03-47.半端な覚悟
「男性用の義体も作りましょう」
「それは禁句だ。絶対に認めんぞ。そもそも子は成せん。意味もなかろう」
なんかパティが素っ頓狂な事を言い出した。私はただ結果と決意を話しただけなのに。どうしてそうなるのか。
「別にそこまでの機能を求めているわけじゃないわ。そうじゃなくて妖精王エリクの表向きの器よ。私達の主として相応しい風格を示しましょう」
「今のままでは威圧感が足りないと?」
「無いでしょ。どこからどう見ても可愛い女の子よ」
もちろんクシャナが可愛いのは認めるがな。それはそれとしてだ。
「男性義体の有用性については理解もしよう。対外的にも私のような可憐な少女より、屈強な大男がここは自分の縄張りだと示す方が効果もあろう。だがダメだ。そこは偽らんぞ。皆が勝手に勘違いする分には構わんがな。だが私が選んでしまえば意図的に騙す事になる」
「そうね。嘘はつきたくないわよね。それにもう一つ問題もあるものね」
「そうだ。わざわざ男性義体まで用意してしまえば、それはある意味一人の人間の器に押し込まれるのと同義だ。誰も真の正体を知らぬからこそ妖精王は畏怖されるのだ。自ら底を見せるようなものなのだ」
「見た目から受ける印象って想像しているよりずっと影響力の大きなものなのよね。大柄な男性としての威圧感を得られても、代わりに人間としての枠組みに囚われてしまうのね。わかったわ。もう言わない。男性義体は無しってことで」
「うむ」
この様子だとパティも本気で言っていたわけではないようだ。思いつきをパッと言ってみただけなのだろう。
「ところで何故ユーシャを抱き締めているのかしら? 今って結構真面目な話をしているのよね?」
「だからこそだ。私の気持ちをちゃんと伝えねばならん」
ユーシャにも最後まで話を聞いてもらわねばならん。途中で逃げ出すなり怒るなりされると困るからな。話を始める前からこうして膝の間に座らせておいたのだ。その甲斐あってか、今のところは大人しく話を聞いてくれている。
「つまりエリク王様になるんでしょ? なら私が女王様?」
よかった。一応聞いていたようだ。
「そうだ。ユーシャが一番だ。それだけは皆にも理解してほしい」
「とっくにわかってるわよ。今更見せつけられなくたって」
「そうよそうよ」
パティとディアナが茶化し半分、怒り半分みたいな顔してる。やっぱり納得しきっておらんだろう。
「パティとディアナは側室だ。レティ、ロロ、シルビア、ファムについては現状維持だ。それで今回はマルティナとヴァレリアの件だがな。今のところ二人を恋人のように扱うつもりはない。だが受け入れはしよう。後は今後の流れ次第だ。二人も焦らず考えてみておくれ。心配は要らん。もし出戻りとなっても二人の価値を釣り上げてからお返ししよう。具体的には魔導を伝授する。これで将来は安泰だろう。なんならその際には私が女性である事を公表してもいい。そういう意味でも二人の人生に悪影響は残さぬと約束しよう」
「待って! 待ってよエリクさん! 勝手に進めないで!」
「そうです! クーちゃん様! それではあまりに一方的過ぎます!」
「悪いがこれは決定だ。別に二人の覚悟を軽んじているわけではない。貴族の子女だからな。そういう事も理解はしているのだろう。当然それはわかっている。だから今後も絶対に二人をそういう目で見れないと言っているわけでもない。共に生活していれば関係が深まる事もあるだろう。その時はその時だ。しかし今すぐに全てを受け入れるつもりはない。受け入れるのはあくまで共に暮らすところまでだ。そう理解しておいておくれ」
「納得いかないわ!!」
「そうです! 私達の覚悟を甘く見ないでください!!」
あかん……ダメそう……。
「ダメよ! エリクさん! わざわざ父様達にまで確認させておいて今更それは無しでしょ!」
