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03-50.求めるもの

「つまりだな。マーちゃん」


「はい♪ わかっております♪ 私はクーちゃん様の魔力に染められてしまったのですね♪」


 なんとか隣に座らせて説明してみたものの、マーちゃんは全く抵抗することなく自らの変化を受け入れてしまった。



「良いではないですか♪ クーちゃん様の偉大なお力を実感出来たのですから♪ どうぞこのまま眷属として生まれ変わらせてくださいませ♪」


「ずるい。ボクだってなりたいのに」


「せんぞ。眷属は特別なのだ。それにあの程度の魔力で酔っているようではな。もっと魔力が欲しければ打ち勝ってみせよ。身を任せるのではなくな」


「なるほど♪ これは試練なのですね♪ 承知致しました! 必ずや乗り越えてご覧に入れましょう♪」


 そう言いながら私の肩に頬ずりするマーちゃん。



「試練なんてあるの? ボクには課してくれないの?」


 おい。急に鈍くなるな。試練なんぞあるわけなかろう。頼むから口裏を合わせてくれ。


 そんな風に思いながらファムに目配せを送ると、理解したのかしてないのか、ちょっと機嫌を損ねた感じに視線をそらされてしまった。



「良いけどさ。ボクは他のことで役に立つつもりなんだし」


「そうだ。アウルムのことだがな」


「アー君の身体に魔力流したいんでしょ。たぶんボクなら出来るよ。勿論クーちゃんが眷属にしてくれたらだけどね」


 おっと? 助け舟かと思ったら罠だったぞ?



「錬成術の応用だよ。口で説明するのは難しいんじゃないかな。頑張ってクーちゃんが覚えてみる? 流石に残り二ヶ月じゃ厳しいだろうけど、クーちゃんならきっと出来るようになるんじゃないかな? わかんないけど」


 曖昧だ。そこはかとなく誘導しようとしている。中々の策士だな。ファムがこんな風に仕掛けてくるとは少し意外だったな。



「つまり私がファムの身体を通じてアウルムに魔力を流す際、ファムはその魔力に干渉出来ると言うのだな?」


「うん。なんだか出来そうな気がするんだ」


 こっちも曖昧だ。正直者だな。



 しかしどうしたものか。魔導を扱うには大前提として魂の呪いを解かねばならない。そうでなければいくらファムでも魔力に干渉する事は叶うまい。そもそも魔力を操れないのだからな。


 だが呪いを解くという事は眷属化と同義だ。フックを掛けるかどうかの違いでしかない。魂を私の魔力で染め上げる処置はどうしても必要だ。


 そもそも問題視しているのは、呪いを解く際に私の魔力が大量に流れ込むことで、対象者が重度の依存症を引き起こしてしまうことだ。


 試しにシュテルに頼ってみるか? 今のシュテルに上手く伝わるか? 流石にいきなり人体実験は怖いな。だが人以外に呪いを持つ存在はおらぬのだ。


 それに呪いを解くことが出来るのは私がエリクサーだからこそなのかもしれんのだ。私はこれでも女神の生み出した万能回復薬だ。シュテルと同格の神器だ。それぞれに得手不得手があったとしてもおかしくはない。



「ユーシャはどう思う?」


「眷属化なら好きにしちゃえばいいじゃん」


「賛成していたのか?」


 意外だ。怒っているものとばかり。



「眷属はエリクの所有物でしょ。お嫁さんとは違うんだから好きにして良いよ」


「しかしなぁ」


「手放すつもりなんて最初から無いんだから一緒でしょ」


 それはそれだ。



「違うのだ。私が懸念しているのはだな」


「わかってる。エリクは純粋な好意が欲しいんでしょ。けどそんなの私のだけで十分でしょ? 加えてパティとディアナもいるんだよ? 他の人の感情なんて作り物で良いじゃん。そんな風に拘ってることこそ浮気だって気付かないの?」


 うぐっ……仰る通りです……。



「わかったならさっさと皆眷属にしちゃいなよ。私だけは純粋に愛してあげるから。それともエリクは私だけじゃ不満なの? 私の愛は信じられない? もうとっくに魔力に染められていたせいだとでも思ってるの? 本当は私以外の誰かに純粋な愛を求めていたの? だから浮気を繰り返すの?」


「ちがっ」


「違わないでしょ? エリクはそう思ってるんでしょ? けど大丈夫。心配要らないよ。私だけがエリクを純粋に愛してあげられる。全部エリクの勘違いだよ。私だけは大丈夫。けどパティとディアナにだってそれは出来ない。二人だってエリクの魔力の影響を受けてるんだもん。勿論それだけだとも思ってないけどね。けどこれはエリク自身の問題だから。エリクがそうと思えばそこまでだから。だから信じて。盲信して。私だけを見て。それで全部上手くいくよ」


「ユーシャ……」


「そんな不安がらないで。大丈夫。全部許してあげるから。エリクが私だけを特別に想ってくれる限り私も不安なんて無くなるんだから」


 ユーシャは正面から私を抱きしめた。その胸に私の頭を抱え込み、宥めるように私の頭を撫で始めた。



「ユーちゃん……あの……」


「ファムはどっちが良い? エリクの所有物と恋人。二つに一つだよ。ハッキリと分けてしまおうよ。ごっちゃにするからエリクが苦しむんだよ。エリクが決められないなら私達で決めちゃおうよ。アウルムなら解呪も出来るんじゃない? エリクの決断を待つ必要なんて無いよね。どう? 名案だと思うでしょ?」


