし。
「……でも生きてる」
「うむ」
「……ばか」
「うむ」
本当にバカな真似をしてしまった。何かあれば一目散に逃げろとは私が言ったことだったのに。
「……そもそも真正面から挑戦を叩きつけるなんて打ち合わせに無かったわ」
「……そうだったか?」
あれ? そういう感じじゃなかったの? 勘違いしてた?
「……バカ」
「すみません」
「わからずや」
「仰るとおりです」
「あんぽんたん」
「はい」
「調子に乗りすぎよ」
「反省してます」
「嘘つき」
「今度こそ」
「信じてあげない」
「取り戻さなくちゃ」
「……なら証明して」
「……パティ」
パティの頬に手を添えてこちらを向かせる。
パティの瞳が潤んでいるのはどんな理由だろう。まだ泣きそうなのだろうか。
そんな事を考えている内に私は自然とパティを引き寄せていた。パティからの抵抗は感じない。もしかしたら驚いて固まってしまっているのかもしれない。様子を見てみたいところだが、今はもう少しだけこうしていよう。
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「バカ」
「なあ、もう許しておくれ」
「うっさい!」
おかしいなぁ。さっきはあんなに嬉しそうにしてくれていたのに。もしかしたらユーシャ達に罪悪感でも感じているのだろうか。とは言え、流石にユーシャとはもう先にしたのだと言うべき場面でもあるまい。きっとパティは自分こそが私の初めての相手だと思っているのだろうし。
「ふひ♪」
たまに怪しい笑いが漏れている。相変わらずこちらを向いてはくれないが、嬉しく思ってくれているのは間違いなさそうだ。
「ソラ。そろそろ帰ろう」
『ちゃんと守ってよ。主様』
「うむ。約束は違えぬとも」
今日のところはソラの側で寝ずの番だな。夜中の内に屋敷に焼き討ちでもかけられたら堪らないし。
例えそうなってもソラ本人は痛くも痒くもないだろうけど、攻撃されること自体が鬱陶しい筈だ。ソラのメンタルケアも主となった私の役目だ。ついでにゆっくり話でもしておこう。まだまだ主としては認められていないのだろうし。
「……私も付き合う」
「良いのか? 明日も学園……いや、なんでもない。頼むパティ。今は出来るだけ一緒に居たい」
「……うん♪」
良かった。元気になってくれたようだ。パティとも心ゆくまで語り合うとしよう。




