03-48.方針会議
「結局焚き付けただけになったわね」
「無理もないわ。エリクを攻略できなきゃ追い出すって言ったようなものだし」
「そもそも二人はエリクちゃんに特別な好意を持っていたわけでもなんでもありません。恩義は感じていたでしょうがそこまでです。だと言うのに一方的にフラれたのです。しかも貴族令嬢としての未来を利用する形で強引に勧誘された上でです。ムキになるのも当然です。ひどくプライドを傷つけられたのです。だからってこっちの方向に振り切れたのは出来過ぎとも思いますが」
「コレがハニィ~のテクってヤツデェ~スネ」
「勉強になります! 先生!」
「ダメだよシルビア。そんなの学ばないで」
そうか。この状況はやはり私のせいか……。
というかレティだけ本気で怒ってない? 私そんなに酷い事したのか……ごめん。そこまで考えて無かった。本当に良かれと思って……いや、これ以上言い訳はすまい……。
膨れっ面で私の両脇を占拠するマルティナとヴァレリア。一応まだ話は終わっていないから解散するわけにもいかぬからな。仕方ない。このまま話を進めるとしよう。
「それで今後の事だがな」
「話進めるのね。あのまま」
「満更でも無いのね。やっぱり浮気者だわ」
「頼む。少しの間だ。見逃しておくれ」
「少しじゃないし!」
「ずっとです!!」
あかん。一回休憩入れるか……。
「ユーシャ。そろそろシュテルが心配になってきた。一緒に様子を見に行こう」
「心配要らない。スノウ達が見てくれてるもん」
ユーシャは何故か面白がっている。自分の腰に回された私の手を弄りながら、こちらも向かずに嬉しそうな声だけで答えた。機嫌を損ねていないのは何よりだが、どうやら逃がしてくれるつもりも無いらしい。この状況はどうしたら収拾がつくのだろうか……。
「それで今後の予定だがな」
「強引ね」
「無理やり過ぎるわね」
やかましい。
後でパティとディアナの機嫌もどうにかせねばな。
「クランの件と一緒にギルドとの諍いは軽く説明したな。そこまでは良いか? 疑問のある者はいるか?」
取り敢えず大丈夫そうだ。話を進めよう。
「私は飛竜を眷属にするつもりだ。実験としてオルニスとアウルムを支配下に置いた。アウルムの方はまだ完全とは言い難いがな。そこでパティとファムには引き続きアウルムの件で相談に乗って欲しい。頼めるな?」
「勿論よ。けど何時までも時間を掛けてはいられないわ」
「そうだな。目標は残り二ヶ月だ。それで全てを終わらせよう。飛竜を使役するのはあくまで最初の目標だ。私達の本命はその後だ。王都近郊の高ランク魔物を狩りつくそう。皆にはそれを手伝ってほしい。飛竜に乗って空から最高火力の魔術を放ってもらう。その為には頭数が必要だ。パティ、レティ、ロロ、スノウ。そしてマルティナ。このメンバーが砲台代わりだ。ここまでで異論のある者はいるかね?」
「ボクは? そっちはいいの? 魔術使えるよ?」
「前に言っただろう。ファムに頼むのはあくまでアウルム達の研究と世話だ。ファムが魔物の討伐に抵抗を持たぬのもわかってはいるが、私達がやろうとしている事はそれとも全くもって違うのだ。私達はまともに正面から闘いを挑むわけではない。空から魔術を雨と降らせて一方的に殲滅するのだ。きっとファムはその光景に心を痛めるだろう。だから連れて行くつもりはない。この家で留守を守っていておくれ」
「……わかった」
「クーちゃん様」
「なんだ。マルティナ」
「マーちゃんとお呼びください」
「……なんだ? マーちゃん?」
「呼ぶんだ」
「ズルいわ」
「あの子やりますね」
「ハニ~? ローちゃんッテ呼ンデモ良イデスヨ~?」
「なら私はシーちゃん?」
呼ばんぞ。
「クーちゃん様。私は然程魔力が多いわけではありません」
「心配するな。私の魔力を貸し出してやる」
「ねえ? もしかしてエリクは魔力壁でも出して触らせるつもりなの?」
「いや。それよりもっと簡単だ。魔装を使おう。そっちの精度も高めておきたい。パティ。レティ。後で相談に乗っておくれ」
「それは構いません。ですが」
「素直に眷属にしちゃえばいいじゃない」
「ダメだ。蒸し返すな」
「この話の後で話し合いましょう」
少しだけ久しぶりだ。パティが例の件で食い下がるのは。しかもレティもパティ側につくようだ。既に私の眷属であるレティにとっては然程重要な話でも無いだろうに。パティのお姉ちゃんとして味方するつもりか?
「何やら秘策をお持ちなのですね」
「マルティナは聞いていないのか? レティと筆頭王宮魔術師サロモン翁の決闘を」
「マーちゃんです。クーちゃん様。生憎と詳細までは」
「その件も後程話し合おう。そうか知らぬか。ならば私の力について詳しく話してやろう」
「お願い致します」
まあそんな事もあるよな。もしやするとアンヘル卿が意図的に届かんようにしていたのやもしれぬな。理由まではわからんけど。
あれか? 今回ファムを救い、ベルトランを動かした事で信頼を勝ち取っただけで、実は以前のアンヘル卿は私を警戒していたのか?
その可能性もありそうだな。もし会う事があったら特に言動には気を遣うとしよう。まだまだ大切な娘を託すのは本意でも無いのかもしれないし。わからんけど。
「ともかくだ。先ずは前衛と後衛に別れて鍛錬を始めておくれ。それから研究班だな。パティ達は特に忙しくなるだろうが、これからよろしく頼むぞ」
「ええ。必ずやり遂げましょう」
「結局私は何するのかしら? 前衛?」
「ディアナは勉強に決まっておろうが。クランへの参加は入学するまで認めんぞ」
「そんなぁ!? せめて試験が終わるまでにしてよ!」
編入試験までは後一月程だからな。言いたくなる気持ちもわからんでもない。だが。
「バカを言え。無理に決まっておろう。問題を起こして入学が取り消されたらどうするのだ」
「そんなの入学した後でも一緒でしょ!」
「屁理屈を言うな。いいから大人しくしておけ」
「ねえ! パティからも何か言ってよ!」
「今回ばかりはエリクが正しいわ。諦めなさい。ディアナ」
「そんなぁ!?」
まあ、もうあと少しの辛抱だ。頑張れディアナ。負けるなディアナ。