「それは……ボクは……」


「ファムも不安なの? ただの所有物だと愛してもらえないから? そんな事は無いよ。お人形さんだって大切にしてもらいたいと思うのは当然でしょ? だからって飾りっぱなしじゃ寂しいでしょ? 大切に大切に。けど何時でも一緒に。手元に置いてもらえばいいんだよ。エリクが寂しくなればお人形さん相手に愛し合うこともあるかもね。私だってそこまでは怒らないよ。だって寂しくさせてしまったとしたら私のせいだもんね。だから少しくらい見逃してあげる。エリクがお人形遊びをしていても見て見ぬ振りをしてあげる。ほら? 不安なんて要らないでしょ?」


「……ボクは所有物でも、ペットでも良いって。そう思ってた。クーちゃんにもそうお願いしたの……」


「ほらエリク♪ ファムもこう言ってるじゃん♪」


「けど!」


「けど?」


「やっぱりやめた。眷属化なんて頼らない。ボクはクーちゃんの恋人になりたい。ユーちゃんには負けないよ」


「そっか。ファムがそう言うなら無理やりは良くないよね」


「え? 良いの?」


「何が?」


「何がって、その……ボク、ユーちゃんからしたら横恋慕してるのかなって……」


「それでなんでファムに怒るの?」


 ユー……シャ?



「いや、だって……」


「エリクが素敵なんだから仕方ないじゃん。好きになって当然だもん。だからなりふり構わず近づきたくなる気持ちはわかるよ。だからってエリクを困らせたらダメだよ。眷属になりたいなら道具になってね。そう割り切らなきゃダメだよ。それだけ約束してくれるなら怒ったりしないよ」


「うん。約束する」


 違う……ユーシャがこんなこと言うはず……。



「良かった♪ わかってもらえて♪ ティナはどうする?」


「眷属に!」


「ティナ!? 話聞いてなかったの!?」


「勿論聞いておりましたとも! 姉さん程ではありませんが私も錬成術は扱えます! 姉さんがやろうとしていたことにも見当はついています! きっと私でも出来るはずです! ですから姉さんの代わりに私を眷属にしてくださいませ! 必ずやお役に立ってご覧に入れます!」


「いやいや! その後だってば!」


「クーちゃん様の所有物となればその伴侶となる姉さんも私を所有することになるのですよね? リリィとスノウお姉様のような関係となれるのですよね? それもとっても素敵だと思うんです♪ 大丈夫です姉さん♪ 私には姉さんがいます♪ クーちゃん様に相手にしてもらえず寂しい時は姉さんに遊んでもらいます♪ なんの心配も要りません♪」


「何言ってるの!? 本当に意味わかって言ってる!?」


「観念してください♪ 姉さん♪」


「ちょっと!? 待って!? 近づかないで!?」


「逃げないでください!」


「二人とも落ち着け。ダメだ。どの道今のマーちゃんを眷属にするのは認めんぞ。例えアウルムが呪いを解けたとて、それだけで眷属に出来るわけではないのだ。最後の仕上げは私が直接施さねばならん。私が認めん限り眷属化は無しだ」


「ならどうするの? アウルムに魔力流せなきゃ、ドラゴンだって従えられないんじゃないの?」


「……ドラゴンゾンビとかどうだろうか?」


「面白そうだね。アー君に制御を任せられないかな?」


 ファムってそういう……。


 いや、こんなこと思いつきで提案する私もあれだけど。


 ファムは魔物と友達になるのが夢だったと言っていたから、もっとクリーンなやつかと思ってたけど、割とマッド寄りの研究者なのかもしれない。早い段階で自分をアウルムと同じ存在にしてくれとか言ってたし、下手すると自らの身体を使った人体実験とかも抵抗が無いのでは?



「そんな目で見ないでよ。言い出したのクーちゃんじゃん」


「すまん……」


「でも実際良い考えだと思うよ。生きた飛竜種なんて食費も馬鹿にならないし。まあゾンビはゾンビで維持も大変かもだけど。でも飛竜種、特に魔力を多く持つ種って亡くなってからも暫くは肉体がそのまんま残るんだよ。だから魔力さえ供給し続けられるなら肉体だけを完全な状態で生かし続けられるかもしれないね」


 その点は私の力でも問題あるまい。魔力を流すだけで身体の鮮度は維持されるだろう。当然死者に通用するならではあるが。命が失われるとエリクサーの効果が出ないとかだと問題だ。


 けど実はそこの心配も無いのではと思っている。というのも私のこの身体が再生したからだ。以前ベルトランに切りつけられた腕の傷が勝手に治っていた。私の体は魔物の素材を寄せ集めたキメラだ。ある意味ゾンビと似たようなものだ。検証は必要だろうけど、この仮説には結構自信があるのも確かだ。



「早速試してみよう。アー君。鳥か何か獲ってきて」


「◯!」


 先程までの空気はどこへやら。既にファムは研究者モードに切り替わったようだ。

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