「無責任が過ぎます! そういう意図が無かったなんて今更通用しませんよ!!」
「もちろん対外的には受け入れるとも。二人の公の立ち位置は妖精王の花嫁だ。それを殊更に否定したりはするまいよ。そもそも私自身意図した流れでもある。本心としてはあくまで共同生活について提案したに過ぎんがな。仲の良い姉妹を共に居させてやりたいと願ったが故だ。だから私の覚悟は半端なのだ。どうか理解しておくれ」
「「そんな……」」
「エリク」
「すまんな。ユーシャ」
「違う。足りないでしょ。それじゃ」
「足りない?」
もっと強く否定しろと? いや、そんな感じはせんな。ユーシャは驚く程落ち着いている。正直機嫌を損ねると思っていたのだが。
「なんで今更そんな事言い出したのか。ちゃんと最初から経緯を説明しないと誰もわからないよ。エリクが頭の中で考えてる事が皆と同じ考えだとは限らないでしょ」
「……そうだな。ユーシャの言う通りだ」
しかし困ったな。最初からとはどこから話すべきか。
私とユーシャの馴れ初めか? 或いはディアナやパティとの出会いからか? それともこのお屋敷でのこと? いや、そういう事ではないよな。重要なのは。
「マルティナ。ヴァレリア。先にはっきり言っておこう。私はユーシャを最も愛している。次点でパティとディアナだ。他はその次だ。二人はレティ達の末席に加わっただけだ。抱え込んだ責任は果たすがそこまでだ。恋や愛を求めるならば自らの手で掴み取れ。しかし耐えられなくなれば実家に帰って貰って構わん。無理強いはせん。うん? なんだ?」
話の途中でユーシャに手の甲を抓られてしまった。別に痛くはないけど。
「違う。エリク。そうじゃない」
「違う? 何がだ?」
「エリクは何故二人が妖精王の花嫁として扱われるとわかっていて誘ったの? 姉妹を一緒に居させてあげたい事以外にも理由があるのでしょう?」
見かねたパティが代わりに問いかけてきた。
「二人と私達の現状について周囲が勝手に想像し、盛り上がるのを嫌ったからだ。取り立てて深い意味があるわけではない」
「それだけ? 本当に?」
「だが必要だろう? 冒険者として連れ回すつもりならば尚の事だ。最悪怪我などさせたとなれば私は責任を取る必要がある。治療が可能であろうともそれは変わらん。傷をつけたという事実そのものが問題となるのだからな」
「そういう考えを話せと言っているのよ。それもそれで明確な理由じゃない」
「そうか。そうだな。うむ。まあ、あれだ。だから都合が良かったのだ。私が二人の一生を世話するつもりだと思われるのは。もちろん責任は果たす。その覚悟はある。だが二人自身がそこまで望んでいるとは思っていない。だから逃げ道も用意した。私達の現状も正確に伝えた。これは私なりの誠意のつもりだ。二人も好きに動け。好きに判断しろ。私達は二人を歓迎する。仲間としても家族としても。それ以上に関係を深めるにせよ、それ以上は望まぬにせよ、後の事はお前たち次第だ。私は誠心誠意向き合うと約束しよう」
「なら答えは一つよ! 私負けるの嫌いなの!」
「姉を救って頂いた恩義に報いねばなりません! お覚悟をクーちゃん様!」
「まあ、待て。お前たちはまだ若い。そう結論を焦るな」
「どっちなのよ!!」
「ハッキリしてくださいませ!!」
「何故だ……何故伝わらんのだ……」
私か? 私がまだ何か決めねばならんのか?
「半端に親目線なのよね」
「けど端から聞いてると最低よね。エリクって」
「本当は責任取りたくないって言ってるようにしか聞こえないですからね」
「ソレも事実デェ~ス。ユーシャが怖イノデェ~ス。ハニィはタダのチキン野郎デェ~ス」
「うわぁ~♪ うわぁ~♪ これって私の事もだよね♪ そう受け取って良いんだよね♪」
「シルビアって前向きだね……ボクは結局どういう扱いなんだろう……なんだかよくわかんなくなってきちゃった……」