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03-51.禁忌の実験

「おい……嘘だろ……」


「「「……」」」


 アウルムが捕獲してきてくれた小鳥を実験台にゾンビ化が可能かどうかを確かめてみた。その結果は想定を大きく外れたものだった。


 ……いや、正確には直前になってこの可能性にも思い立ってはいた。ただこうして結果を見るまで信じられなかっただけで。



「ピィ~♪」


 小鳥は私の肩に飛び乗って嬉しそうに頭を擦り付けた。どう見てもその姿は生きたままのものだ。確かに一度は眼の前で喪われた筈の命だったというのに。



「蘇生が早すぎたのかな? 今度は少し時間を置いてから試してみようか」


「待て! 待て!」


 慌ててファムの伸ばした手から小鳥を庇う。



「あ、そっか。もうその子もクーちゃんの眷属だもんね。ごめんごめん。アー君。悪いけど次の子探してきてくれる?」


「◯!」


「いや待てアウルム。必要無い。大体わかった」


「わかったって? ゾンビ化の方法も?」


「……いや、ドラゴンを従える方法だ」


 小鳥の小さなものではあったが、確かに手応えを感じた。少なくともこの世界の生物については、肉体の生命活動が終わった瞬間に命が潰えるのでは無いのだろう。厳密には魂さえその肉体の近くに残っているなら蘇生が可能なのだ。


 ただし一度でも肉体が死を迎えると魂は肉体を離れようとしてしまう。その時点でただ肉体を修復しただけでは蘇生まではせんのだろう。


 私は今、離れようとしていた小鳥の魂を掌握し、完全に離れてしまう前に肉体へと定着させ直した。なんとなくではあったが、それが出来てしまった。


 恐らく既に幾度も魂への干渉を経験していたからだろう。ここは正直曖昧な部分もあるが、そう何度も実験はしたくない。命を弄ぶ所業だ。必要最低限に抑えるべきだ。



「食費はどうするの?」


「心配するな。それ以上に稼ぐ」


 何なら現物を調達してくれば良いんだし。アウルムの収納能力を使えば大量に確保出来るのだ。



「実験に使う子達の事が気になってる? それならいっそドラゴンをゾンビ化出来た方が喪われる命は少なく済むんじゃない?」


「バカを言うな。生きるために食らうのと一緒くたにする事ではあるまい」


「そんな事言いだしたら冒険者なんて成り立たないじゃん。人間は食事以外の理由でも魔物やその他の動植物の命を奪うものだよ」


「だからと言って蘇生させる前提で奪うのは違うだろう。私の力はおいそれと使って良いものではない」


「その詳細がわからないままだといざという時に困るよ? 何秒までなら蘇生が可能なのか。肉体の体積と猶予時間に関係はあるのか。普通の動物と魔物とでは違うのか。何度蘇生すれば無理が生じるのか。損傷具合との関係は。せめてその程度は確認しておかないとでしょ?」


「しかし……」


「誰かが命を喪うような極限状況下で不安を抱えたままなんて最悪だよ? 一分保つからそれまでにクーちゃんを届かせようとか、作戦の立てようだって生まれるでしょ? 知識は武器だよ。身を守る盾にもなる。それそのものに善悪なんて無いんだよ」


「うむ……」


「アー君。次はもう少し大きい子が良いな。探してきてくれる?」


「◯!」


「いや待」


 私が静止の言葉が発しきる前にアウルムが何かを吐き出した。



「すごいね♪ 大物だね♪ フォレストウルフだね♪ アー君が仕留めたんだね♪ しかもこの子ボス個体じゃない?」


 アウルムが吐き出したのは狼の亡骸だ。肉体は傷一つ無く新鮮な状態だ。しかしどう見てもとうに命は喪われている。恐らくアウルムが森で暮らしていた頃に仕留めて格納しておいたのだろう。魂が抜けたのはいったい何時頃なのだろう。格納空間で命を落とした場合、魂はどこに消えるのだろう。或いは今もまだ……。



「試してみよう?」


「うむ……」


 狼の亡骸へと魔力を流し込む。この狼はやはり魔物だったか。まだ魔力の残滓を感じる。恐らく食事前なのだろう。アウルムはいくつかこうして貯めているのかもしれない。



「……ダメだな。やはり魂が存在せん。蘇生は出来んな」


「つまりスタート地点ってことだね。さてどうやってゾンビ化させようか♪ クーちゃんが魂作ったりは出来ないの?」


「少し待て……」


 正直魂の生成は不可能だ。どうやったらいいのか皆目見当もつかん。私は回復薬だ。ディアナの完治が不可能なように、回復以上の事をしたいなら聖女の杖……あ。



「ユーシャ。シュテルを呼んできておくれ」


「うん。わかった」


 程なくしてシュテルを連れたユーシャが戻ってきた。



「シュテル。この魔物を生き返らせられるか?」


「う~?」


「私の思い描くイメージを現実のものとしてくれるか?」


「う~!」


 早速シュテルは私に飛び乗って肩車の体勢になり、力を使う為の集中を始めた。


 私も魂の形を思い描いていく。基本的に魂は殆どの場合変わらない。小鳥でも人間でも蜘蛛でも魔物でもだ。似たようなものを思い描いておけば後は杖の補助機能で補ってくれるだろう。その分魔力は多く必要になるだろうけど。


 シュテルは私から魔力とイメージを吸い上げながら集中を続けた。私もより正確に具体的にと、魂のイメージを作り上げていく。



「まぁま……」


 暫くしてシュテルが困り声で話しかけてきた。



「無理だったか。まあ気にするな。元よりダメ元だ」


「う~」


「どうした?」


「ちゃ~の~」


「違う? 何がだ?」


「おねーちゃ。の~」


「ユーシャの?」


「もっか!」


「もう一度か? ……ユーシャの魂をイメージして?」


「う~!」


 ……正直心当たりはあった。ユーシャの魂だけが他の者達とは違うのだ。何か特別な存在なのは間違いない。けど私は見ないフリをしていた。深く考えるのを避けてきた。まるでその答えを突きつけられた気分だ。シュテルは何も気にしていないようだが……。



「まぁま!」


「う、うむ。やろう。先ずは試そう。考えるのはその後だ」


「う~!」

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